異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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168話 「ファンタジーな食べ物は好きですか? 2」

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「やあ、加賀殿! また来てしまいましたぞ」

加賀を見て嬉しそうに手を振るドラゴン。
宿で提供される食事に味を占めたのかここ最近は週1ペースで宿に来ている。

「これはまた丁度良いところに、いらっしゃいドラゴンさん」

また夕食を食べにきたのであろうドラゴンを笑顔で迎え入れる加賀。
ドラゴン丁度良いと言われ軽く首をかしげるも大した気にした様子もなく食堂の中へと入っていく。

「ちょうどねー、新しいメニュー考えててね」

「ほう! それはまた丁度いい時に来たようですな! して、どんなメニューにするつもりなので?」

椅子に腰かけたドラゴンに飲み物を出し、ちらりと食堂の扉に視線を向けてから自らも椅子に座る加賀。
扉の前には何時の間に来たのだろうか、アイネが静かに立っている。

「…………ステーキかなあ、やっぱり」

ぽつりとそう呟く加賀。
イメージ的にやはりステーキが頭に思い浮かんだのだろう。

「ほう! たまにはそういった単純なのも良いですな……いや、加賀殿の事です、ソースが普通ではないとか?」

「いえー……ちょっと変わった食材使ってみようかな、なんて」

何か特別なソースを使うのかと尋ねるドラゴンであるが、加賀にそのつもりはない。
普段食べているものとの比較の為、塩コショウといつも通りのグレイビーソース。つかったとしてもその辺りだろう。

「なるほどなるほど、変わった食材ですか……はて、それでなぜ吾輩が来たのをちょうど良いと?」

さきほどなぜ加賀が丁度良いと言ったのか、それが気になったらしく加賀へと尋ねる。
加賀は少し顔をふせ少し小さな声で囁くように答える。

「ん、ちょっと手伝ってほしい事があって」

「そうでしたか! いいですとも、吾輩で出来る事であればなんでもしますぞ!」

手伝って欲しいと言われ胸を叩いて請け負うドラゴン。
普段世話になってる事もありかなり乗り気である。

「……そう、それじゃあ――」

なんでもと聞いた加賀の口元にすっと弧が浮かぶ。



時刻は夕方、ダンジョンでの探索を終えた探索者達がぞろぞろと宿へと戻り皆そろって夕食を取っている。
今日のメニューは皿から溢れんばかりの大きさのステーキである。
シンプルに塩コショウのみで味付けされたステーキは、素材と焼き方が良いのか皆美味しそうに頬張っている。

「このステーキうまいっすね」

「んー、ほんとだ美味しいね。……おいしいけど何のお肉だろこれ?」

「はて? なんじゃろな、どこかで食った気がせんでもないが……おおい、加賀ちゃんやこれ何の肉?」

配膳中に呼びかけられた加賀。
何の肉と尋ねられるとにひっと意味ありげに笑うと口元に指をあてる。

「……秘密です」

「秘密とな。余計気になるのお……まあええわい。もう1皿貰えるかの?」

「はいはーい」

厨房へと戻り追加の注文を伝える加賀。
中では次々くる追加注文に対応するべくアイネとバクスが複数のフライパンを振っている。

「加賀、そろそろ食材つきちゃうよ」

「ん、そっかあ……じゃあこれ1皿貰ってくね。ドラゴンさんにもいっぱい食べさせないと」

そう言いてステーキの乗った皿を一つ手に取る加賀、厨房を出て一つのテーブルへと向かう。

「はい、ドラゴンさん。追加のステーキですよ」

加賀が向かった先ではドラゴンが椅子に座り何かを飲んでいた。彼の前にある皿は既に空である。
追加のステーキを加賀から受け取るとドラゴンは礼を口にする。

「ありがとうございます加賀殿。私は食べても美味しくありませんよ」

「こちらこそありがとうございます。わざわざこんな食材取ってきてもらってしまって……」

ドラゴンのステーキが食べ……ではなく珍しい食材が食べたい事をドラゴンに伝えたところ彼はすぐに汽水湖へと向かい、加賀達はもとよりヒューゴやバクス、アイネですら見たことがない食材を取ってきたのだ。
それは一見するとごつごつした鱗の生えた魚であるが、普通と違う所としては爬虫類を思わせる四肢があることだ。
魚なのか爬虫類なのか判断にこまるところだが、ドラゴン曰く間違いなく魚でああるとの事。
毒もなく食味も良いとの事で味見をした上で実際だしてみる事にしたのだ。結果としては評判はかなり上々である。

「いや、何普段世話になっておりますからな! 私は食べても美味しくありませんよ、毒ありますよ」

「ん……それじゃ残りの物も持ってきますのでゆっくりしていってくださいね」

そう言ってその足で八木のいる席へと向かう加賀。
八木は珍しい食材を食べれた事もありかなりご機嫌である。

「八木ー。どう? 口にはあったかな」

「お、加賀~あんがとな。むっちゃいけるぞこれ!」

フォークに刺したステーキを加賀に見せ笑顔で答える八木。
すでに3枚ほど空になった皿が積み重なっており、その気に入り具合がよく分かる。

「やー、やっぱファンタジーな食材ってあるんだなあ」

「そーねえ。あんな魚? 見たことないよね」

加賀の言葉にほんとほんとと頷く八木。
そのままフォークにささったステーキをばくりと食べ、口に着いた脂をぺろりと舐める。

「うまっ……あれだな、こうなるとやっぱあれだよな。ドラゴンステーキ食べてみたいよな」

「……そーだね」

ドラゴンステーキと聞いて少し顔を伏せて呟く加賀。
その顔に浮かんでいたのは果たしてなんであろうか。
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