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レベッカ
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そこで私は少し前のことを思い出します。
その日、私たちはバートの家であるオレット家で会うことになっていました。オレット家は私と同じ男爵家ですが、最近領内でシーモア商会という商会が利益を伸ばしていて、そこからの献金でまあまあ裕福な暮らしをしていました。
私が家に屋敷に到着すると、オレット家のメイドさんがなぜか少し困った顔をします。
「すみません、バート様はまだお帰りになっていなくて」
「あれ? 私が時間を間違えた訳ではありませんよね?」
思わず自分が間違えたのかと不安になってしまい、尋ねます。
「はい、私がリッタ様がいらっしゃると聞いていた時間と同じです。とりあえずこちらへどうぞ」
そう言って彼女は私を応接室へと案内してくれます。
私が間違えてはいなかったことに安堵しつつも、彼女の釈然としない表情に少し不安になります。彼に何かあったのでしょうか。
「ですよね……一体どちらに?」
「シーモア商会に訪問しております」
「そうですか……」
確かにシーモア商会は繁盛しているらしいですが、だからといって貴族の跡取りがそこに行って出る予定時間を超えてまで滞在するということがあるでしょうか、と私は疑問に思います。
とはいえそれをメイドに言っても仕方ありません。
仕方なく私は応接室で待つことにしました。
それから二、三十分ほどして、私はふとお手洗いに立ちます。
すると部屋に戻る途中、少し離れたところから二人の人物が楽し気に語らう声が聞こえてきました。
「確かに君の家は良かったが、だからといってうちについてくるのはやり過ぎだ。今日はリッタもうちに来ているというのに」
「…………?」
相手はバートに比べて声が小さいせいか、声をうまく聞き取ることは出来ませんでした。とはいえ女性であることそしてバートに対して言い返しているようなトーンであることはかろうじて分かります。
「とにかく、僕はもう行くから、そんなに言うなら大人しくしていてくれ」
「……」
恐らく肯定したのでしょう、今度の返答は短いものでした。
私は先ほどの「君の家」と言う言葉を思い出します。
メイドによるとバートはシーモア商会に行っていたらしいです。ということは相手はシーモア商会の娘ということでしょうか?
それとも商会の帰りに、もしくは商会に行くと言って別のところに行っていたということでしょうか?
そんな疑念を抱きながら私が応接室に戻ると、間もなく慌てた様子のバートがやってきます。
「やあリッタ、済まない、遅くなってしまって」
「それは大丈夫ですが、一体何があったのでしょうか?」
「商会に商談に行っていたのだが、そこでレベッカに……いや、何でもない、商談が長引いてしまってね」
レベッカ、という名を出した後、彼はしまった、という風に言い直します。
大規模な商会が相手であればバートが直接商談を行うことも不自然ではありませんが、レベッカ、と言う名前に私は不穏な雰囲気を感じます。
「レベッカ?」
「何でもない、シーモアの娘だ。それよりも今日はリッタのために用意したものがあるんだ」
そう言って彼は商会でお土産にもらったという紅茶を私に出して強引に話を変えます。
そこで私はレベッカという名前に引っ掛かったのですが、それ以降彼とは和やかな会話になったので追及するのをやめたのでした。
その日、私たちはバートの家であるオレット家で会うことになっていました。オレット家は私と同じ男爵家ですが、最近領内でシーモア商会という商会が利益を伸ばしていて、そこからの献金でまあまあ裕福な暮らしをしていました。
私が家に屋敷に到着すると、オレット家のメイドさんがなぜか少し困った顔をします。
「すみません、バート様はまだお帰りになっていなくて」
「あれ? 私が時間を間違えた訳ではありませんよね?」
思わず自分が間違えたのかと不安になってしまい、尋ねます。
「はい、私がリッタ様がいらっしゃると聞いていた時間と同じです。とりあえずこちらへどうぞ」
そう言って彼女は私を応接室へと案内してくれます。
私が間違えてはいなかったことに安堵しつつも、彼女の釈然としない表情に少し不安になります。彼に何かあったのでしょうか。
「ですよね……一体どちらに?」
「シーモア商会に訪問しております」
「そうですか……」
確かにシーモア商会は繁盛しているらしいですが、だからといって貴族の跡取りがそこに行って出る予定時間を超えてまで滞在するということがあるでしょうか、と私は疑問に思います。
とはいえそれをメイドに言っても仕方ありません。
仕方なく私は応接室で待つことにしました。
それから二、三十分ほどして、私はふとお手洗いに立ちます。
すると部屋に戻る途中、少し離れたところから二人の人物が楽し気に語らう声が聞こえてきました。
「確かに君の家は良かったが、だからといってうちについてくるのはやり過ぎだ。今日はリッタもうちに来ているというのに」
「…………?」
相手はバートに比べて声が小さいせいか、声をうまく聞き取ることは出来ませんでした。とはいえ女性であることそしてバートに対して言い返しているようなトーンであることはかろうじて分かります。
「とにかく、僕はもう行くから、そんなに言うなら大人しくしていてくれ」
「……」
恐らく肯定したのでしょう、今度の返答は短いものでした。
私は先ほどの「君の家」と言う言葉を思い出します。
メイドによるとバートはシーモア商会に行っていたらしいです。ということは相手はシーモア商会の娘ということでしょうか?
それとも商会の帰りに、もしくは商会に行くと言って別のところに行っていたということでしょうか?
そんな疑念を抱きながら私が応接室に戻ると、間もなく慌てた様子のバートがやってきます。
「やあリッタ、済まない、遅くなってしまって」
「それは大丈夫ですが、一体何があったのでしょうか?」
「商会に商談に行っていたのだが、そこでレベッカに……いや、何でもない、商談が長引いてしまってね」
レベッカ、という名を出した後、彼はしまった、という風に言い直します。
大規模な商会が相手であればバートが直接商談を行うことも不自然ではありませんが、レベッカ、と言う名前に私は不穏な雰囲気を感じます。
「レベッカ?」
「何でもない、シーモアの娘だ。それよりも今日はリッタのために用意したものがあるんだ」
そう言って彼は商会でお土産にもらったという紅茶を私に出して強引に話を変えます。
そこで私はレベッカという名前に引っ掛かったのですが、それ以降彼とは和やかな会話になったので追及するのをやめたのでした。
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