私を大切にしなかった貴方が、なぜ今さら許されると思ったの?

佐藤 美奈

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皇帝一家の食卓 後編

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「フェルナンド男爵家のエリザベートです」

父の問いに、レオポルトは想い人のことを家族に話すのが恥ずかしくて、照れ隠しに後ろ首を触ってしまう。

「――今、何と言った?」

息子の言葉を耳にして、レオニードは頭の中で疑念を抱く。何かが心に引っかかり、しばらく考え込んだ後、眉が深く寄り、険しい表情を見せる。レオポルトは、父の反応に不審を感じたが、それでも再び口を開く。

「フェルナンド男爵家の......」
「フェ、フェルナンド!?」

レオニードの声に驚きと震えが込められ、何かを思い出したように目を見開いた。

「お父様?」
「父上?」

明らかに父の様子に変わったところがあり、思わずマリーヌとレオポルトは一緒に首をかしげた。母親である美しい中年女性クローディアは、周りのことを気にせず、上品にスープをすくって口にしていた。

「レオポルト!」
「は、はいっ! 父上、どうなさいましたか?」
「その、フェルナンドの娘の母の名前は、なんとおっしゃるのだ?」
「彼女の母の名は確か......シャーロットでございます」

レオポルトは父の呼びかけに驚き、慌てて返事をした。父は、一体どうしてしまったのかとレオポルトは困惑を覚える。そして父は、すぐに息子に次の質問を問いかけた。レオポルトは一瞬言葉を詰まらせるが、エリザベートと話したことを思い出し、慎重な表情で答える。

その答えに、レオニードは微動だにせず、黙って息子を見つめるのみであった。しかし、確信を持ったような心情だった。

「そ、それで……その、フェルナンド男爵家の……尊きお嬢様に、何かはしていないだろうな?」

レオニードは震える声で話したが、その表情は一切の余裕を見せず、真剣そのものだった。そして、額には冷や汗がにじんでいた。

「父上、エリザベートは心地よい性格の素晴らしい女性でした。彼女の笑顔と優しさに、私は心を奪われました」

父の質問には不安と焦りがこもっていたが、レオポルトはエリザベートと話した際の正直な印象をそのまま伝えた。

兄の発言を聞いて、マリーヌは声を高めて元気よく反応した。

「お父様! 私は、パーティでしっかり言ってやりましたわ! お兄様を誘惑する貧乏で品位に欠ける上に、ふしだらな女だと叱り飛ばしてやりましたわ!」

「な、な、な、なんだと!? マ、マリーヌ……そんなことを言ったのか? 恐れ多い……」

レオニードは汗が止めどなく流れ、雨に打たれたかのように全身がびしょ濡れになった。表向きは貧乏な男爵家であったが、皇帝だけがその真実を知っていた。シャーロットが『クロイツベルク』の血を引き、正当な当主であること。レオニードは、父である前皇帝から皇帝になる際に教えられた。代々、国の頂点に立つ皇帝だけがその真実を受け継いで、この秘密を知ることが許されていたのだ。

「――な、何という事態だ……」

フェルナンド男爵家の当主は、世界を支配する『クロイツベルク』の一族であり、自分たち皇族よりも遥かに高貴な存在である。その尊い血統を継ぐエリザベートに対し、娘があまりにも無礼なことをしてしまった。そのため、マリーヌの非礼を謝罪するためにお茶会に招待し、誠意を込めて謝るつもりだった。

帝国の皇帝といえども、所詮は一国の王に過ぎない。『クロイツベルク』の権力や歴史、財力は、いずれも帝国を遥かに超越しており、その規模は桁違いで比べ物にならなかった。
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