異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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265話 「出発」

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応接室代わりの宿の食堂にて護衛として各国から派遣されて来た者と歓談する八木と加賀の二人。
笑みを浮かべにこやかに対応している様だが、その顔には疲れが浮かんでいる。

「道中の警護を担当します。ネイアス国のスーリと申します」

「同じくアグニです」

「加賀です。こちらが八木です」

「道中の警護をよろしくお願い致します」

道中の警護をよこすと手紙に書いてあった通り、護衛が二人の元へと尋ねに来てはいるのだが問題は一気に来ないでまばらに来る事だ。
どうも各国がそれぞれ護衛を付けた事で到着するタイミングがばらばらになってしまっているそうだ。

「……どうしよ」

「ん?」

一体何組目になるかにもはや分からないが、護衛との顔合わせを終えた加賀は深く息を吐き、頭を抱える。

「もう半分ぐらい名前忘れてるんだけど」

「俺はもう覚えるの諦めたぞ」

10人を超えた辺りから名前がうろ覚えになる加賀、と覚えることを既に放棄している八木。
そんな二人の前に湯気を立てたコップがことりと置かれる。

「今の30人目ね」

顔合わせが終わったのを見てアイネがお茶を淹れてくれたのだ。

「思ってたより多いねえ……」

「この街を通る国は全て護衛を出しているみたいね」

書類をぺらぺらと捲り、そう話すアイネ。
書類には護衛の出身国など色々な情報が書かれているようだ。

「うひゃー」

「東側の国でもわざわざ寄越して来たところもあるね」

「何だってそんなに……いやありがたいとは思うけど」

西側の国であれば会議に参加する際に、フォルセイリアの街を通る。
その際に護衛のものを残して行けば良いが東側の国となるとそういう訳にはいかない。わざわざ国際会議場を通り過ぎてこの街まで来ていたりする。

「例の機械が思った以上に影響でかかったそう。出来るだけ仲良くしておこうと思ったんじゃない?」

「そっかあー……しゃーないかあ」

そういう事であれば仕方ないかと諦め気味の二人。
下手にちょっかい掛けられるのと比べれば大分ましだろう。


「これで全員?」

「まだ何国か来ていませんが……道中の天候によっては遅れる事もございます。出発は早めの方がよろしいかと」

「そう、ありがとう」

護衛の者へ全員揃ったのか確認するアイネ。
どうも何名か来ていない様だが、会議の日程は決まっている、アイネは彼らを待つより出発する事を選んだようだ。

「ほかの皆は準備出来ている?」

「えっと、もう必要な荷物は積みこんだって言ってたかな」

「……それじゃ明日出ましょうか。皆には私から伝えておくね」

「はーい」

探索者質の準備が終わっているのを確認するとそれぞれに明日出発する事を伝えるため、部屋を後にしようとし、ふと足を止め振り返る。

「そうだ、後でお願いしたい事があるのだけど……夕食後にちょっといい?」

「ん、いいよー。そいじゃ夕飯の支度しにいくね」

出発する前に何かやる事があるらしい、加賀に一声かけ今度こそ部屋を後にするのであった。


そして翌日。
一同は東門に集合するとそれぞれ乗り込む馬車へと荷物を押し込んでいく。
装飾派手なのからシンプルなのまで、大きさも大小様々な馬車があるがやはりバクスの馬車が馬も含め一番目立っている。

「……道中の馬車を用意したのですが、いやはやまさかこんなに立派な馬車があるとは」

護衛対象用にと馬車を用意してくれていた様だが、装飾部分はともかく実用性としてはバクスの馬車よりやはり見劣りする。
護衛という事を考えればバクスの馬車一択だろう。

「探索者の方々を……あ、いえ何でもありません」

それならば探索者の者をとちらりと視線を向ける護衛たち。
ここ数日の間に探索者達と八木や加賀が非常に親密なのは分かっていた。
なので印象を良く出来るならばと考えた訳であるが、探索者達もバクスの馬車に負けず劣らず立派な馬車を持っていたりする。

「それじゃ出発しようか」

馬車の数は十分ある。
馬に乗るもの意外は全て馬車へと乗り込んだのを確認して静かに馬車を進めるアイネ。
順調に行けば1週間程で目的地へと着くだろう。


街を出て進むこと30分程。
小さな丘を越え、すでに街の姿は見えなくなっていた。

「……そろそろいいかな?」

「そうね」

窓から後ろの様子を伺っていた加賀がそう呟くと何やら荷物をごそごそとあさりだす。

「それじゃー、これ。1年寝かせておいたパウンドケーキ」

取り出したのは1年毎日魔力を込めながら寝かせたパウンドケーキだ。
お酒がたっぷりと染み込んだそれは腐る事無くじっくりと熟成され恐ろしく甘く芳醇な香りを漂わせている。
間違いなく美味しいであろう文字通り加賀特製のケーキだが、ある理由によりあまり食べたいと言う気を起さなくなっていた。

「……なんか光ってね?」

「そーなんだよね。何か半年過ぎたあたりから光だして……」

「毎日魔力こめてたんだっけ?」

魔力を込めるほど美味しくなる……という訳ではないが。
気休め程度に疲労回復効果がついたり、少し身体能力が上がったりとちょっとした追加効果が付く。
そしてアイネにとっては加賀が作った料理は勿論だが、魔力が籠っているとより好ましい様だ。
そのため加賀はアイネの好物であるケーキに魔力をこめていたのだが……半年を過ぎたあたりから光出したらしい。

「いやー……人体に有害そうな光かたしてんなーって、アイネさん!?」

「……おいし」

ぱっと見あまり体によさそうな光ではないが。
アイネは躊躇せずケーキを口に入れる。

「それじゃどんどん召喚するね」

そして一気に魔法陣が展開され、何時も使役しているデーモンに比べより巨大で強力そうなデーモンが次々召喚されていく。
道中の護衛は派遣されて来た者たちにまかせっきりにするつもりは無いのだ。
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