異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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266話 「道中」

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「楽しそうだな」

「う?」

バクスの問いかけに反応し顔を上げる加賀だがその手は作業を続けたままだ。
コンロの火に掛けたフライパンを揺すり、バターの塊を投入する。
夕飯に出すメインの肉料理、それのソースを作成しているのだ。

「そうだねー。外で寝泊まりしたり料理したりとか普段出来ないから、何か楽しいんだよね」

「まあ、分からんでもない。非日常感と言うか……現役の頃はそんな風に思うことは無かったんだがな」

そう少し感慨深げに呟くバクス。
バクスが現役の探索者だった時には外で野宿することは珍しく無かった。
その当時は夜中は見張りはしないと行けない上に、寝具を使わないのであまり眠りの質も良くは無い。絶対に嫌だと言うわけでも無いが好んでやろうとも思わなかった、だが探索者を辞めてたまに野宿をすると不思議なことに楽しく感じるのだ。

「こっちは出来たぞ」

「……ん、こっちも出来たよ。他の人はどんな感じかなー?」

会話しながらも二人は作業を続けていた。
バクスはオーブンで焼き上げた肉に串を刺すと、焼き上がりを確認し。加賀はソースをスプーンですくい口に運ぶと納得したように軽く頷く。

「皆だいじょぶそーね。やっぱ慣れてるんだね」

宿と違い調理出来る環境が整っている訳ではなく、いくつか携帯できそうな道具や設備を馬車に突っ込んできているがそれだけで全員が満足できる量を作れるかと言えば応えは否だ。
そのため料理を作っているのは加賀とバクスだけでは無い、人数分の量を確保するために手が空いている物は各自スープを用意したり、簡単な軽食を用意したりしている。

「お? 飯出来た?」

「出来たよー。取り分けるから皆お皿持ってきてねー」

二人の様子から料理が出来たことを察知した八木や周囲に居た者たちがわらわらと加賀やバクスの元へと群がってくる。
ほぼ一日中馬車の中とは言えお腹は空くのである。

「うめえ」

「うまいな……やはり場所は取るが持ってきて正解だったな」

「一気に焼けるから便利だよね。火加減の調整も簡単だしー」

わざわざ持ってきた甲斐があり、メインの肉料理は宿で出すものと遜色ない出来栄えであった。
焚き火を囲んで食事をするというシチュエーションを考えれば宿で食べるよりも美味しく感じてすらあるだろう。

「お、スープもいける……あれ? これ作ったのって……」

具沢山で醤油ベースの少し茶色いスープを口にし笑みを浮かべる八木であったが、ふとこのスープは誰が作ったのだろうと疑問が浮かぶ。
メインの肉料理は加賀とバクスが担当し、アイネは特に作って居なかったように見えたのだ。

「俺だぞ……や、何その顔」

そうなると誰が作ったのかと言えば……まさかのヒューゴであった。
目を見開き固まった八木の表情からその驚きようが伺える。

「すんません、何か意外だったんで……料理うまいんですね」

「別にうまかねーよ。料理つってもお湯に具材ぶっこんで適当に味付けしただけだぞ?」

「でも火の通り具合とか丁度良いし……もしかして皆料理できるんすかね」

料理を褒める八木に対して否定するヒューゴ。
謙遜している様子はなく本心から言っているように見える。もしかして皆このレベルで作れるのかと回りを見る八木であったが、何名かは明らかに視線を逸らす。

「あー……そういや今日は野宿っすけど、明日は宿で泊まるんすかね」

何となく察した八木は話題を変えるべく、明日の宿について尋ねた。

「街に入るので恐らくそうなると思いますが……私達は馬車で良いかも知れないですね」

「……ん、宿より馬車の方が快適で安全」

八木の問いかけにチェスターが反応し、それを肯定するようにアイネも言葉を口にする。

「やはりそうですか……あの、ところでアイネさん。その……光ってる物体は一体……」

震える手ですっとアイネの方を指さすチェスター。
アイネの手元には例の光るケーキがあった。

「……あげないよ?」

「いや、いらないです……」

すっとケーキを隠す仕草をするアイネに真顔でいらないと言うチェスター。
アイネは少し残念そうな表情を浮かべるとケーキを一口食べる。

「……おいしいのに」

上げたくはないがいらないと言われるとそれはそれで残念な気持ちになるらしい。
こんな感じで一日目は何事もなく終えるのであった。


そしてその数日後、一行はまもなく山と山の間にある道、そこに設けられた関所へと着くところまで道を進んでいた。

「平和だなあ……」

「暇っす」

馬車の上でぼーっとあたりを警戒するガイとギュネイの二人。

「こんだけの大所帯だからな、人も魔物も早々手を出しては来ないか……時折こっち見てるのが居てもすぐ消えるしな」

未だにトラブルらしいトラブルは起きていない。
食事中に隣の奴からおかずを一品取った取らないで喧嘩があったぐらいだろう。
あまりにも暇すぎて警戒もどこかおろそかになりつつある。それは二人だけではなく回りの馬車も同じ様だ。

「んー……お? 関所見えてきたな」

皆がぼーっとしてようがしまいが馬車は進む。
ふとチェスターが前を見るとそこには遠目に関所が見えてきたいた。


「……確かに。通ってよし!」

「あっさり通れたな」

関所も事前に連絡が来ているのだろう。書面を確認し馬車の中をちらりと見ただけであっさり通される。

「さて、ここからは真面目にやらんとな」

関所を通り目の前の光景に気を引き締める。
関所から先は道の左右が山となっており、高所から奇襲を受ける可能性が高い。
そのためより一層警戒を強くする必要があるだろう。

「おう、ちょっと通るぜ」

「おじゃまー」

チェスターが気を引き締めているとヒューゴとシェイラの二人が馬車の上へと昇ってきた。

「こっからは4人体制な、もうちょいしたら二人追加でくっからそしたら交代して休んでな」

ここから先は各馬車につき見張りが4人体制となる様だ。
魔物であれ人であれ、高所からの奇襲は恐ろしいものである。


「……何も無かったな」

「何も無いに越したことはないでしょう……交代ですよ」

そして翌日。
馬車が通った道、そこから少し離れた木々の間には様々ないきものがその亡骸を晒していた。
馬車に対し危害を加えようとしたものは全て残さずデーモンによって処理されていたりする。
一行は何事もなく山間部を抜けることが出来たのであった。
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