384 / 584
ウミユ遺跡ダンジョン 前半
第343話 ウミユ その10~他者視点~
しおりを挟む~~~虎獣人 クルト視点~~~
「くそっ! なんで、ヴィオが、そんな目に、合わなきゃなんねえんだよ!」
ザンッ! ズシャッ!
見える魔獣を全て殲滅するかのように 大剣を軽々振るう目の前の男と、ただ静かに だが怒りをその目に宿して 次々に瞬殺していく女。
「なあ、あんたらは 襲撃犯の目安ついてんのか?」
クルトは〔土竜の盾〕のリーダー夫妻にそう尋ねる。
いつもハチャメチャなことをするから 驚かされるのにも随分慣れた。
便利な魔法、美味しい料理、快適なダンジョン生活、それだけじゃないが それだけでも十分ヴィオを護りたいと思う理由になるだろう。
共和国を回って 久しぶりに帰った地元の村で、まさか幼馴染に妹が出来たとは青天の霹靂だった。
その後 なんでそうなったのかを聞いた時も驚いたが、あれは村の連中に聞かせるために かなりぼかした言いかただったんだと、今日初めて知った。
アルクさんの反応から見ても あそこまでの事だとは知らなかったんだろう。
あそこまで詳細に覚えているのも ヴィオの賢すぎる頭脳がなせることなのか、出来れば覚えていたくないだろうことを 鮮明に覚えているというのはどんな気持ちなんだろうか。
両親が健在で 姪っ子もいて、幼馴染と冒険が出来ている自分はどれだけ恵まれているのかと思った。
「ピンク髪の子連れの冒険者を探してほしい。
それが最初にメネクセスの冒険者ギルドに出された依頼だったらしい」
「はぁ?」
「それは ヴィオの母さんを国から追い出した宰相が 定期的に連絡が出来るようにしたいって思って出した依頼だったんだってさ。
元冒険者のフィルに相談しとけば良いものを、フィルに内緒で国外に出ろって言ったもんだから よく分からんまま依頼したんだと思う。
依頼を受けた冒険者たちはアイリスが死んだあと、所在確認をした証明って事でひと房の髪だけ切り取って持ち帰ったらしいからな。
俺たちはそれで ヴィオを探してほしいってフィルから依頼されたんだ」
っつーことは、ヴィオの母ちゃんが髪色隠しながら ギルドのタグを使わず逃げたのは そいつのせいじゃねえか。
くそったれが!
穴から飛び出してきたグラススネークを【エアショット】で撃ち抜く。
ああ、折角の肉が穴に落ちちまった。
次の休憩までに 気持ち落ち着けねえとな。くそっ!
~~~黒豹獣人 オトマン視点~~~
「これってさぁ、待つ必要あるのかなぁ……」
薄っすら笑みを貼り付けたまま 詠唱もせずに 少し先に見えるウルフもコボルトもゴブリンも消えていく。
水魔法だと思うけど、何かが顔に張り付いたと思えば ギュルンと巻き付いたそれが頭を引きちぎるという ちょっと恐怖すら感じる魔法。
確か午前中には 長剣を使っていたと思うんだけど、魔法使いの立ち位置でいたっておかしくないレベルの魔法をバンバン使っている。
そして同じく 午前中には槍を使って殲滅していた弟の方も 詠唱もなしに遠くの魔獣を倒している。
ネリアに聞けば 風魔法だと思うけど あそこまで早いとよく分からないとの事。
「トンガ君 それってどういうこと?」
斥候役の俺だけど、全くやることがないまま進んでいる。後ろの奴らはこの速さについて来れていないが 5カ所目で止まると思っているのか 昨日のように焦って追いかけてきている訳ではないようだ。
ネリアは 攻撃を諦めて 先ほどから奴らの行動と声を確認し続けているので、俺は無防備になっているネリアの護衛役になっている。
「え? だからさぁ、あいつらの何人か 引っ張ってくるか誘き寄せて聞いちゃっても良くない?
どうせ屑じゃん?
多分夜闇に紛れてやりたいから11階まで待ってんのかもしれないけどさ、そこまで待つ必要ある?」
「ダーって撒いて、ついて来れる奴らだけ普通に置いといて、遅れる奴らが 依頼主知ってそうな奴らだろ? そっちを捕まえてみればいいんじゃねえの?って事だろ?」
初めての顔合わせの時に 多少ピリついたのは感じたけど、それ以降は 穏やかだったトンガ君だけど、これが本来の姿なのだろうか。
いや、本来の姿はきっと あの穏やかな感じなんだろうな。
だけど、大切な人を護る時には 剝き出しの爪と牙を首筋に当てられているような気持にさせる、今のこれは俺に対するものじゃないのは分かっているのに、本能が彼らを恐れている。
ネリアも アイリスの最期を知ることになって、しかもそれをヴィオ自身があんなに詳細に覚えていたことがショックだったんだろう。
盗聴をしながらも「さっさと重要な事を話せよ」「お前らの愚痴とかどうでもいいんだよ」「誰から頼まれたのか話し合えよ」などもうちょっと不穏な言葉を混ぜながらブツブツ唱えている。
皆の精神衛生上よくない事を思えば、トンガ君が言うように さっさと捕まえて尋問するのも手かもしれないよね。
今夜の野営中にテリューとアルクさんに相談してみようかな。
~~~~熊獣人 アルク視点~~~~
川から拾った直後に聞いた時、それでも驚いた過去じゃったが 更に驚きの情報が隠されておった。
あの時は それこそ殺されかけた直後じゃったという事なんじゃな。
だとしたら よくあの時点で思い出せたことがあったと褒めてやるべきじゃ。
本人があれだけ厳しい訓練にも耐えてきたのは 母親の死を目の前で感じていたからなんじゃな。
土竜の面々から聞いた話では 回復以外にも相当な魔法の使い手じゃったというが、それでも数に勝てんかったのは 近接に対処しきれんかったからかもしれんな。
そうか、だからこそヴィオは接近戦と 中距離に対応できる戦術が欲しいと言っておったんか。
冒険者に憧れが強いだけかと思っておったが そうじゃなかったんじゃな。
自分が同じ目にあうことがあれば その時に 魔法だけでは困るから じゃからあれだけ……。
何でそんな目に合うんじゃ。
ヴィオが、ヴィオの母親が何をしたと言うんじゃ。
じゃがヴィオの考察はあながち外れてはおらんのかもしれんな。国から辿れんようにしたちゅうんは 例の宰相に言われた 王妃の追手が云々というのが一番の原因な気がする。
王妃からしたら 旦那となった陛下の嫁や娘ちゅう存在は消したいくらい憎いじゃろう。しかも子供は作らん宣言までしたんじゃとしたら 消えれば何とかなると思ってもおかしくないんじゃなかろうか。
そう思えばヴィオの父ちゃんの不用意な発言が原因な気もするが、家族と急に離されたことで言うてしまったんかもしれんと思えば 攻めることも出来んな。
まずはその王妃の周辺を洗い出してもらいたいもんじゃな。
「お父さん、ポアレス見つかんないね。もっと下の階にあるのかな?」
「そうじゃな、大体5階おきに収穫物の種類は増えるから 5階以降にあるかもしれんぞ」
「そっか! あ~~~、もう後ろの奴らは放置してさっさと進んじゃいたいね。
どうせ悪い事をするんだから 周りの目なんか気にしないでかかってくれば良いのにね。面倒な人たちだよ、まったく」
魔獣の討伐は 同行しておる土竜の二人が倒してしまっておるから ヴィオは少々手持ち無沙汰になっているらしい。
あんな過去を話して皆がショックを受けていた事に 暗い話を聞かせて申し訳なかったと言った娘。
思い切りがいいのか、切り替えが早いのか、川で流れてくる前のことは 違う誰かの話をしているかのように 淡々と話すのは やはり死にかけた事が原因ではないかと思う。
しかし 逆に今は そうしてくれていることに安心する。
あの出来事を今もそのまま現実の延長線で受け止めていれば 6歳の心など壊れてしまっていただろうから。
先程の話はもう終わった事と 娘の中では折り合いをつけているのか、黙々と採集をしては 夕飯に使おう、これは朝食だねと楽しそうにしている。
さて、儂が出来るのはこの笑顔を護る事だけじゃ。
その為にはあいつらをどうにかせんといかんな。訳知りのような奴らを先に尋問するか?
これは野営中に相談する内容じゃな。
591
あなたにおすすめの小説
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました
あい
恋愛
両親を失ったあの日、
赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。
それが、アリア。
世間からは「若い母」と呼ばれながらも、
彼女は否定しなかった。
十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。
恋も未来も、すべて後回し。
けれど弟は成長し、ついに巣立つ。
「今度は、自分の人生を生きて」
その一言が、
止まっていた時間を動かした。
役目を終えた夜。
アリアは初めて、自分のために扉を開く。
向かった先は、婚姻仲介所。
愛を求めたわけではない。
ただ、このまま立ち止まりたくなかった。
――けれどその名前は、
結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。
これは、
十六年“母”だった女性が、
もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる