ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
571 / 584
エフタの谷

第504話 酒樽作りに挑戦

しおりを挟む

 砂浜からの海釣りを楽しんだ翌日は酒樽作りを教えてもらうことになった。
 お水を自分で作れるから、これまでも水樽を購入したことはなかったんだけど、今回の日本酒が上手くいけば、今後見つけた色んな素材で酒作りを試してみたい。
 だったら酒樽を自分で作れた方が、直ぐに試せそうだからね。

 そう思っていたんだけど、結構大変だったんですよ。
 いや、多分日本で作ろうと思ったらもっともっと大変だったと思いますよ。乾燥とかは時間がかかって当り前だろうしね。
 だけど樽を作るための木を切る作業が中々繊細でして、これが職人技だったんですよ。

「樽の中が垂直だと抜け落ちるだろう? これを組むためには組み合わせるための木は少しずつ曲がっていて、円にした時にピタリと合わさる必要があるんだ」

 酒樽職人、という訳ではない。
 竜人族はその長い寿命のお陰で色んなことが出来る人が多い。というか暇だから色々挑戦してみるんだって。
 酒樽は自分好みの酒を作るためにも大抵のヒトが作れるようで、誰が教えるかで揉めていたくらいです。
 教える教えないに関わらず、美味しい料理は皆に振舞いますから、大丈夫ですよ。
 じゃんけんではないと思うけど、何らかの話し合いの結果、酒の素採集に付き合ってくれたブルさんから教えてもらっています。

 使う木材は魔木ではない普通の木。魔木が扱いにくいとかは無いんだけど、高級素材でもあるからね。貧乏性な私としては失敗した時に薪に出来る普通の木の方が使いやすいと思ってお願いしたんですけども……。

『あの入れ物になるのはどれくらいかかるの~?』
『全部一緒に見えるのに何が違うの~?』

 丸太から細い板材にするだけならばカルタで散々練習してきたから出来るんだけど、そこからが大変だったのだ。
 木は真直ぐになっているように見えるのに、実際はほんの少し曲がっている。テーブルに置けば両端が浮くし、酒樽は底よりも蓋の方が広がっているので、上と下もほんの少し幅が違う。

 専用の道具なのだろう、両手に持ち手がついた不思議な刃物でシャッシャと木を削るブルさんは、そんなに考えながら削っているようには見えないんだけど、削り終えた木はちゃんとカーブを描いているし、測れば上下でほんの少し幅が違っている。

 二等辺三角形くらいガッツリ削るなら分かりやすいんだけど、パッと見は真直ぐな板にしか見えないくらいの微妙な調整ですよ。それに専用の刃物の扱い方も難しかった。

「下側はここで支えるだろう? 反対側は腹で押さえておけば削りやすいんだ」

 ブルさんが椅子に座り、両足の間にある土止めのようなところに板をはめる。長い板の反対側は腹で支えて、長い刃物を滑らすように木に沿わせれば、スルリと木の皮が捲れていくのだ。
 大工さんが使うカンナは鰹節の削り器に似ていると思っていたけど、それの原型なのかもね。
 木の短い辺、長い面をクルクル回しながらシャッシャと削っていく。

 途中で板を目の高さに持ち上げて、曲がり具合とかを確かめている様が職人っぽくて格好良い。
 一枚出来上がったところで「やってみろ」と鉄板が入った腹巻のようなものを渡された。
 ここで一つ目の問題が発生。
 足が短い私は、椅子に座った事で宙ぶらりんとなり、全く安定しない事が判明。
 そして二つ目の問題が発生。
 腕も短い私は、木を削るのにこの状態からはどう頑張っても1/3くらいしか届かないのだ。

「んくっ……。そう、そうだな。大きさを考えておくべきだったな」

 笑いを堪えながら、必死で解決策を考えてくれているブルさん。優しさが目に沁みます。
 結局椅子に座りながらやるのは危険だからという事で、テーブルに置いた状態で削ることになりました。ブルさんもそんな状態でやったことが無いらしく、一緒に試行錯誤しながら練習してくれました。ありがとうございます。


 午前中は板材を作ることを頑張ったんだけど、物理的に短い手足で今頑張るのは無理があるという結論に至り(気付くのが遅い)、午後は板材は購入した事にして樽組をする練習に変更となりました。

 え? もう樽を買った方が早くないかって? 
 意地ですよ意地。チアキさん達がダンジョンに行ってる今、時間はあるし、買うのはいつでもできるけど、練習しておけばいつか役に立つかもしれないじゃない?
 ということで、気合を入れて頑張りますよ!

「よしっ、組み合わせだな。これは木の板を並べていくだけだから、木を削るより簡単だぞ」

 キラリと光る白い歯は、歯磨き粉のCMに出てくる俳優さんのようですよ。
 この世界に歯磨き粉は無いですけどね。【クリーン】は万能です。

 加工済みの木の板、丸い板、大量の蔓、大きさの違う金輪、トンカチも数種類。それから午前に使ってた刃物もある。
 まずはお手本という事でブルさんが実演してくれる。

「こうやって金輪に添わせるように木の板を並べていくんだ」

 そう言いながら小さい金輪を床に置き、親指に引っかけた大きな金輪の内側に三枚程の板を並べる。テーブルに並んだ木の板を見れば、幅が狭いものが手前になるように並んでいる。
 スッと取った板は四番目に置かれ、狭い方が下になるように並べられている。
 次々に手際よく板を取っては隣に並べを繰り返し、気が付いた時にはほとんど隙間が無いくらいに板が並んでいた。

「えっ!? いつの間に?」

 本当にそれくらい早い。何故か板はバラバラになることなく多少上が凸凹しているけれど、既に樽になりかけている。
 大きな金輪の位置を少しずらしながら、少し空いた隙間に最後の一枚を差し込む。
 あの板を入れるには狭いだろうと思った隙間だったのに、金輪の位置を調整することで、ピタリと嵌った。なんか凄い!

「ははっ、そんなに驚いてもらえるとやりがいがあるな」

 そう言いながら金輪をグイグイと押しながら板が動かないように調整している。いつの間にか床にあった小さな金輪も嵌っているし、どういうこと? イリュージョン? その小さな金輪って置いてるだけじゃなかったの?

 何から聞けばいいのか分からないけど、とりあえず流れをしっかり見ておかなければ。
 ひっくり返された樽、小さな金輪はグイっと押し込まれて、より板がギュっとくっついた。
 ああ、あのトンカチは金輪を押し込むためだったんですね。
 またひっくり返されて、今度は上の大きな金輪が押し込まれ、木の板も真っすぐになるように今度は木のトンカチでカンコンカンコンされている。
 ああ、なんかこのシーンはテレビで見たことがある気がしますよ。

「ここまで出来れば蔓で固定するんだ。ヴィオは蔦魔法が使えるんだろう? この工程は直ぐに出来ると思うぞ」

 そう言って見せてくれたのは沢山あった蔓。それを器用に編み込みながら大きな丸い輪っかを作っていく。金輪があるのに更に固定をするのかと思いきや、まさかの蔦が最終仕上げらしい。
 底板を入れ直し、蔦で固定が出来たら金輪を下に落として外しちゃったんですよ。まあしっかり固定されてたから板がばらけることはなかったんだけど、ドキドキしちゃったよね。
 二周だけだと思った蔦は、その後更に二周分上下に追加されて、ガッチリ固定されました。

「表面と内側を削って整えるんだ。まあこれは好き好きだな。やらない奴もいるし、やる奴もいる。俺は作った酒を楽しむのに樽を飾ってるから、時々触って感触を楽しみたいから綺麗に整えてるぞ」

 そう言いながら、蔓を避けながら外側を長い刃物で器用に削り、内側はそれこそカンナのような小さな削り器で削っていく。
 シャッシャと聞こえる音は心地よく、木の良い香りも落ち着いてくる。
 うん、これ、私にはできそうにないですね。

「じゃあ、次はヴィオがやってみるか」

 汗を軽く拭って振り返ったブルさん。
 酒樽を作りたいなんて軽々しくお願いした事を心から反省しております。
 蔦で巻く以外は全く役に立てそうにもありませんので、丁重にお断りをさせていただき、ブルさん自慢の樽をいくつか購入させて頂きました。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

処理中です...