貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃

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婚約破棄Ⅲ

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「バートがただならぬ顔で出ていったが、一体何があったんだ?」

 そこへ心配した様子の父上がやってきます。
 バートが去っていく前に父上に知らせなかったことは少し申し訳ないとは思いますが、私は父上に報告します。

「父上、実は突然バートに婚約破棄を宣言されまして」
「は? 婚約破棄?」

 突然の言葉に父上は驚きました。
 何せ私たちは表向き特に問題もなく良好な関係を続けていました。いきなりそう言われて驚くのも当然でしょう。

「そうなんです、バートはうちが貧しいからだと言っていましたが、訊いてみた感じ、恐らく彼は最近懇意にしている豪商の愛人のことを愛しているに違いありません」
「何だと? それは本当か? 確かにオレット家は商会と懇意にしているとは聞いているが」

 それを聞いて父上は額に青筋を浮かべます。
 誰だって自分の娘が婚約者に浮気されて婚約破棄されたなどということになればこのような反応になるでしょう。

「彼女とどのような関係かは分かりませんが……彼女のことを問い詰めた時の彼の反応がおかしかったのは事実です」
「そうか……バートは家も裕福だし、本人も比較的無難な人物だと思っていたが……まさかそんな人物だったとは」
「すみません、私がもっと早く気付けていれば……」
「まあいい、後はわしが調べさせておく。本当に商人の娘と出来ているのであれば、ちょっと調べればすぐ分かるだろう」

 貴族同士であれば様々な口実をつけて会うことが出来ますが、貴族と商人であれば会う口実も限られます。

「後はオレット男爵にもどういうつもりか問い詰めておこう。何にせよ、絶対にどういうつもりなのかははっきりさせてやる! もし本当に浮気だったらただではすまさぬ! あとうちが貧しいから婚約破棄した、と言ったのも許せん!」

 父上は怒気を露わに言います。
 確かに父上からすれば家を馬鹿にされることは自分を馬鹿にされるのも同然でしょう。

「あの、私はどうすれば……」
「どの道向こうからの正式な答えがあるまではどうなるとも言えん。とりあえずしばらくはゆっくり休んでくれ」
「分かりました、ありがとうございます」

 確かに、私はいきなり婚約破棄を宣言されて動揺していましたが、そもそも婚約破棄は当事者の一存で出来るものではありません。

 なぜなら婚約はそもそも私たちが決めたものではなく、父上とオレット男爵が決めたものだからです。
 なので場合によっては、「バートは勝手に婚約破棄を宣言したが、彼にその権限はないから婚約破棄自体は無効」という結論すらありえます。

 というか、あの様子だと彼がオレット男爵としっかりと話し合って決めた話とも思えないので男爵が婚約破棄無効を言ってくる可能性もあります。

 そんなことになれば今後バートとどう接していいか分かりませんが……。

 そんなことを考えつつ、私は自室に向かい、ベッドに入るのでした。
 よほどショックだったせいか、まだ早い時間なのに気が付くと眠りについていたのでした。
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