ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
572 / 584
エフタの谷

第505話 精霊たちの相談

しおりを挟む

 丸一日、樽作りを見せてくれたブルさんに感謝です。
 大人になったら作れるようになるのだろうか。いや、かなり訓練が必要そうだし、私は買う一択でいいかなと思いました。

「まだチャーキ達は戻りそうにないわね。今日はどうする?」

 朝食後、タニアさんからそんな事を聞かれる。
 さて、酒樽を作るとなれば数日練習をするつもりだったけど、とてもじゃないけど無理だと分かって諦めたから時間があるんだよね。

『びお……ごめんね』
「ん? どうしたの?」

 肩に座っている精霊たちが、何となくしょんぼりしているんだけど、何故謝られるのだ?

『だって、わたしたちがいるからダンジョンに行けなかったでしょう?』
『びおはダンジョンが好きなのに、私達が来たから行けなくなっちゃったでしょう?』

 泣いてはいないけれど、泣きそうな雰囲気でそんな事を言われたら心配になっちゃうじゃないですか。
 というか、ダンジョンが好きって……。いや、まあ、多分好きな方だとは思うけど。

「ふたりに淋しい思いをさせてまで行きたいって訳じゃないよ? そりゃこれから先ずっと行けないとかは困るけど、今回のダンジョンはどんな場所か分からなかったし、チアキさん達も偵察目的みたいなものじゃない? 気にしないでいいんだよ?」

 両肩の精霊を両手に乗せて、目の前に掲げて大丈夫だと告げる。それでもまだいつもの元気は取り戻してもらえない。
 タニアさんに助けを求めてみたら、ちょっと待っててと言われて一人部屋に残されてしまった。

 精霊同士で何やら話しているけれど、彼らはこちらのどんな言葉も理解はできるのに、私は分かるように話してもらえない限り分からない。
 今回のダンジョンがこないだの海のダンジョンみたいだったら楽しそうだけど、欲しいのは鰹節と海苔とワカメがメインだから、それが定期的に手に入るなら別にダンジョンに何度も通いたい訳ではない。
 世界中のダンジョンに入りたいとは思うけど、絶対にもう一度入りたいダンジョンというのは特にないしね。

「おまたせ~」

 体感十分くらいでタニアさんが戻ってきた。多分精霊と一緒に。
 この子はこの集落に住んでいる子なのかな? 緑の半透明な手のひら大のドラゴンがタニアさんの頭の上に掴まっている。

「精霊の事は精霊に任せればいいかなって」
「この集落にも精霊がいたんですね」
「そうね、エルフの里程多くは無いけど、魔素が多い場所を好むから、竜人族の集落にはそれなりにいると思うわ。うちの場合は風の子しかいないように、他もその土地にあった子がいる感じね」
「だとすればエルフの里って全部の属性がいるから凄いんですね」

 火の近くには火の属性の精霊が、水の精霊は水場にと好きな場所の近くにいたけれど、全ての属性の精霊がいた。それはこの大陸でもエルフの集落でしかありえないんだって。

「他にもエルフの集落があるんですか?」
「あるわね。ハイエルフがいないと北側に集落を作るのは難しいから、北側にはあと二カ所くらいしかないけれど、南側にはそれなりにあるんじゃないかしら。
 ああ、でも南の方は他の種族とも近しい分、精霊は少ないと思うけどね」

 イブさんのビリーヤ村はマムさんとリーヤさんの三人家族だけがハイエルフで、他はみんな普通のエルフだった。
 もっと北側にあるエルフの里は、ハイエルフだけの里もあるけれど、滅茶苦茶閉鎖的でハイエルフ以外立ち入り禁止区域って感じだからよく分からないとの事。
 ああ、エルフは閉鎖的というあるあるはこの世界にもあったんですね。
 今までに会ったエルフもハイエルフも魔法大好き、美味しいもの大好きな変わり者ばっかりだったから、寡黙というイメージすら持てていませんでしたよ。

 イブさんがグロンディール大陸で伝説のハイエルフとか、賢者だと教えてもらったイメージも、本人を前にすると「あれは誰の事を言ってたんですか?」ってなってるもん。
 タニアさんとお茶をしながらそんな話をしていたら、肘の辺りをツンツンされた。
 ふとテーブルを見れば、緑のドラゴンとうちの精霊たちが並んで見つめてきている。可愛いねぇ。

「元気になった?」

 さっきまで落ち込んでいたふたりだけど、ドラゴン精霊とお話して少し元気になったみたい。
 ちょっと恥ずかしそうに、スカートを摘まみながらもじもじしているのが本当に人の子みたいで可愛らしい。

「私も長生きしているけど、人の姿をもつ精霊ってこんなに感情表現が豊かなのね」
「生き物の姿を持っている子達は分かりやすいですよね。雫型とか蝶々の子達は流石に分からないですけど」
『あのね、風の子が教えてくれたの』
『一緒に行ける方法を教えてもらったの』

 モジモジしながら言われたんですけど、どういうことですか?

「あら、もしかしてダンジョンに一緒に行ける方法って事なのかしら?」

 タニアさんの言葉に驚くけれど、精霊三体はコクコクと頷いている。え? 本当に?

「え? でもダンジョンの濃い魔素のせいで出てこれなくなっちゃうって言ってたでしょう? そんな危険はさせれないよ」
『□★◎―△◆〇☆』
『魔道具を作ってもらわないと無理なんだけどそれがあれば大丈夫なの』
『それがあればわたしたちずっと一緒にいれるのよ』
『『だめかしら?』』

 キュルルンと潤んだ目で見上げられたら駄目なんて言えないですよ。
 何故かドラゴン精霊までコテンと首を傾げて見上げてくるし、隣でタニアさんは悶えているから助けにならないし、どうすればいいの?

「えっと、かなり重要な事なので私一人の判断ではお返事できないのね。でも一緒にいられるっていうのは嬉しいからね。
 ただ大事な事だから、チアキさんとイブさんが戻ってきてから相談してからにしよう? 魔道具も私一人じゃ作れないし。ね?」
『わかったわ』
『ええ、びおを困らせたい訳じゃないもの』

 何をこんなに気に入ってもらえたのかは分からないけど、一緒にいたいと思ってくれる存在がいるというのは非常に嬉しいのです。
 ふたりも元気を取り戻してくれたようで、両肩に乗ってスリスリしてくれたのでお返ししておきます。
 嬉しそうなドラゴン精霊も、タニアさんの頭の上に乗って尻尾をブンブンしているんだけど、その尻尾めっちゃ頭に当たってるけど痛くはないんでしょうか? ああ、大丈夫なんですね。

 さて、早くチアキさん達が帰ってきてくれないと相談もできないからね。
 明日くらいには帰って来るかな?
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...