異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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169話 「卵が」

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ドラゴンステーキの件から少し経った頃、街の様子は依然とすっかり変わりあたり一面白で覆われている。
ぱらぱらと振り出した雪が次第に強まり、一晩明けてみればごらんの通り雪かきをしなければまともに歩けない程積もってしまっていたのである。

「んっし、靴よし上着もよし。うーちゃんはどう?」

うー(わしゃべつにあつぎせんでもー)

「そりゃそうかも知れないけどさー。こんな雪の中薄着なんて見てるこっちが寒くなるよ……ほら、せっかく母ちゃん用意してくれたんだから着た着た」

気温もぐっと下がり、本格的な冬服を着こむ加賀に対し薄着ですませようとするうーちゃん。確かに天然の毛皮を着ている分寒さには強い……というかどんだけ寒くても平気なのではと思われるがそれはそれ。見ていて寒いし、周りの視線もなんだかんだで気になるものである。
加賀と同じく防寒対策ばっちりとなったうーちゃんを見て加賀は満足げに頷く。

「おまたせ」

「おー……セーター似合うねやっぱり。上にそれ羽織っていくのかな?」

二人に少し遅れて玄関へときたアイネであるが、こちらもまた防寒対策ばっちりな格好をしている。
咲耶が気合をいれて作ったセーターはお世辞ではなく似合っており、アイネ自身も満更ではない様子。
その場でくるっと回ったり、上に外套を羽織ってみたりと二人はしばらく鑑賞会を楽しんでいた。

うー(はよはよ)

「っと、ごめんうーちゃん。すっかり夢中になってたー……それじゃいきましょか。今日は寒いし温かい料理がいいかな……さむっ」

うーちゃんに突かれはっと我に返る加賀、玄関から出ようと扉を開けてみれば一気に隙間風が吹き込んでくきて……中と外との気温差のあまり思わず扉を閉めてしまう。

「閉めちゃだめ。寒いだろうけど行くよ……ほら」

「しゃぶいー」

寒がる加賀の手を引き玄関を出るアイネとそれに続くうーちゃん。
玄関前は今朝方デーモンが泣く泣く雪かきをしていた為、綺麗に雪が除けられており、歩く分には不自由はない。大通りも雪かき済みなのと人通りがそれなりにある為こちらも問題ないだろう。

「うぅー思ってた以上に寒い……絶対温かいのつくろ……」

「そうね……温かい物と言えばなんだろね? グラタン?」

うー(ぐらたんすーぷ)

「グラタンで被る……いっか、別に。寒いし、今日ぐらいとことん温かいの作っちゃおー」

温かい物と聞いてと言うよりか自分が食べたいものを述べるアイネとうーちゃんの二人。
加賀は何となくは察しつつも確かに両方温かい……と言うよりは熱い食べ物であり、今日みたいな寒い日には良いだろうと被るのも気にせず作る事にしたようだ。


「ハンズさーん、卵くださいなー。あと鶏肉も10kgぐらい」

「お、加賀ちゃんか! ほい、卵はこっちな。鶏肉は今包むからまってておくれ」

宿から遠い順に店を巡り、最後に宿のすぐ近くにあるハンズの肉屋へと向かった3人。
ここでは毎日卵や肉を購入しており、ハンズもそれが分かっているので毎日卵を用意しておいてくれるのだ。

「あ、そうだ加賀ちゃん……ちょっとまずいこなったみたいでさ」

「まずいこと?」

包んだ鶏肉を加賀にわたし声を潜め話しかけるハンズ。
どうもあまり良い話ではなさそうで、伝えるハンズの顔は暗く曇っている。

「養鶏場のほうで何かあったらしくて今日の分だけはなんとか確保したんだけど……明日から卵が入らないかも知れないんだよ」

「えーっ」

一体何があったのかときょとんとした表情の加賀へ伝えられたのは思ったよりも深刻な内容であった。
加賀が宿で出す料理では卵は主力の一つである。卵料理は大人気であるし、他の料理にもちょくちょく材料として使うのだ。
アイネも他人事ではない、彼女が凝っているデザートにも卵は良く使われている。
彼女にとってもその話はかなりショックだったようで普段そこまで動かない顔の表情。それが今は目を見開き驚いた様子がありありと浮かんでいる。


「どうしよ……卵ないと困るねほんと」

肉屋からとぼとぼとした足取りで出てくる3人。
ハンズに理由を聞くが彼も今朝少し情報を得ただけでそれ以上の情報はまだ持っていないようである。食事の用意もありこれ以上情報は得られない事から3人はハンズに卵を確保しておいてくれた事に礼を言い店を後にしたのだ。

「……今日は無理だけど、明日でもギルドいきましょう。何か情報があるかも知れない」

うっ(んだんだ)

ギルドに行こうというアイネにこくこくと頷き同意するうーちゃん。
アイネはもちろんうーちゃんも卵を使った料理は好きである。二人共うっすら目が赤く光ってるあたり力尽くで解決できる問題なら解決するつもりなのかも知れない。

「うん、そだねー……卵かー……ラヴィが知ったら発狂しそう」

二人に同意しつつ、加賀はあることで頭を悩ましていた。
卵が主食といっても過言ではないぐらい卵好きなラヴィ。彼がこのことを知れば落ち込むのは目に見えている。
だがここで悩んでいても明日以降卵が入手出来ないかも知れないのは変わらない、加賀は気持ちを切り替えるように頭を軽く振り宿の扉を開けるのであった。
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