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第3章 魔法大学ザザン
第57話 最悪の始まり
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学生寮の扉を開けた瞬間、そこには静かな緊張が漂っていた。
中に足を踏み入れると、広々とした共有スペースが目に入る。木造の床は柔らかく、壁には装飾が施されている。堅牢な造りだが、温かみも感じる建物だった。
寮の中央には、大きな木造の階段があり、それを挟んで左右に食堂や大浴場、カフェスペースや洗濯コーナーなどが配置されている。まるで高級ホテルのような作りだが、俺にはそんな優雅な感想を抱いている余裕などなかった。
なぜなら、目の前にいた人物が、すぐに俺の存在に気付き、静かに立ち止まったからだ。
ローゼ・マーテリウス・エルドラド。
そのエメラルドグリーンの瞳が俺を映し、その瞬間、まるで氷が張り詰めたかのような空気が広がった。
背中まで伸びた銀髪が揺れ、完璧に整った姿勢と優雅な雰囲気。それだけなら、まさしく王族の名に相応しい威厳だった。だが、その目――そこに浮かぶ感情は、決して穏やかなものではない。
一瞬で冷たく、鋭く、まるで値踏みするような視線に変わる。
まるで、ゴミを見るような――
俺は、こういう目をする人間を知っている。
かつての世界で、部下を切り捨て、利益だけを追求する経営者や役員たちが持つ、あの非情な目。
この女は、危険だ。
「あら……あなたは、今朝の……名前は確か、レンと言いましたか?」
ローゼは、ゆっくりと口を開いた。
その声は優雅でありながら、明らかに敵意を含んでいる。
「まだ、この寮に御用が? 荷物の整理でしたら、私の後輩にさせますわよ?」
嫌味たっぷりの申し出だった。
俺は、深く息を吸い込む。
(ここでビビったら負けだ)
「いえ、無事に入試試験に合格したので、正式にこの寮に住むことになりました。これからお世話になります。」
できるだけ冷静に、淡々と伝える。
大学側が決定した正当な理由がある。俺は何も後ろめたいことはない。
――だが、ローゼの表情が、僅かに歪んだ。
「……なんですって?」
それは、露骨な嫌悪だった。
「どういうことですか? あなたの魔力測定はゼロだったはずですが……」
ローゼの瞳が細くなり、俺を鋭く見据える。
その後ろでは、取り巻きの女生徒たちが驚いたような表情を浮かべ、俺をじろじろと見ている。
「そんなの嘘よ!魔力ゼロの人間が、ザザン魔法大学に合格できるわけがないじゃない!」
茶髪の小柄な女生徒が声を上げると、周囲の生徒たちがざわめいた。
「変態がまた戻ってきたの!?」
「魔力ゼロのインチキ野郎が!?」
「次は何を企んでいるの!?」
――最悪だ。
俺は、再び嫌な視線に囲まれた。
「まあ、皆さん、落ち着いてください。彼が言うには、今朝の入試試験に合格して、この寮で住むことになったそうです。」
ローゼは、あくまで冷静な口調を保ちながら、周囲を宥める……ように見せかけていた。
だが、その言葉は、火に油を注ぐだけだった。
「嘘よ!魔力ゼロが合格するなんてありえない!」
「この寮に住むなんて、絶対におかしいわ!」
「やっぱり変態じゃない!? 追い出しましょうよ!」
罵声が飛び交う。
俺の心が、静かに冷えていく。
(……関わらない方がいいな)
だが、その時――
「嘘じゃないです! レンは、確かに合格しました! 私も見ていました!」
ハルカが、俺の横に立ち、前に出た。
彼女の手が、俺の右腕をぎゅっと掴んでいる。
その力は、僅かに震えていた。
ローゼが、ハルカを見て、目を細める。
「貴方は……確か、遥さんね。貴方ほど優秀な方が、彼を擁護するなんて……何か、証拠はございますの?」
「あります! これを見てください!」
ハルカは、俺のポケットから学生証を取り出し、皆に見せた。
それを見た瞬間、女生徒たちのざわめきが止まる。
「確かに……本物……?」
「えっ……じゃあ、本当に合格……?」
ローゼも、それを確認し、僅かに息を吐いた。
「……どうやったのか知りませんが、確かに合格したようですね。」
ローゼは、そう言いながら、じっと俺を見つめた。
その目は、完全に変わっていた。
獲物を見る目。
利用できる存在かどうかを見極める目。
(……こいつ、俺を何かに使うつもりか?)
俺は、その意図を悟り、あえて冷たく答えた。
「どうやって試験を突破したのかは、話すつもりはない。俺はお前に関わるつもりはないから、安心しろ。」
「……まあ、つれないですこと。ですが、貴方には興味が湧きましたわ。」
ローゼは微笑んだが、その笑みには温かさが一切なかった。
「ですが、まあ……よいでしょう。どうぞ、ご自由に。」
そう言い、ローゼは去っていった。
だが、俺は、その背中を見ながら、最後に見せた彼女の瞳を思い出していた。
――赤い魔眼。
(あの瞳・・・「魔眼」持ちか……?)
俺は、静かに息を吐いた。
「なんか……凄い嫌われちゃったな。巻き込んじゃって、ごめんよ。」
「そんなこと言わないで。私は、レンの味方だよ。」
ハルカの言葉が、ほんの少しだけ、俺の心を軽くした。
それでも、俺は確信する。
この寮の空気は、おかしい。
そして、ローゼという存在は、間違いなくただの王族ではない。
(……明日からの学生生活、思っていた以上に厄介になりそうだな)
俺は、そんなことを考えながら、静かに部屋へと向かった。
――この異世界での、最初の夜が更けていく。
中に足を踏み入れると、広々とした共有スペースが目に入る。木造の床は柔らかく、壁には装飾が施されている。堅牢な造りだが、温かみも感じる建物だった。
寮の中央には、大きな木造の階段があり、それを挟んで左右に食堂や大浴場、カフェスペースや洗濯コーナーなどが配置されている。まるで高級ホテルのような作りだが、俺にはそんな優雅な感想を抱いている余裕などなかった。
なぜなら、目の前にいた人物が、すぐに俺の存在に気付き、静かに立ち止まったからだ。
ローゼ・マーテリウス・エルドラド。
そのエメラルドグリーンの瞳が俺を映し、その瞬間、まるで氷が張り詰めたかのような空気が広がった。
背中まで伸びた銀髪が揺れ、完璧に整った姿勢と優雅な雰囲気。それだけなら、まさしく王族の名に相応しい威厳だった。だが、その目――そこに浮かぶ感情は、決して穏やかなものではない。
一瞬で冷たく、鋭く、まるで値踏みするような視線に変わる。
まるで、ゴミを見るような――
俺は、こういう目をする人間を知っている。
かつての世界で、部下を切り捨て、利益だけを追求する経営者や役員たちが持つ、あの非情な目。
この女は、危険だ。
「あら……あなたは、今朝の……名前は確か、レンと言いましたか?」
ローゼは、ゆっくりと口を開いた。
その声は優雅でありながら、明らかに敵意を含んでいる。
「まだ、この寮に御用が? 荷物の整理でしたら、私の後輩にさせますわよ?」
嫌味たっぷりの申し出だった。
俺は、深く息を吸い込む。
(ここでビビったら負けだ)
「いえ、無事に入試試験に合格したので、正式にこの寮に住むことになりました。これからお世話になります。」
できるだけ冷静に、淡々と伝える。
大学側が決定した正当な理由がある。俺は何も後ろめたいことはない。
――だが、ローゼの表情が、僅かに歪んだ。
「……なんですって?」
それは、露骨な嫌悪だった。
「どういうことですか? あなたの魔力測定はゼロだったはずですが……」
ローゼの瞳が細くなり、俺を鋭く見据える。
その後ろでは、取り巻きの女生徒たちが驚いたような表情を浮かべ、俺をじろじろと見ている。
「そんなの嘘よ!魔力ゼロの人間が、ザザン魔法大学に合格できるわけがないじゃない!」
茶髪の小柄な女生徒が声を上げると、周囲の生徒たちがざわめいた。
「変態がまた戻ってきたの!?」
「魔力ゼロのインチキ野郎が!?」
「次は何を企んでいるの!?」
――最悪だ。
俺は、再び嫌な視線に囲まれた。
「まあ、皆さん、落ち着いてください。彼が言うには、今朝の入試試験に合格して、この寮で住むことになったそうです。」
ローゼは、あくまで冷静な口調を保ちながら、周囲を宥める……ように見せかけていた。
だが、その言葉は、火に油を注ぐだけだった。
「嘘よ!魔力ゼロが合格するなんてありえない!」
「この寮に住むなんて、絶対におかしいわ!」
「やっぱり変態じゃない!? 追い出しましょうよ!」
罵声が飛び交う。
俺の心が、静かに冷えていく。
(……関わらない方がいいな)
だが、その時――
「嘘じゃないです! レンは、確かに合格しました! 私も見ていました!」
ハルカが、俺の横に立ち、前に出た。
彼女の手が、俺の右腕をぎゅっと掴んでいる。
その力は、僅かに震えていた。
ローゼが、ハルカを見て、目を細める。
「貴方は……確か、遥さんね。貴方ほど優秀な方が、彼を擁護するなんて……何か、証拠はございますの?」
「あります! これを見てください!」
ハルカは、俺のポケットから学生証を取り出し、皆に見せた。
それを見た瞬間、女生徒たちのざわめきが止まる。
「確かに……本物……?」
「えっ……じゃあ、本当に合格……?」
ローゼも、それを確認し、僅かに息を吐いた。
「……どうやったのか知りませんが、確かに合格したようですね。」
ローゼは、そう言いながら、じっと俺を見つめた。
その目は、完全に変わっていた。
獲物を見る目。
利用できる存在かどうかを見極める目。
(……こいつ、俺を何かに使うつもりか?)
俺は、その意図を悟り、あえて冷たく答えた。
「どうやって試験を突破したのかは、話すつもりはない。俺はお前に関わるつもりはないから、安心しろ。」
「……まあ、つれないですこと。ですが、貴方には興味が湧きましたわ。」
ローゼは微笑んだが、その笑みには温かさが一切なかった。
「ですが、まあ……よいでしょう。どうぞ、ご自由に。」
そう言い、ローゼは去っていった。
だが、俺は、その背中を見ながら、最後に見せた彼女の瞳を思い出していた。
――赤い魔眼。
(あの瞳・・・「魔眼」持ちか……?)
俺は、静かに息を吐いた。
「なんか……凄い嫌われちゃったな。巻き込んじゃって、ごめんよ。」
「そんなこと言わないで。私は、レンの味方だよ。」
ハルカの言葉が、ほんの少しだけ、俺の心を軽くした。
それでも、俺は確信する。
この寮の空気は、おかしい。
そして、ローゼという存在は、間違いなくただの王族ではない。
(……明日からの学生生活、思っていた以上に厄介になりそうだな)
俺は、そんなことを考えながら、静かに部屋へと向かった。
――この異世界での、最初の夜が更けていく。
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