異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
267 / 332

264話 「何か届いたらしい4」

しおりを挟む
「サイズ合ってなければ手直ししたいから一度試着して貰ってもいいかしら?」

さりげなく言われた咲耶のそんな一言。
それが一体何がどうしてそうなったのか、咲耶のハイテンションと一部の者の悪乗りによってただの試着だったそれがいつの間にかファッションショーの様なものへと変貌してしまっていた。

「本当にやるのか……」

「えーそれじゃあ、晩餐会コーディネートの発表会を開催しまーす。どんどんぱふぱふー」

受け取った服を手にポツリと呟くバクスであるがその呟きは加賀の声により流されてしまう。

「順番はくじ引きで決めたよー。それじゃ最初はバクスさんどーぞっ」

バクスの手元に置かれた一枚の紙、そこには小さく1と書かれていた。運が良いのか悪いのか、バクスは一番手を取ってしまったらしい。

「まじでやるのか……まあ良い、さっさと終わらせるぞ」

そう言うと服を持って一度食堂の外へと向かうバクス。
次に入って来た時には晩餐会用の服装へと着替え済みである。

「おー全体的に黒を使ってシックな感じですね。落ち着いた感じでグッドだと思います。夏向けと言うことで薄手の生地を使っているので体のラインがよく分かるあたりご婦人への受けも良いのではないでしょうか。さりげなくポーズを決めているあたり慣れが見受けられて涙を誘いますね」

食堂へと入ったバクスは数歩進みそこで一度立ち止まると全身が見えるようにゆっくりとその場で回り、そして再びポーズを取って動きを止める。
尚、この間いっさい表情が動いてない。

「それじゃバクスさん皆に向けて何かあれば一言どーぞ」

「ご婦人の前で着せ替え人形になることを思えばこの程度どうと言うことは無い」

「いじょーバクスさんでしたー。はい拍手」

ぱらぱらとまばらに拍手が行われ、バクスは空いているテールへと向かい椅子に腰掛ける。
それらを見送った加賀はぐるりと首を回すと次の者へと視線を向ける。

「じゃ次ヒューゴさん」

「待って。お願い、待って」

バクスの次はヒューゴであった。
自分の名を呼ばれるも待ってくれと懇願するその顔はかなりマジである。

「あれまじでやるの? きつすぎるんだけど!? てっかバクスさん鋼のメンタルすぎんだろっ」

「別にポーズ取らなくてもいいのよ?」

大勢の前で新しい服を着て披露する。
あまりそういった経験がない者にとってはかなり精神的にきついものがある様だ。
かつて咲耶と二人で留守番していたバクスがげっそりと痩せていたのはまだ記憶に新しい。

「いや、ポーズがどうとかじゃなくて……」

皆の前で着ること自体が恥ずかしい、そう言いそうになるヒューゴであったが咲耶の何か期待するその視線を受けて、ぐっと出掛かった言葉を飲み込む。

「諦めたらあ? どうせあとで皆に見られるんだし、遅いか早いかだけでしょー」

「シェイラのやろう……くっそ、わーったよ!やってやんよ!」

ニヤニヤと意地悪そうな顔でヒューゴを煽るシェイラ。
やけになったのかヒューゴは服を掴むと食堂を飛び出していった。

「ん、それじゃー次はヒューゴさん。張り切ってどぞー」

加賀のセリフにあわせて食堂へと入ってくるヒューゴ。
普段の服装よりも大分派手目な服を着て静かに前に進んでいく。

「……」

「……」

「何か言えよぉっ!?」

無表情でじっとヒューゴを見つめる視線。
誰も何も言わない空間の中、つい耐えきれずに叫ぶ。

「あ、ごめん。コメント思い浮かばなかった」

「うん、いいんじゃない?」

「黙ってればまともに見えますよ」

「て、てめーら覚えとけよ……」

口々に好き勝手なことを言う連中を前に口元をひくひくさせるヒューゴ。
そんな感じで結局夕飯の時間になるまでショーは続くのであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...