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婚約破棄Ⅱ
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その時はそれ以上追及しませんでしたが、彼の態度を思い出した私の中で全てが繋がりました。
その時、もしくはそれ以前からシーモア商会の元に通っていたバートはそこでの豪勢なもてなし、そして財力があるレベッカに徐々に惹かれていったのでしょう。そしてそれに慣れてくるにつれてうちの貧乏具合に我慢がならなくなっていったに違いありません。
「もしかして……レベッカさんのせいですか?」
「え、な、なな、何でレベッカの名前が出てくるんだ!?」
私がそう尋ねると、途端にバートは動揺を露にします。本人は必死に取り繕っているつもりなのでしょうが、言葉には詰まっているし、顔色も変わっているし、身振り手振りもいつもより大きくなっているしで「動揺のお手本です」と教科書に載せたいぐらいです。
「はあ……やっぱりそうなのですね」
「ち、違う! あくまで僕は彼女とはただの取引先という関係でしかない!」
それだったらわざわざ屋敷に連れ込むでしょうか。
「取引ならシーモアさんと話をすれば済むことですよね? 彼女と二人で会う必要はありますか?」
「そ、それはレベッカも若いながらすでに商売を任されているから商談で……」
「ということは二人で会ったのは確かということですね?」
「な……」
私の指摘に彼は表情を真っ赤にします。
「そ、そんな、嵌めるなんて汚いぞ! とにかく、彼女とは君が思っているような関係ではない!」
「では私と婚約破棄した後どなたかと新しく婚約する予定はあるのでしょうか?」
「そ、それは君にはもう関係ないだろう! もう婚約者じゃないんだから!」
彼の答えにいよいよ私の疑惑は確信に近づいていきます。
やましいことがなければ「新しく婚約する予定はない」とだけ言えばいいのです。きっと彼はレベッカと婚約するつもりなのでしょう。
もしくは商人の娘だから正室は無理ということにして側室にでもするのかもしれませんが。それにしても、婚約破棄をして誰も婚約者がいない状況で側室を迎え入れるのは不自然ですが。
もっとも、そこでうまい嘘をつけないところは憎みきれないところではありますが。
「と、とにかくそういう風に疑うのは君の良くないところだ。そ、そんなところも僕はずっと気に入らなかったんだ!」
彼はとってつけたように言います。
家が貧しい、というだけでは理由不足であることに今更気づいたのでしょうか。
そこまで言われてしまえばもはや受け入れるしかありません。
どの道、ここでなにがしかの方法で、例えば両親に訴えるとか、して婚約破棄を止めさせたとしても彼がレベッカと出来ている以上どうせすぐに問題が起こるでしょう。
「分かりました、そういうことなら好きにしてください。あなたが商人の娘にうつつを抜かして婚約破棄を宣言するというのはとても残念ですが、それもあなたの人生です」
「だ、だからそんなことはしていないって言ってるだろ!」
「そうですか? 嘘が上手につけないというところはいいところだと思いますけどね」
「う、うるさい! とにかく僕にやましいところなんて一つもない、帰る!」
そう言って彼は逃げるように部屋を出ていくのでした。
その様子はとてもやましいところなんてないようには見えませんでした。
その時、もしくはそれ以前からシーモア商会の元に通っていたバートはそこでの豪勢なもてなし、そして財力があるレベッカに徐々に惹かれていったのでしょう。そしてそれに慣れてくるにつれてうちの貧乏具合に我慢がならなくなっていったに違いありません。
「もしかして……レベッカさんのせいですか?」
「え、な、なな、何でレベッカの名前が出てくるんだ!?」
私がそう尋ねると、途端にバートは動揺を露にします。本人は必死に取り繕っているつもりなのでしょうが、言葉には詰まっているし、顔色も変わっているし、身振り手振りもいつもより大きくなっているしで「動揺のお手本です」と教科書に載せたいぐらいです。
「はあ……やっぱりそうなのですね」
「ち、違う! あくまで僕は彼女とはただの取引先という関係でしかない!」
それだったらわざわざ屋敷に連れ込むでしょうか。
「取引ならシーモアさんと話をすれば済むことですよね? 彼女と二人で会う必要はありますか?」
「そ、それはレベッカも若いながらすでに商売を任されているから商談で……」
「ということは二人で会ったのは確かということですね?」
「な……」
私の指摘に彼は表情を真っ赤にします。
「そ、そんな、嵌めるなんて汚いぞ! とにかく、彼女とは君が思っているような関係ではない!」
「では私と婚約破棄した後どなたかと新しく婚約する予定はあるのでしょうか?」
「そ、それは君にはもう関係ないだろう! もう婚約者じゃないんだから!」
彼の答えにいよいよ私の疑惑は確信に近づいていきます。
やましいことがなければ「新しく婚約する予定はない」とだけ言えばいいのです。きっと彼はレベッカと婚約するつもりなのでしょう。
もしくは商人の娘だから正室は無理ということにして側室にでもするのかもしれませんが。それにしても、婚約破棄をして誰も婚約者がいない状況で側室を迎え入れるのは不自然ですが。
もっとも、そこでうまい嘘をつけないところは憎みきれないところではありますが。
「と、とにかくそういう風に疑うのは君の良くないところだ。そ、そんなところも僕はずっと気に入らなかったんだ!」
彼はとってつけたように言います。
家が貧しい、というだけでは理由不足であることに今更気づいたのでしょうか。
そこまで言われてしまえばもはや受け入れるしかありません。
どの道、ここでなにがしかの方法で、例えば両親に訴えるとか、して婚約破棄を止めさせたとしても彼がレベッカと出来ている以上どうせすぐに問題が起こるでしょう。
「分かりました、そういうことなら好きにしてください。あなたが商人の娘にうつつを抜かして婚約破棄を宣言するというのはとても残念ですが、それもあなたの人生です」
「だ、だからそんなことはしていないって言ってるだろ!」
「そうですか? 嘘が上手につけないというところはいいところだと思いますけどね」
「う、うるさい! とにかく僕にやましいところなんて一つもない、帰る!」
そう言って彼は逃げるように部屋を出ていくのでした。
その様子はとてもやましいところなんてないようには見えませんでした。
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