異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
199 / 332

197話 「ちょっとした悩み」

しおりを挟む
ワカサギ釣りの翌日。その日の朝食は朝から珍しく揚げ物が並んでいた。
釣りに行けなかった者達にも食べさせてあげようと大量に釣ったワカサギを凍らせ持ち帰ってきていたのだ。
昨日と比べて鮮度が落ちたせいか若干匂いが気になるが、それでも十分美味しく頂けるものとなっている。


「美味いなこの魚……俺も行きたかったなあ」

ワカサギの天ぷらををさくりと一口食べ、ぽつりと呟くとギュネイ。彼はダンジョンのボス部屋いく為にワカサギ釣りに行けなかったメンバーの一人である。

「ギュネイさんも釣り好きだったんですか?」

「んや。俺は普通だけどソシエが好きなんだよ」

「っへー」

ソシエが好きと聞いて意外そうな表情を浮かべる加賀。ソシエはギュネイの相方である非常に小柄な女性である。加賀の頭の中では釣りをする人=男性が多いと言うイメージあり少し意外に思ったのだ。

「野宿するとき近くに川とかあるとさ何時も大量に釣ってきてくれてな。塩焼きして食うんだけどこれがまた美味くてさ、皆も美味そうにしてると釣った本人は嬉しいらしくて、何時もにこにこしながら釣りしに行くんだよ」

「それは分かりますね」

野宿する際に食べる物はどうしても保存食が多くなる。とることが可能なら野生の動物を、川があるならば魚をとなるのは自然のことなのかも知れない。

「それにあいつの魚にかぶりつく姿がまた可愛くてな――」

どうもどこかスイッチが入ってしまったのか相方について語り始めたギュネイ。加賀は途中で遮るのも悪いかと思いそのまま話を聞くことにする……が。

(……やばい、終わんない)

「――だからさ、今度一緒に行こうぜって約束したんだよ」

およそ数十分、ギュネイは話し始めるとそのまま止まる事なく話し続けた。普段そこまで饒舌な人物では無かったはずだが相方のことになると変わってしまうようだ。
いい加減のろけ話を聞き続けるのも辛くなってきた頃、救いの手は差し伸べられた

「加賀……? そろそろ屋台の準備しないと」

「! そうだった。アイネさんありがと! ギュネイさんごめん、ちょっと準備しないといけなくてー」

「っと、すまんね。ついつい長話しちまった、屋台がんばってな」

中々食堂から戻ってこない加賀を心配したアイネが声を掛けに来たのだ。これ幸いと席をさっと立って厨房へと向かうと加賀は屋台で出す料理の仕上げに入る。

「屋台出すようになってもう2年かー……」

そうポツリと呟く加賀。もうすぐ年末であり、ふと屋台を出す様になってから既に2年経過している事に気が付いたのだ。

「そんなにやってたんだね」

「はじめはただの調査のつもりだったんだけどね。常連さんついちゃってやめるにやめれなく……今にいたると」

楽しいから良いんだけどねと少し苦笑の混じった笑顔を浮かべる加賀。

「一応技術を広めるのが目的なのだから……続けた方が良いと思うけど」

「んっー……常連さんしか買わないから広められてるのかちょっと疑問に。……ほら、八木は何だかんだで技術を広めてる訳で……最近だとアドバイスを特にしなくても設計できるようになって来てるって話だし……まあ、ちょっと気になってしまったわけなのですよ」

加賀自身これで良いのかなと思う所があったのだろう。アイネの言葉を受けて胸の内を明かすように語っていく。

「そうね……後で考えてみましょうか。無理の無い範囲で何か出来ることはあるかも知れないよ」

アイネは子供をあやすように加賀の頭を撫でそう語りかける。

「ありがとアイネさん。……んし、屋台だしにいこっか!」

頭を撫でられのは嬉しくもあるが、気恥ずかしくもある。
赤くなった顔を誤魔化すように加賀は少し慌てたように外に行く準備をするのであった。


「うぃーっす」

屋台で何時も通り常連さんに料理を売っていた加賀であったが、今日は何時もと違う客がきたようだ。

「あれ、八木じゃんどーしたの?」

客とは言っても八木であるが。
八木は加賀に用事があるようで事務所の方から屋台へととことこ近づいていく。

「ちょっとお願いごとあってさー。今日のお昼なんだけど……」

「何かリクエスト? いいよ、変なのじゃなきゃ」

どうやら昼食のリクエストをしにきたようだ。
加賀としてもそれぐらいであれば断る理由も無いのであっさりと承諾する。

「あんがと。……変なのじゃ無いとは思うけどグラコロバーガーが食いたくなって……」

「……まあ、冬だしね。そんな準備に時間かからないし良いよ」

「よっしゃ! 頼んだぜいー」

八木のリクエストは冬限定な感じのバーガーであった。
昨日の天ぷらといい、日本の食べ物に対する思いがだんだん強くなっているのかも知れない。

「ほー、なんか気になる名前だな」

スキップしながら事務所に戻る八木を見送っていると不意に後ろから声が掛かる。

「ちょっと俺も食ってみたいなー」

声を掛けてきたのはパン屋の主人であるオージアスであった。
その殺人鬼的な顔に笑みを浮かべると自分も食べてみたいと加賀に要望するのであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...