異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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170話 「卵がピンチらしい」

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3人が宿に戻ると厨房からごそごそと音が聞こえてくる。
厨房で何かする者となると3人の他には一人しかいない、3人が一旦荷物をテーブルに置いたりしていると案の定厨房から皿を片手にバクスが現れた。

「おう、買い物お疲れ。これ、落ち着いたらちょっと味見して見てくれないか?」

バクスがそう言って空いているテーブルの上に置いたのはやはりと言うか燻製である、それもつい先ほど話題に上がっていた卵の燻製だ。

「いいですよー、薫玉ですか。満足いく出来になったんで?」

うっ(うまっ)

出来を尋ねる加賀であるが、バクスが答えるより先にうーちゃんが燻玉を口に放り込んでいた。

「美味しいそうです、うまく出来たみたいですねー」

うーちゃんの頭を撫で感想を伝える加賀。だがバクスの表情は少し複雑そうである、どうかしたのだろうかと首を傾げる加賀に気づいたバクス、顔に軽く苦笑を浮かべ軽く手を振る。

「いや、なに。褒められるのは嬉しいがまだ納得いった訳ではなくてなあ……もうちょっとなんだが、まあわりと言い感じにはなってきてるんで一区切りと言ったところだ」

「へー……あ、確かにおいしい」

「ほんとね」

バクス自身はまだまだ納得いっていないようであるが燻玉は十分に美味しいものに仕上がっているようだ。加賀の反応もアイネの反応もかなり良い。

「うむ……うまいが、香りがちょっとなあ……また色々変えて作ってみるか」

「……あ」

燻玉夢中で例の件の事を一瞬忘れていた加賀であるが、バクスの言葉に再び記憶がよみがえる。
調味料の配合や、燻製に使うチップはどうするか等真剣な表情で考えをめぐらすバクスを見て申し訳ないと思いつつも先ほどの件を伝えるようだ。

「…………」

「えぇっと……明日ギルドに行って事情調べてみますので。もし解決できそうならアイネさんとかがんばるそうですし。だからすぐまた手に入る様になると思いますよ?」

膝を抱えて蹲りそうな勢いで落ち込むバクスをなんとか慰めようとする加賀。
バクスはふらふらと立ち上がるとアイネをじっと見つめ口を開く。

「くれぐれもよろしく頼む」

「ん、まかせて」

「……ほどほどにお願いします」

無茶苦茶真面目にやりとりする二人とみて不安そう表情を浮かべる加賀。
アイネが本気で対処するとなると一体どうなるのか正直想像はつかない。
そしてバクスでこの反応と言う事は果たしてラヴィは一体どうなってしまうのか。不安を胸に食事の用意をすべく厨房へと向かうのであった。


「うぉーい、ラヴィ息してる?」

椅子に座ったまま全身を脱力させたまま動かないラヴィ。
目の前でヒューゴが手をひらひらと振るが反応する様子はない。

「ショック受けすぎだろおい、いやまあ俺もショックだったけどさあ……って、おいそれ俺のシュークリーム! とんじゃねえっ」

卵が入手できなくなるかも、その一言を聞いた瞬間ラヴィは静かに息絶え、気が付けばデザートの争奪戦が始まっていた。

「ったく、油断も隙もありゃしねえ……で、実際どうなの?」

「うん?」

手のひらに収まりきらない巨大サイズなシューを確保したヒューゴ。味わうようにちびちびと皮をかじりながら加賀へ話かける。

「本当に卵入手できなさそうなん? 実はすぐ再入荷したりすんでないの?」

「うーん」

ヒューゴに問われ持っていたコップをテーブルに置く加賀。
少し考え、再びコップを手に取り口へと運ぶ。そして考えがまとまったのかヒューゴに向かい口を開く。

「肉屋さんから聞いた話だから……たぶん本当だと思う。再入荷は分からないよー、だってまだほとんど情報ないんだもん」

「そっかー……明日ギルド行くんだっけか。ちょっとラヴィも連れてってやってくんね? 多分卵気になってダンジョンどころじゃねーだろうから」

それなら卵関係のやらせてたほうがましと言うヒューゴ。
加賀は椅子に腰かけ口を開け天井を仰ぎ見たままのラヴィ、その瞳から零れ落ちる涙を見て静かに頷くのであった。
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