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エフタの谷
第503話 海釣り(砂浜)
しおりを挟むチアキさん達がダンジョンに戻った翌日、朝から雲一つない青空で、まさに釣り日和です。
大人ドラゴンたちは数人が海に飛び出し、たちまち点にしか見えないくらい遠くに行ってしまいました。
「この辺りならどこからでも楽しめるんだけど、砂地にいる小さいのはジッとしてたら襲ってくるかもしれないわね。一帯焼いてみる?」
真っ白な砂浜を前に、物騒なことを言い出したタニアさん。
竜人族に襲い掛かってくる相手は早々いないそうだけど、私は美味しい素材に見えるだろうし、じっと動かないでいればタニアさんとて獲物判定されるかもしれないもんね。
「ちょっと待ってくださいね。【ホーリーシールド】」
試してみたい事があるとお願いして、私達が楽しむ周辺よりも少し広めに聖盾を展開。砂地は中に潜んでいることが多いので、地下1メートルくらいまで浸透するように作ってみた。
ザワッ ザワッ ズザザザザザザ
想像通りの反応をしてもらえて良かったですよ。
聖盾を作った事で砂の中にいた魔虫や魔獣は堪らんとばかりに逃げ出して、盾の外側の砂がモコモコと盛り上がり外に飛び出してきた。
『そっちに追いやるわ~』
風の精霊が張り切って広い砂地の方に出てきた魔獣たちを風で追い立ててくれる。その足音や振動を受けて聖盾の外にいた魔獣たちも外に出てきた事で、真っ白だった砂地がエライことになっております。
「あははっ! すっごいすっごい! ヴィオちゃんコレ良いわね」
爆笑しているタニアさんが、嬉しそうにドラ化した足でプチプチと魔獣を踏み潰しております。
えっと、あれですかね。気泡緩衝材をプチプチするのが楽しいと思うのと同じって事ですか?
「あ~! タニアさん海老と蟹は踏んじゃだめ~」
ダンゴムシっぽいのとかは食べないから良いけど、食用の相手はダンジョンと違ってドロップアイテムにならないから踏まれては困る。
タニアさんも思い出したらしく、慌てて翼を出して空に避難。
私は鞭から蔦を出して食用になり得る相手だけを釣り上げていく。砂に潜って逃げられたら困るので、風の入れ物を作ってそこにポイポイ放り込んでいるだけだけどね。
『アレとアレを分ければいいの?』
「そうそう、お願いできる?」
『任せて~』
風の精霊が食用の相手と、そうでない相手を器用に分けてくれたので、タニアさんが安心して踏みに行っているのが面白い。ドラゴンの足で踏むのはどんな感じなんだろうね。
思ったより多くの蟹と貝、何故か海老が採集出来た。
普通に海老を回収してたけど、何で砂地に海老がいたんだろうか。
触角が長くて背中が曲がっているザ・伊勢海老って感じのもいるけど、ここは三重県でもないし、伊勢でもない。ああ、外国ではロブスターっていうんだっけ。
ルエメイダンジョンの泉で見たザリガニと似ているけど、あれに触角は無かったから別物だろう。
生き物はマジックバッグに入れることが出来ないので、とりあえず〆る必要があるね。
こういうところはダンジョンって楽だなって思うよね。
どんな倒し方をしても一定のドロップアイテムが綺麗な形で出てくるんだもん。
「どうしようかな……」
「ふぅ、砂に潜って逃げたのもいたけど、とりあえず殲滅できたわ。ヴィオちゃん、何を悩んでいるの?」
汗を拭いながら戻ってきたタニアさん。何かストレスを抱えていますか? と心配になるほど嬉々として踏みまくっていましたが大丈夫ですか?
「いや、この蟹と海老がいっぱい取れたんですけど、どうやって〆ようかなって思ってて」
「頭を落とせばいいんじゃないの?」
タニアさんはなんてことは無いように言いますが、これだけ大きな海老が手に入ったならば、やっぱり頭を残した状態で刺身にしたいし、マヨ焼きとかにするなら横から半分に切り落としたい。
蟹なんてそれこそ頭は身体にくっついているし、殻を壊すのはカニの甲羅グラタンとかをするには向いてない。
「これがそんなに沢山の料理になるの? 聞いてるだけでもお腹が空いてきたわ。
でもそうね。頭を落とせないなら、う~ん」
『冷たくするのは駄目なの? 守り人は魚を獲ってきた時によく冷たくして動けなくしてるわ』
「それだ! 凄いね、光の精霊ちゃんありがとう!」
タニアさんと二人で悩んでいたら、光の精霊が解決策を出してくれた。
そうじゃん、冷凍ガニとか言ってたんだから冷やせばいいんですよ。凍結は割れそうで怖いんで、とりあえず氷結にしておきましょう。
「【アイス】」
風の器に入ったままだった海老と蟹が少しずつ動けなくなり、完全に固まったところでマジックバッグへ収納です。
これならチアキさん達が戻ってきてからでも楽しんでもらえるでしょう。
風の精霊が大活躍をしていたので、ちょっと元気がなかった光の精霊でしたが、今回の助言に感謝しまくっていたらやっと元気に笑ってくれました。可愛いなぁ。
ダンジョンのように何時間でリポップするという事は無いけれど、完全に殲滅した訳でもないのでそのうち増えてくるでしょうとはタニアさん。
生態系を思いっきり壊したわけではないなら安心です。
安全になった砂地に土魔法で椅子を作り出し、のんびりしながら釣りを楽しむ――事など出来る筈がなく、魔力を纏わせた蔦を投げれば直ぐにアタリがくるから忙しい。
いや、蔦を投げなきゃいいじゃないって話なんだけどね、投げりゃアタリが直ぐくるもんだから楽しくてやめられなかったんですよ。
私が釣り上げた魚がポーンと海から飛び出せば、魚の近くまで飛んで行ったタニアさんがその場で魚の頭を落として鞄にイン。残った頭は海にリリースすることで、血の匂いに寄せられた魔魚がバチャバチャと集まってくる。
そこに良質な魔力を纏った蔦がポチャンと入れば、集まった魚の中でも強いのが食いついて釣り上げられるというループ。
沖に行っていた大人ドラゴンたちに止められなかったら、辞め時が分からなかったと思います。
反省はするけど後悔はしていません。
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