269 / 332
266話 「道中」
しおりを挟む
「楽しそうだな」
「う?」
バクスの問いかけに反応し顔を上げる加賀だがその手は作業を続けたままだ。
コンロの火に掛けたフライパンを揺すり、バターの塊を投入する。
夕飯に出すメインの肉料理、それのソースを作成しているのだ。
「そうだねー。外で寝泊まりしたり料理したりとか普段出来ないから、何か楽しいんだよね」
「まあ、分からんでもない。非日常感と言うか……現役の頃はそんな風に思うことは無かったんだがな」
そう少し感慨深げに呟くバクス。
バクスが現役の探索者だった時には外で野宿することは珍しく無かった。
その当時は夜中は見張りはしないと行けない上に、寝具を使わないのであまり眠りの質も良くは無い。絶対に嫌だと言うわけでも無いが好んでやろうとも思わなかった、だが探索者を辞めてたまに野宿をすると不思議なことに楽しく感じるのだ。
「こっちは出来たぞ」
「……ん、こっちも出来たよ。他の人はどんな感じかなー?」
会話しながらも二人は作業を続けていた。
バクスはオーブンで焼き上げた肉に串を刺すと、焼き上がりを確認し。加賀はソースをスプーンですくい口に運ぶと納得したように軽く頷く。
「皆だいじょぶそーね。やっぱ慣れてるんだね」
宿と違い調理出来る環境が整っている訳ではなく、いくつか携帯できそうな道具や設備を馬車に突っ込んできているがそれだけで全員が満足できる量を作れるかと言えば応えは否だ。
そのため料理を作っているのは加賀とバクスだけでは無い、人数分の量を確保するために手が空いている物は各自スープを用意したり、簡単な軽食を用意したりしている。
「お? 飯出来た?」
「出来たよー。取り分けるから皆お皿持ってきてねー」
二人の様子から料理が出来たことを察知した八木や周囲に居た者たちがわらわらと加賀やバクスの元へと群がってくる。
ほぼ一日中馬車の中とは言えお腹は空くのである。
「うめえ」
「うまいな……やはり場所は取るが持ってきて正解だったな」
「一気に焼けるから便利だよね。火加減の調整も簡単だしー」
わざわざ持ってきた甲斐があり、メインの肉料理は宿で出すものと遜色ない出来栄えであった。
焚き火を囲んで食事をするというシチュエーションを考えれば宿で食べるよりも美味しく感じてすらあるだろう。
「お、スープもいける……あれ? これ作ったのって……」
具沢山で醤油ベースの少し茶色いスープを口にし笑みを浮かべる八木であったが、ふとこのスープは誰が作ったのだろうと疑問が浮かぶ。
メインの肉料理は加賀とバクスが担当し、アイネは特に作って居なかったように見えたのだ。
「俺だぞ……や、何その顔」
そうなると誰が作ったのかと言えば……まさかのヒューゴであった。
目を見開き固まった八木の表情からその驚きようが伺える。
「すんません、何か意外だったんで……料理うまいんですね」
「別にうまかねーよ。料理つってもお湯に具材ぶっこんで適当に味付けしただけだぞ?」
「でも火の通り具合とか丁度良いし……もしかして皆料理できるんすかね」
料理を褒める八木に対して否定するヒューゴ。
謙遜している様子はなく本心から言っているように見える。もしかして皆このレベルで作れるのかと回りを見る八木であったが、何名かは明らかに視線を逸らす。
「あー……そういや今日は野宿っすけど、明日は宿で泊まるんすかね」
何となく察した八木は話題を変えるべく、明日の宿について尋ねた。
「街に入るので恐らくそうなると思いますが……私達は馬車で良いかも知れないですね」
「……ん、宿より馬車の方が快適で安全」
八木の問いかけにチェスターが反応し、それを肯定するようにアイネも言葉を口にする。
「やはりそうですか……あの、ところでアイネさん。その……光ってる物体は一体……」
震える手ですっとアイネの方を指さすチェスター。
アイネの手元には例の光るケーキがあった。
「……あげないよ?」
「いや、いらないです……」
すっとケーキを隠す仕草をするアイネに真顔でいらないと言うチェスター。
アイネは少し残念そうな表情を浮かべるとケーキを一口食べる。
「……おいしいのに」
上げたくはないがいらないと言われるとそれはそれで残念な気持ちになるらしい。
こんな感じで一日目は何事もなく終えるのであった。
そしてその数日後、一行はまもなく山と山の間にある道、そこに設けられた関所へと着くところまで道を進んでいた。
「平和だなあ……」
「暇っす」
馬車の上でぼーっとあたりを警戒するガイとギュネイの二人。
「こんだけの大所帯だからな、人も魔物も早々手を出しては来ないか……時折こっち見てるのが居てもすぐ消えるしな」
未だにトラブルらしいトラブルは起きていない。
食事中に隣の奴からおかずを一品取った取らないで喧嘩があったぐらいだろう。
あまりにも暇すぎて警戒もどこかおろそかになりつつある。それは二人だけではなく回りの馬車も同じ様だ。
「んー……お? 関所見えてきたな」
皆がぼーっとしてようがしまいが馬車は進む。
ふとチェスターが前を見るとそこには遠目に関所が見えてきたいた。
「……確かに。通ってよし!」
「あっさり通れたな」
関所も事前に連絡が来ているのだろう。書面を確認し馬車の中をちらりと見ただけであっさり通される。
「さて、ここからは真面目にやらんとな」
関所を通り目の前の光景に気を引き締める。
関所から先は道の左右が山となっており、高所から奇襲を受ける可能性が高い。
そのためより一層警戒を強くする必要があるだろう。
「おう、ちょっと通るぜ」
「おじゃまー」
チェスターが気を引き締めているとヒューゴとシェイラの二人が馬車の上へと昇ってきた。
「こっからは4人体制な、もうちょいしたら二人追加でくっからそしたら交代して休んでな」
ここから先は各馬車につき見張りが4人体制となる様だ。
魔物であれ人であれ、高所からの奇襲は恐ろしいものである。
「……何も無かったな」
「何も無いに越したことはないでしょう……交代ですよ」
そして翌日。
馬車が通った道、そこから少し離れた木々の間には様々ないきものがその亡骸を晒していた。
馬車に対し危害を加えようとしたものは全て残さずデーモンによって処理されていたりする。
一行は何事もなく山間部を抜けることが出来たのであった。
「う?」
バクスの問いかけに反応し顔を上げる加賀だがその手は作業を続けたままだ。
コンロの火に掛けたフライパンを揺すり、バターの塊を投入する。
夕飯に出すメインの肉料理、それのソースを作成しているのだ。
「そうだねー。外で寝泊まりしたり料理したりとか普段出来ないから、何か楽しいんだよね」
「まあ、分からんでもない。非日常感と言うか……現役の頃はそんな風に思うことは無かったんだがな」
そう少し感慨深げに呟くバクス。
バクスが現役の探索者だった時には外で野宿することは珍しく無かった。
その当時は夜中は見張りはしないと行けない上に、寝具を使わないのであまり眠りの質も良くは無い。絶対に嫌だと言うわけでも無いが好んでやろうとも思わなかった、だが探索者を辞めてたまに野宿をすると不思議なことに楽しく感じるのだ。
「こっちは出来たぞ」
「……ん、こっちも出来たよ。他の人はどんな感じかなー?」
会話しながらも二人は作業を続けていた。
バクスはオーブンで焼き上げた肉に串を刺すと、焼き上がりを確認し。加賀はソースをスプーンですくい口に運ぶと納得したように軽く頷く。
「皆だいじょぶそーね。やっぱ慣れてるんだね」
宿と違い調理出来る環境が整っている訳ではなく、いくつか携帯できそうな道具や設備を馬車に突っ込んできているがそれだけで全員が満足できる量を作れるかと言えば応えは否だ。
そのため料理を作っているのは加賀とバクスだけでは無い、人数分の量を確保するために手が空いている物は各自スープを用意したり、簡単な軽食を用意したりしている。
「お? 飯出来た?」
「出来たよー。取り分けるから皆お皿持ってきてねー」
二人の様子から料理が出来たことを察知した八木や周囲に居た者たちがわらわらと加賀やバクスの元へと群がってくる。
ほぼ一日中馬車の中とは言えお腹は空くのである。
「うめえ」
「うまいな……やはり場所は取るが持ってきて正解だったな」
「一気に焼けるから便利だよね。火加減の調整も簡単だしー」
わざわざ持ってきた甲斐があり、メインの肉料理は宿で出すものと遜色ない出来栄えであった。
焚き火を囲んで食事をするというシチュエーションを考えれば宿で食べるよりも美味しく感じてすらあるだろう。
「お、スープもいける……あれ? これ作ったのって……」
具沢山で醤油ベースの少し茶色いスープを口にし笑みを浮かべる八木であったが、ふとこのスープは誰が作ったのだろうと疑問が浮かぶ。
メインの肉料理は加賀とバクスが担当し、アイネは特に作って居なかったように見えたのだ。
「俺だぞ……や、何その顔」
そうなると誰が作ったのかと言えば……まさかのヒューゴであった。
目を見開き固まった八木の表情からその驚きようが伺える。
「すんません、何か意外だったんで……料理うまいんですね」
「別にうまかねーよ。料理つってもお湯に具材ぶっこんで適当に味付けしただけだぞ?」
「でも火の通り具合とか丁度良いし……もしかして皆料理できるんすかね」
料理を褒める八木に対して否定するヒューゴ。
謙遜している様子はなく本心から言っているように見える。もしかして皆このレベルで作れるのかと回りを見る八木であったが、何名かは明らかに視線を逸らす。
「あー……そういや今日は野宿っすけど、明日は宿で泊まるんすかね」
何となく察した八木は話題を変えるべく、明日の宿について尋ねた。
「街に入るので恐らくそうなると思いますが……私達は馬車で良いかも知れないですね」
「……ん、宿より馬車の方が快適で安全」
八木の問いかけにチェスターが反応し、それを肯定するようにアイネも言葉を口にする。
「やはりそうですか……あの、ところでアイネさん。その……光ってる物体は一体……」
震える手ですっとアイネの方を指さすチェスター。
アイネの手元には例の光るケーキがあった。
「……あげないよ?」
「いや、いらないです……」
すっとケーキを隠す仕草をするアイネに真顔でいらないと言うチェスター。
アイネは少し残念そうな表情を浮かべるとケーキを一口食べる。
「……おいしいのに」
上げたくはないがいらないと言われるとそれはそれで残念な気持ちになるらしい。
こんな感じで一日目は何事もなく終えるのであった。
そしてその数日後、一行はまもなく山と山の間にある道、そこに設けられた関所へと着くところまで道を進んでいた。
「平和だなあ……」
「暇っす」
馬車の上でぼーっとあたりを警戒するガイとギュネイの二人。
「こんだけの大所帯だからな、人も魔物も早々手を出しては来ないか……時折こっち見てるのが居てもすぐ消えるしな」
未だにトラブルらしいトラブルは起きていない。
食事中に隣の奴からおかずを一品取った取らないで喧嘩があったぐらいだろう。
あまりにも暇すぎて警戒もどこかおろそかになりつつある。それは二人だけではなく回りの馬車も同じ様だ。
「んー……お? 関所見えてきたな」
皆がぼーっとしてようがしまいが馬車は進む。
ふとチェスターが前を見るとそこには遠目に関所が見えてきたいた。
「……確かに。通ってよし!」
「あっさり通れたな」
関所も事前に連絡が来ているのだろう。書面を確認し馬車の中をちらりと見ただけであっさり通される。
「さて、ここからは真面目にやらんとな」
関所を通り目の前の光景に気を引き締める。
関所から先は道の左右が山となっており、高所から奇襲を受ける可能性が高い。
そのためより一層警戒を強くする必要があるだろう。
「おう、ちょっと通るぜ」
「おじゃまー」
チェスターが気を引き締めているとヒューゴとシェイラの二人が馬車の上へと昇ってきた。
「こっからは4人体制な、もうちょいしたら二人追加でくっからそしたら交代して休んでな」
ここから先は各馬車につき見張りが4人体制となる様だ。
魔物であれ人であれ、高所からの奇襲は恐ろしいものである。
「……何も無かったな」
「何も無いに越したことはないでしょう……交代ですよ」
そして翌日。
馬車が通った道、そこから少し離れた木々の間には様々ないきものがその亡骸を晒していた。
馬車に対し危害を加えようとしたものは全て残さずデーモンによって処理されていたりする。
一行は何事もなく山間部を抜けることが出来たのであった。
0
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる