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ウミユ遺跡ダンジョン 前半
第342話 ウミユ その9
しおりを挟む「さて、さっきの続きを聞かせてもらいたい。
ヴィオは 母親が狙われたこと、亡くなった事を覚えているのか?」
昼食を食べ終われば 昨日と同じように オトマンさんが結界魔法を展開してくれる。
破落戸は2つ目のセフティーゾーンで待機中。
新しい冒険者らしき反応が3階に下りて来たけど、5人組のその反応は 真っすぐ進んでいるので普通の冒険者なのかもしれない。
テリューさんが真剣な表情で確認してくる。
お母さんの事か……。
お兄ちゃんたちにも話したことはなかったけど、お兄ちゃんたちはギルドで村人向けに周知された内容を聞いている筈だ。
お父さんをちらりと見れば 一つ頷いてくれたから言っても良いという事だろう。
「断片的だけど覚えてるよ。
最初はチビハゲデブが お母さんに愛人になれって言い寄ってきてたの。
あの町に到着した時は 腕の良い薬師に定住してほしいって理由で 土地を貸してくれたんだと思う。
それでしばらくそこにいたら そうやって暇さえあれば来てたかな。
ニチャニチャした顔が気持ち悪くて アレが来た後は お母さんしばらく調合室から出てこなくなるから嫌だったって覚えがあるの」
「5歳の年明けくらいかな、それくらいから薬屋にも 畑にも嫌がらせをしてくる人が増えてきて、まあそれは全部お母さんが撃退してたんだけど、その時は家の中から出ちゃダメって言われてたから どんな風に撃退してたかは知らないの」
「お父さんと出会う2週間くらい前かな、嫌がらせに来てた人だけじゃなくて 凄く沢山の人が家の周りに来たらしくって、お母さんからお守りを渡されて このマジックバックを ああ、当時はこれ肩掛け鞄だったんだけどね、これを身につけさせられて 調合室の床下に隠されたの。
誰かが来てもお守りを握って 居なくなれと願えばいなくなるから、そう思っても居なくならない人は味方だから それなら出てきて良いけど、それまでは出てきちゃ駄目だって言われたんだよね」
「暗い中で 凄い音と 酷い怒声が響いてて、あの時はまだ力も無くて多分そのまま寝ちゃったのかな。
何日かしてから 近所のおばさんが助けに来てくれた時には全部終わってたの。
お母さんも居なくなってて おばさんが食事を分けてくれて 貰った食事を1日かけて食べてって感じだったかな」
シーーーーーン
私の自我が目覚める前の記憶は 映画のダイジェストのような記憶で『辛かったんだろうな』とか『怖かったんだろうな』とは思うけど、何となく遠い感じなんだよね。
だけど 普通の5歳児がそれを目の前で体感していたと思えば それは本当に恐怖でしかなかったと思う。
今の能力があれば もう少しどうにか出来たかもしれないけど 過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がないのだ。
お母さんの記憶というならそれでいいのかな? 貴族の話もいる?
そう問えば コクリと頷かれたので 続きを話す。
「お母さんが襲われて 多分2週間くらいかな。
日にちはあの時あんまり意識してないからもっと短かったかもしれないし 長かったかもしれないけど、直ぐではなかったと思う。
急にチビハゲデブが家に来て 一人で暮らすのは大変だろうって 連れ去られたの。
あの時はお母さんがいなくて 寂しくて 何も考えられなくて 気付いたら貴族の屋敷だったんだよね」
「汚いから洗うって言われて 階段を上ってるところで 貴族の娘と出会っちゃって、そいつにお母さんからもらったお守りを取られそうになったの。
それで我に返ったというか、絶対に渡したくないって反抗したら お守りを引きちぎられて 階段から突き落とされたの」
「なっ‼⁉」
ガタリと立ち上がったテリューさんとネリアさんは隣に座るパートナーに抑えられて 続きを促される。
まあ結構ハードな内容だよね。私でも驚きます。
「で、多分その時に頭を打ち付けたっぽくて 気絶したみたいなんだけど、それを死んだと思ったチビハゲデブが 執事っぽい人に捨てて来いって命令してて、そのあと隣町のロッサ村ってところのゴミ捨て場に捨てられたの。
起きたら臭くてびっくりして、とりあえず身体を洗おうって思って川に入ったら流されてて、気付いたら国境超えてて お父さんに拾われたって感じ。
まあ捨てられてなかったら 監禁聖女扱いになってただろうから 結果良かったかなって思ってるけどね」
捨てられるときの記憶があるのは 多分幽体離脱状態だったのかなって思う。
完全に人形状態の自分が荷馬車に放り込まれたところも見えてたし、身体の中からの視点じゃなかったもんね。
お父さんは震えながら静かに涙を流しているし、お兄ちゃんたちは号泣しながら二人して抱っこしてくれて、だけどあまりに泣くもんだから 私がポンポンしながら慰めるというよく分からない状況になり、それはテーブルの反対側でも同じで 奥さんたちが泣くのを旦那衆が抱きしめて慰めるという なんともカオスな状態になっておりました。
「でも 結果として私はお父さんの娘になれたし、お兄ちゃんたちの妹になれたし、こうやって一緒にいれるでしょ?
小さい時の夢は覚えてないけど、川で溺れて目覚めた後の夢は少しずつ叶えられてるし 良いんだよ」
「びお゛は、もっど、おごっでも、いいんだよ……。
ぞんな゛、じょうがな゛いどが、な゛いんだよ……」
滂沱の涙を流しながらネリアさん。私以外の人がそんなに泣いてくれるから 私は大丈夫でいられるんだと思います。
「だけどよ、ヴィオは 後ろの破落戸を母ちゃんの時の関係者かもしれねえって思ったんだろ?
母ちゃんが死んでもそう思うのはなんか理由があるのか?」
机の上に肘を乗せ 手を組んだ上に頭を乗せたままだったクルトさんが 静かに聞いてきた。
大きな声ではないけど、皆が その声に顔を上げ 私に視線を寄せてくる。
「う~ん、村に到着してお父さんたちとお話してた時に、お母さんが隠れるように行動してた事に気付いたのね。
お父さんたちはギルドに薬草や薬を売ってたと考えてたけど、私は ギルドの建物を見たのは 記憶する限りリズモーニに来てからだったの。
共和国は建物が違うって言ってたから、メネクセスも違うなら分からないけどね。だけどギルドタグもお父さんのをはじめて見たし、マジックバックにお母さんのタグが入ってた事を思えば 身に着けてはいなかったと思うの」
「てことは、冒険者のタグから辿られないようにしてたって事か」
「うん、だとしたら ギルドが関係ない皇国の 愛人を迫ってきてた奴は無関係でしょ?
だから、子爵の関係者とは別に お母さんを追いかけてた人が居たと思うの。
で、そっちの目的が お母さんの冒険者としての実力なのか、お母さん自身なのか、それが分からないから 娘の私も狙われてもおかしくないかもねって事で 風の季節は放浪してるの」
「そうか、サマニア村は 風の季節に人が多く集まるもんな。そうか……」
珍しい髪色と聖属性、この二つは私も共通するから それを目的にしてるのか、その収集家に高値で取引をするつもりなのか。でも髪色はこの色にして長いから いつ気付かれたのかって話でもあるんだけど……。
「まあ 後ろの奴らの依頼主に関しては 捕まえて聞きだす事にして そろそろ移動するか」
何だか暗い感じになっちゃって、ここからどうしようかと思っていたら お父さんが移動の提案をしてくれた。ちょっとホッとしたのはしょうがない。
皆も何故か魔獣を狩る気満々になっているらしく 気合を入れ直してますよ。破落戸さん達ラッキーだよね。多分この後を歩くなら魔獣のリスクがないと思うもん。
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