貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃

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回想

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 ショックな出来事があったせいか、久しぶりに子供のころの夢を見ました。



 細かいことは忘れてしまいましたが、あれはどこかの家のパーティーに行ったときのことでしょう。多分八歳とかそのぐらいの年齢だったと思います。

 たまたま私が見慣れぬ屋敷の中で迷子になっていました。
 貴族の屋敷というのは、長年住んでいる自分の屋敷ならともかく、いきなり訪問するとあまりの広さに一度自分がどこにいるのか分からなくなるとどこがどうなっているのか分かりづらくなるものです。

 パーティーにはあれだけたくさんの人がいたのに、気が付くと私は誰もいないところに出てしまっていました。
 そんな時、ふと私は目の前をただならぬ勢いで走っていく同年代の男の子を見かけました。初対面ですし、何があったのかも分かりませんが、その時の彼の表情から彼がただならぬ何かを抱えているように感じました。

 そして彼が通り過ぎてしまった後、一人の執事がこちらに走ってきます。

「先ほどおぼっちゃまがこちらに来ませんでしたか?」
「い、いえ、見ていません」

 それを聞いて私はとっさに首を横に振りました。
 おそらく彼が探しているのは先ほどの男子でしょう。しかし私は彼の表情を思い出し、とっさに彼をかばってしまったのです。

「そうですか」

 執事はそう言って引き返していきます。せっかくならパーティー会場に連れてってもらえば良かった、などと思っていると。
 少しして、先ほどの男子がおそるおそる戻ってきます。

「助けてくれて……ありがとう」
「いえ。でも一体どうしたの? なんかすごい勢いで逃げていたけど」
「あいつは……ずっと僕に学問をしろってうるさいんだ! 今日もパーティーなのに僕だけずっと部屋に閉じ込められていて、もううんざりだ」

 今なら何だ、そんなことか、と思うでしょうが子供のころの私は彼に共感してしまいました。

「それは大変ね……」
「そうだ、何で自分の家で行われるパーティーに出ちゃいけないんだ!」 

 それを聞いて私はふと閃きます。
 ここが彼の家ということは彼なら屋敷の構造も分かっているでしょう。

「だったら今私は迷子になっているから、会場まで案内してくれない?」
「ああ、構わない、僕に任せてくれ」

 彼はそれを聞いてパーティーに少しでも参加できると思ったのか、頷きます。
 それから私は彼と一緒にパーティー会場への道を歩きました。
 いくら広い屋敷といっても同じ屋敷の中である以上大した距離ではないでしょうが、記憶の中で私は彼と随分長い時間話したような気がします。

 話した内容は覚えていませんが、きっと子供らしい雑談でしょう。
 こうして私たちはどうにか会場に戻ってきたのでした。
 相変わらず周囲には豪華な料理が並び、華やかな恰好をした貴族たちが食事や雑談を楽しんでいます。
 その中に私は両親の姿を見つけました。

「ありがとう、案内してくれて」
「いや、僕もさっきは案内してくれてありがとう。それに君のおかげで会場にも潜り込めたし」

 こうして私は彼と別れたのでした。
 そして別れた後、名前を聞いておけば良かった、と軽く後悔します。



 その後彼と再会することはなく、彼がどのように成長したのかも分からないまま私は婚約者が出来たりいなくなったりしつつ今を迎えたのでした。
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