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皇帝一家の食卓 中編
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レオニードは腕を組んだまま、無言で息子と娘の口論を聞いていた。レオポルトは洞察力に加え、人間らしい温かさを兼ね備えている。マリーヌは昔から、やんちゃな性格に苦労したこともあった。
「ハリントン?」
レオニードは低く呟いた。
「没落した伯爵家の息子を、マリーヌが引き取ったのだったな。幼い頃からの友人、ということだが……」
レオニードは家臣から聞いた話を思い出した。鉱山の無理な開発で資金難に陥り、没落したハリントン伯爵家。すべてを失ったその家の若き息子ヴィクトルを、マリーヌがどうしても放っておけないと騒いだため、彼を迎え入れることにした。面倒を見ているのは、もっぱら言い出したマリーヌだ。
「わたくし、ヴィクトルがこんなにも悲しい運命を背負っているのを見て、心が痛んで仕方なくて……どうしても放っておけませんでしたわ……」
『幼馴染をどうしても助けてあげたい』と言う娘の言葉に、レオニードは胸が熱くなり、思わず涙がこぼれそうになった。おてんばなところに手を焼いたこともあったが、今ではすっかり優しい良い子に育ったものだと、父親として深く感動した。
「困っている友人のために手を差し伸べるとは、マリーヌも立派に成長したものだな」
「ありがとうございます。すべては、お父様のお力添えのおかげです」
「父上、妹に騙されてはなりません!」
父と娘の間に、ほのぼのとした会話が繰り広げられた。だがレオポルトは、その微笑ましいやり取りをさえぎるように反論した。
「レオポルト、それはどういうことだ?」
「妹はヴィクトルに首輪を付けてペットのように扱って、おもちゃにしているのです」
レオニードはその言葉を受け止め、多少の驚きが浮かんでいる。部屋の空気が一瞬、凍りつくような緊張感に包まれる。
「それは本当か?」
「はい、確かです」
その問いに、レオポルトは少しだけ息を吸い込んでから返事をする。
レオニードの瞳には、わずかな怒りが表れた。それでも、皇帝としてその感情をうまくコントロールして答えを待つ。
その瞬間、マリーヌの表情に動揺が浮かぶ。けれど、彼女の瞳は反論を予感させる輝きが残っていた。
「まったく心外ですわ! 私たちは心を許し合っている関係なのです! お兄様も、お父様も誤解なさらないで、私はヴィクトルを愛しています!」
マリーヌはきっぱりと言い切った。それが自分にとって最も確かな、望ましい愛の形だ。彼女の顔には、揺るぎない意志が浮かんでいた。自分の愛は、誰に何と言われようと決して曲げないという信念が、その瞳に強い決意として表れていた。
レオニードはその様子を黙って見守っていた。彼を愛していると言うが、親としては複雑な気持ちが湧いてくる。マリーヌの歪んだ愛情に、どうしても理解が追いつかない。
(だが、そんな娘を愛し続けることが、親としての宿命なのだろうか)
やんちゃな性格はまだ治っていなかったのか。しかし、間違いなく言えることは、没落した貴族が皇族に引き取られることは、一般的な観点から見ると、かなり幸運で恵まれた立場にあるだろう。
「まあ、マリーヌが愛して可愛がっている男のことは、ひとまず置いておこう」
娘が、犬扱いしてる男のことは、一旦置いておいて、レオニードは空気を変えようと話題を別の方向へと向けた。
「それで、レオポルトが気になる令嬢というのは?」
娘の言動に驚かされた後、父は気取ったような顔で、息子に恋愛に関する質問を投げかけた。
「ハリントン?」
レオニードは低く呟いた。
「没落した伯爵家の息子を、マリーヌが引き取ったのだったな。幼い頃からの友人、ということだが……」
レオニードは家臣から聞いた話を思い出した。鉱山の無理な開発で資金難に陥り、没落したハリントン伯爵家。すべてを失ったその家の若き息子ヴィクトルを、マリーヌがどうしても放っておけないと騒いだため、彼を迎え入れることにした。面倒を見ているのは、もっぱら言い出したマリーヌだ。
「わたくし、ヴィクトルがこんなにも悲しい運命を背負っているのを見て、心が痛んで仕方なくて……どうしても放っておけませんでしたわ……」
『幼馴染をどうしても助けてあげたい』と言う娘の言葉に、レオニードは胸が熱くなり、思わず涙がこぼれそうになった。おてんばなところに手を焼いたこともあったが、今ではすっかり優しい良い子に育ったものだと、父親として深く感動した。
「困っている友人のために手を差し伸べるとは、マリーヌも立派に成長したものだな」
「ありがとうございます。すべては、お父様のお力添えのおかげです」
「父上、妹に騙されてはなりません!」
父と娘の間に、ほのぼのとした会話が繰り広げられた。だがレオポルトは、その微笑ましいやり取りをさえぎるように反論した。
「レオポルト、それはどういうことだ?」
「妹はヴィクトルに首輪を付けてペットのように扱って、おもちゃにしているのです」
レオニードはその言葉を受け止め、多少の驚きが浮かんでいる。部屋の空気が一瞬、凍りつくような緊張感に包まれる。
「それは本当か?」
「はい、確かです」
その問いに、レオポルトは少しだけ息を吸い込んでから返事をする。
レオニードの瞳には、わずかな怒りが表れた。それでも、皇帝としてその感情をうまくコントロールして答えを待つ。
その瞬間、マリーヌの表情に動揺が浮かぶ。けれど、彼女の瞳は反論を予感させる輝きが残っていた。
「まったく心外ですわ! 私たちは心を許し合っている関係なのです! お兄様も、お父様も誤解なさらないで、私はヴィクトルを愛しています!」
マリーヌはきっぱりと言い切った。それが自分にとって最も確かな、望ましい愛の形だ。彼女の顔には、揺るぎない意志が浮かんでいた。自分の愛は、誰に何と言われようと決して曲げないという信念が、その瞳に強い決意として表れていた。
レオニードはその様子を黙って見守っていた。彼を愛していると言うが、親としては複雑な気持ちが湧いてくる。マリーヌの歪んだ愛情に、どうしても理解が追いつかない。
(だが、そんな娘を愛し続けることが、親としての宿命なのだろうか)
やんちゃな性格はまだ治っていなかったのか。しかし、間違いなく言えることは、没落した貴族が皇族に引き取られることは、一般的な観点から見ると、かなり幸運で恵まれた立場にあるだろう。
「まあ、マリーヌが愛して可愛がっている男のことは、ひとまず置いておこう」
娘が、犬扱いしてる男のことは、一旦置いておいて、レオニードは空気を変えようと話題を別の方向へと向けた。
「それで、レオポルトが気になる令嬢というのは?」
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