婚約者の家に行ったら幼馴染がいた。彼と親密すぎて婚約破棄したい。

第16話

「エリザベスは？」
「いつものように迎えが来て帰った」
「それより恋人とは仲直りできたの？」
「大丈夫だよ。分かってもらえたから」
「本当か！そりゃ良かった！」
「じゃあ早速エリザベスに知らせましょうね。帰る時もクロエさんに嫌われたって騒いで大変だったのよ…」

クロエの心の内を理解してジャックは帰路につく。帰って来ると両親が落ち着かない様子で出迎えてくれて結局はクロエとの関係を修復して平和的に問題を解決したと話す。

その瞬間、心の奥に安らぎを感じ肩の荷が下りたように体が軽くなった両親は、悪意の欠片もない純粋な表情で喜び子供みたいに元気にはしゃいで歓喜に酔いしれて抱き合う。母親は無意識のうちにエリザベスに報告しようと話を進めた。

「それとこれからはクロエに甘えるのはやめよう」
「なんだ？どういうことだ？」
「あなた恋人と仲直りしたんじゃないの？」

浮かれた声で騒ぎ上機嫌で小躍りしている両親にジャックは割って入り、手で制止すると喜んでいる両親の気分を断ち切るように口を開く。

すると先ほどの喜びが嘘のようなとても不服そうな口調でしつこく絡んで追及してくる。両親の差し迫った雰囲気にジャックはひるみ圧迫感を感じるが気持ちをどうにか保つ。クロエの父親に狂ったように激しく怒鳴り続けられたおかげなのか知らない間に厄介事に立ち向かう耐性がついていた。

「明日はエリザベスの家に行って金銭の援助はもう断ろうと伝えてきます」
「なんだと！ふざけるな！お前そんな勝手なことは許さん！承知せんぞ！」
「そうよジャック目を覚ましなさい！あなたは私達のように経済的に苦しい生活を経験をしてないからそんな軽はずみなことが言えるの！現実が見えてないわ。貧乏はすごく辛いのよ…」

勇気をふり絞り戦場に飛び込むような思いでジャックが本題を切り出す。間髪いれずに両親の激しい勢いに襲われる。怒りが一気に頂点に達して半狂乱になり野犬みたいに息子に吠えまくる父親。

過ぎ去った日々に体験した二度と味わいたくない悲しい貧困生活は、着ている衣服は汚れていて大抵誰かの貰い物だった。寝る暇もないほど絶え間なく働き続ける地獄そのもので生きた心地のしない奴隷のほうがましと感じる屈辱な暮らし。

常にお腹が減っていて食事は毎日のように水と塩だけで空腹を満たした。脳裏によみがえる壮絶な過去を思い出し言葉に熱を込めて懸命に息子を説得する母親の顔は寂しそうに涙ぐんでいる。

母親のそんな表情を見れば自分が悪いことを言っているみたいでジャックは身の置きどころのない心情になって苦しんだ顔で考え込んでしまう。

「確かに家はエリザベスの家から長年に渡って支援を受けているが、我が家にとっては大金でもエリザベスの家からしたら大した金額ではない」
「そういう問題じゃないだろ？」
「ジャックよく聞け！それにな、お前は知らないかもしれないけどエリザベスの両親からは家は感謝されてるんだぞ？」
「なんで？」
「その通りよ。いつもエリザベスの面倒を見て親身に世話を焼いてあちら側からは本当にありがたいとお礼を言われているのよ。ジャックお願いだから余計なことはしないで…」

両親からエリザベス家との付き合いの真実を聞かされてひどく動揺したジャックだった。しかし恋人のクロエの問題もある。エリザベスが現在最も甘える対象はジャックと両親ではなくクロエに心変わりしているのだ。

とりあえず援助のことは両親からの尋常でない説得で置いといてクロエの本音を伝えるために、ジャックはエリザベスの家に行くことにした。澄んだ大きな瞳には揺るぎない決意がうかがえる。

翌日の昼頃エリザベスの家に到着したジャックは、いつ見ても驚かずにはいられない。王様の住む城が犬小屋に思えるほどの並外れて立派な作りの大豪邸に、ぼんやりとした無気力な表情で口を半開きにして石像みたいに立ち尽くしていた。