ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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特級ダンジョン ウミノトモ

第464話 ウミノトモ その2

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「クソっ、鳥も増えてやがる」
「チアキさん、鳥の腹側の影を使ったら落ちますよ。
【シャドーバインド】――ね?」

 こちらを馬鹿にするようにクルクル旋回している鳥の羽の下、付け根あたりに影を生やして羽ごとグルグル巻きにすれば、唯一動く頭だけをブンブン振り、ケーと鳴きながら鳥が急降下してくる。
 地上の蔓草は冷静になった白雪さんとイブさんによって燃やし尽くされています。

「おぉ、確かにそれいいな。影よ【シャドーバインド】」

 チアキさんも重力をかけて落すよりも、陰でぐるぐる巻きにして落す事にしたので、あっという間に鳥は落下してきました。飛べない鳥はただの鳥……。いや変わってないか。
 という事で砂地にくちばしが刺さった状態の黄色い鳥は身動きを取ることもできずに首チョンパですよ。
 ドロップアイテムは魔石と鳥の羽。

「オークとオークナイトですね。皆さんは大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと油断したけど大丈夫だ」
「私もいけます」
「我も問題ない」

 という事で全員が臨戦態勢を整えたところにオークの軍勢……?

「オークナイトの肉は確保でお願いしますよ」
「コイツ素早いな」

 バレンさん達はいつも通りに戦っているんだけど、私とチアキさんだけはちょっと固まってしまったよね。とりあえず気を取り直して戦わないとですね。
 オークは既にダルスさん達が分断してくれているので、気になるオークナイトさんですよ。とりあえずこん棒でぶん殴ろうとしてくるのは見たことのある攻撃なので、まずは攻撃無効化させましょうかね。

「【ウォーターウォール】」

 水の壁に閉じ込められたオークナイト二匹は更に分断して一匹ずつに。それからゆっくり鞭で首チョンパすれば安全で早い討伐ができるのだ。

「うっわぁ~。その鞭なに? ベルトだと思ってたけど武器だったんだ」
「地元の武器屋さんが作ってくれた魔法武器です。魔力を流したら自分の好きな魔力で鞭が作れるんです。凄く便利ですよ」

 興味津々なイブさんに鞭を渡せば、ルイスさんも顔を寄せて二人で検分なさっています。さて、壁の中にはドロップアイテムの美味しいお肉と、魔石、そしてこん棒が落ちております。いつもと違ったあの装備はドロップアイテムではなかったようですね。

「ベースボールキャップは落ちなかったんだな」
「ですね。まあ落とされても困りますけど」

 そう、このオークナイト、いつもの革の胸当てとズボンだけではなく、何故か青い野球帽をかぶっていたのだ。だからこん棒がバットに見えて笑いそうになったんだよね。

「こん棒は使わないから放置で良いですかね……ん?」
「いらないだろ。ってどうした?」

 水の壁を解除して、肉と魔石を鞄に収納し、こん棒はいつも通り放置しようと思ったところで少し素材が違うことに気付いた。
 よく見るこん棒は、持ち手のところだけがほんの少し細くなっているだけで、2/3くらいは太い木の枝そのまんまって感じなのだ。時々、加工しているのかボコボコしていたり、トゲトゲしている事もあるけど、概ねそんな感じ。
 だけど今目の前にあるこん棒は、とても綺麗に加工されている感じがする。持ち手の下にはすっぽ抜けないように出っ張りが少しあるし、殴る部分も綺麗に磨かれている。まさにバットみたいだ。大きいけど。

「何かいつものこん棒よりもバット感が強いなって」
「どれ、おお、確かに握りやすいな。ん? ちょっと待て。ヴィオこれ匂いを確認してみてくれんか?」
「どうしたんじゃ?」
「何かありましたか?」
「オークナイトの武器がどうかしたの?」

 私とチアキさんがこん棒を手に中々動かないから皆が見に来てしまった。とりあえずチアキさんに急かされたので、結界鎧を頭部だけ解除してこん棒の匂いを嗅いでみた。

「クンクン――ん?」

 なんだか嗅ぎ覚えのある匂いな気がする。チアキさんも頷いているし、まさかアレですか?
 お互いの期待が高まる中、この流れを何度か見ているイブさん以外のメンバーは周囲の警戒に切り替えてくれたみたいだ。
 解体ナイフを取り出して、こん棒の一部を削ってみる。
 ナイフはスルリとこん棒の皮を削り、その削られた場所から見えたのは少し赤みのある中身。
 削った皮を改めて嗅いでみる。

「クンクン――!!! コクリ」
「おぉ! まじか!」

 喜色満面のチアキさんに皮を渡せば、同じ様にクンクンした後、両手をあげてガッツポーズをした。

「うぉぉぉぉ! 鰹節!」
「カ・ツ・オ! カ・ツ・オ!」
「お・だ・し! お・だ・し!」

 チアキさんは皮の欠片を、私はこん棒を持ったままもう一体分のドロップアイテムの周りを踊って回ったのも仕方がないと思う。
 だって、待望の鰹節だよ? 
 まさかオークナイトの武器として手に入るとか思ってなかったけどさ、これでお味噌汁が更に美味しくなるし、うどんも楽しめるようになるじゃん?
 マヨネーズの時に見ていたから、白雪さん達は呆れながらも理解してくれたけど、初見だったイブさんからはこの後しばらく心配されたのも仕方がないけど、甘んじてその心配は受け入れますよ。

 鴨葱じゃないけど、オークナイトが鰹節を持ってきてくれるなんて、なんて最高のダンジョンだ!

「うわぁ、でもこのダンジョン踏破したら無くなっちゃうんですよね」
「鰹節か」
「いやいや、特殊なフィールドに関しては特級ダンジョンならではだけど、魔獣はそれなりに別の場所でも出てくるでしょ。オークナイトなんてどこでも出るし」

 イブさん、それは違うんですよ。オークナイトは今まで確かに色んなダンジョンでいたけれど、野球帽を被っていた奴には会った事が無いんです。野球帽が目印か分からないけど、この野球バット風なのが大切かもしれないじゃないですか!
 それは置いておいて、鰹節が手に入ったので、白雪さんに聖結界を作ってもらって早めのお昼ご飯にする事となった。
 チアキさんがウキウキしながらうどんを準備してくれているので、出汁を準備しましょうかね。
 こうなったらワカメうどんとかにしたいよね。海だからワカメも見つかると良いな。
 とりあえずオークナイトの肉も手に入ったので、肉うどんにしよう。甘辛く煮込んだお肉は後乗せにしておこう。
 まずは鰹出汁の美味しさを味わってもらいたい。

 昆布があれば合わせ出汁になって更に美味しいんだけど、そんな贅沢は言えません。
 こん棒、いやいや、鰹節を鉛筆削りのようにシャッシャと削り、ふんわり鰹節を作っていく。いつもはお手伝いをしてくれる皆も、これは初めてだから見学に徹していますよ。
 これも美味しければ町の人達に教えないといけないしね。

 鍋のお湯が沸騰したところで火を消し、鍋に削った鰹節を投入すれば、ふんわりしていた鰹節が段々水に沈んでいく。
 その間に肉を薄切りにして甘辛く煮込み、刻みネギも準備しておこう。

「手慣れてるよね」
「ダンジョンでの料理はヴィオが一番うまいんだよ。俺たちは野菜を切ったり、炒めたり、スープの準備をしたりしかできないけど、大分上達してきたぞ」

 イブさんとチアキさんの二人旅時代は、碌に料理はしなかったと聞いているから驚きかもしれないね。美味しい物を食べていれば魔力も体力も回復するし、なにより心も回復するからね。
 お肉はダルスさんにお願いして、私は沈んだ鰹節を濾す作業にうつる。
 大きなお鍋に笊を重ね、その上に綿の布巾を一枚乗せる。そこまで準備してうっかりしていた事に気付いた。私の身長を考えれば、この上から鰹節のお湯を注ぐのはかなり難しいという事に。

「ルイスさんすみませんが、このお鍋の中身をこちらに移すのをお願いできますか?」
「ふふっ、勿論ですよ。この中身を布の上に落とす感じで良いのですか?」
「はい、できるだけゆっくりと注いでいただけるとありがたいです」

 時々こうして自分のサイズを忘れちゃうんだよね。
 楽しみにしてもらおうと思ったのに手伝ってもらう事になったけど、ルイスさんは嬉しそうなのでいいかな。
 大きな鍋を傾けながら、ゆっくりと注いでくれるルイスさん。中身は見えないけれどきっと笊の下には綺麗な黄金色のスープが溜まっている筈だ。そしてふんわりと香ってくる鰹出汁の良い香り。

「ほぅ、さっきの木は殆ど分からんかったが、これは良い匂いじゃな」
「あんなこん棒を食べようと思った君たち二人の頭の中身どうなってんの?」
「これは、でき上がりが楽しみだな」

 約一名は辛らつですが、まあいいでしょう。多分これに関しては、お兄ちゃん達でも同じことを言っただろうから。
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