貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃

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バートの本心

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 ああ、ついに婚約破棄を言ってしまった。
 リッタの家を出たバートは達成感とともに、一抹の後悔を感じる。
 というのも、僕は別にリッタに対して不満があった訳ではなかった。リッタ自身は気立てのいい娘だし、機転も利いて会話していて楽しかった。

 だが。

 僕はシーモア商会を訪問した時のことを思い出す。

 応接間に通されると、そこにはまだ日も高いというのに、高級な酒と肉が用意されていた。実家でも時々しか出ないような酒に、アストリー家では絶対に出ないような贅沢な肉で、僕は入った瞬間唾を飲み込む。

「ようこそ、バート様」

 そんな僕にレベッカがぺこりと頭を下げる。
 どちらかというと質素で素朴なリッタと違い、彼女には女の色気があった。頭を下げると胸元が大胆に開いたドレスから豊満な胸が覗く。
 良くないと思いつつも僕は視線がそこに行ってしまうのを止めることが出来なかった。

「本日はいつもお世話になっているバート様のためにおもてなしを用意しました」
「い、いや、僕は別に何も」
「そんなことはありません。我々はオレット家の皆様との取引で潤っていますので」
「そ、そうか」

 僕は目の前の料理とレベッカの胸元に意識が集中して、とてもまともに会話するどころではなかった。
 そんな僕の様子を察したのだろう、

「では商談前にこちらをお召し上がりください」

 そう言って料理を勧めてくる。

「うむ、ではいただこう」

 そう言って僕は酒と肉に口をつけた。
 酒は恐らく銘酒だろう、いつも飲んでいる安酒とは違い深い味わいがあった。また、肉も一口食べると口の中にじゅわりと脂が溶けていくような感覚が広がる。

 ああ、これがうまさか。
 これまで実家で食べてきたどの料理よりもこの肉はおいしく感じた。

 気が付くと、目の前の皿は空になり、グラスにはレベッカがお代わりを注いでくれた。
 それを見て僕は少しだけ恥ずかしくなる。
 まさか商人の屋敷にきてこんな風にむさぼるように食事を食べてしまうなんて。

「いやあ、なかなかに良かったよ」
「本当ですか? それは良かったです」

 そんな僕を見てレベッカは満足そうに微笑む。

「こんなものでも良ければ今後何度でも出しますよ」
「ほ、本当か!?」

 そう聞いて僕は自分がどう見えているのかも考えず、飛びつくように答えてしまった。

「はい、何せお世話になっていますから」

 その後商談をしたような気がするが、何があったのかはよく覚えていない。僕は頭にアルコールが回っていたこともあり、肉と酒の味を思い出しながらレベッカの言うことに頷きながら言われるがままに書類にサインしていたのだった。

 こうしてそれ以来僕はシーモア商会に通い詰めるようになったのである。
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