【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない

まりぃべる

文字の大きさ
10 / 26

10  交流  植物園にて

しおりを挟む
「あの…離して下さらない?」


 歌劇場に入る前の騒動の後。
 すぐにその場を離れたかったのか、アウロラの事も気にせず手を引っ張ったまま自分のペースでズンズンと歩いていくビリエルに、転びそうになったアウロラは声を掛けるがそれでも進んで行くビリエル。


「ですから、聞こえてます?!」

「!あ、あぁ、ごめんねアウロラ。なに?」


 今度は更に強めに声を掛けると、ビリエルは驚いたように立ち止まって振り返り、アウロラへと声を掛けた。


「ちょっと一旦、手を離して下さいませ!
 私、ヒールの高い靴ですので、そんなに早く歩けませんの。転びそうだったのですよ?」


 アウロラは、幼い頃のレイグラーフ公爵家でカルロッテと共に教わっていた時、ヒールの高い靴での歩き方も学んでいた。しかしこのように半ば引き摺られるように歩く事は学習範囲外であった。転ばないようにするのが精一杯で、足も腕も痛いと堪らず声を上げたのだ。


「え!?そうだったの!?言ってくれれば…ごめんね?」


 そう言って、パッと手を離したビリエルだったが、キョロキョロと周りを見渡し、すぐそばにベンチがあったため、そちらに座ろうと言った。


「大丈夫?じゃあ座ろうよ。
 あ、待って!…あれ?あれ??」


 アウロラがそれに倣って座ろうとすれば、いきなり待ってと言われ、ビリエルは上着のポケットの中を探っている様子であるが思うものが見つからないのかパンパンとポケットを叩くと、今度はスラックスの左右のポケットにも手を突っ込み、お尻の方のポケットも探ってから、もう一度ジャケットの胸元の裏ポケットを探って、やっと見つかったのか大声を出す。


「あ!あった!!…さ、どうぞ座って?」


 ポケットから、シワシワになったハンカチを出し、それをベンチに広げてからそのようにアウロラへと得意げに告げる。


(洗ってある…わよね?)


 シワシワで汚れているのかさえ分からなかったが、一応それは礼儀作法であるからとアウロラはそれに座った。


「もーなんかごめんね?いつもとちょっと勝手が違って…そう、緊張しててさ!普段はもっと上手くやるんだ!
 歌劇、見れなくてなんかごめんね?」


 と、そのように言ってアウロラを見るビリエル。


(普段はもっと上手くやる、ですって?
 どうして緊張してたからって、職員さんを恫喝する行動に出られるの?
 それに。なんかごめん、って何?納得しないまま謝っているの?)


 アウロラは疑問でいっぱいだった。けれども、それには答えずに視線を辺りに動かした。形ばかりの謝罪の言葉さえ、すぐには受け入れ難かったためだ。
 先ほどいた歌劇場から左に移動してきたそこは、公園のように広い場所となっており、先ほどよりは少ないが人が行き交っている。
 どうやらこちらは家族連れが多いようで、小さな子供が親と覚しき人らと手を繋いだり近くを駆けたりしている。奥は芝生が広がっているが手前には植物園入り口と書いてあった。


「植物園…」


 アウロラは、植物園と書かれたその奥が気になった。国立、とまでは書かれていないし見渡せる規模であるからそれほど大きいわけでもないが、それでもどんなものがあるのだろうと思い呟いた。


「ん?あぁ、本当だ。入った事は無いけど、時間もあるし行ってみる?」


 頭を上げたビリエルは、知らなかったのかそのように言い、歌劇を見るという予定もなくなったからと誘った。


「…ええ、行きましょう。」


 アウロラはここでビリエルと解散し帰る事も出来た。けれども、植物園を見てみたいとも思ったためそのように答えた。


 入り口の所には小さな看板があり案内図が書いてあった。
 思ったよりも広く、ぐるりと一周するように植物が生えられておりその真ん中にはガラスで覆われたこれまたそれなりの広さの温室と、休憩が出来るように小さなカフェがあるようだった。
 一周は、徒歩、という意味なのだろう人の形をした絵の隣にだいたい三十分から四十五分と書かれてある。


「え!長っ!そんなに歩くの?」


 ビリエルはあからさまに嫌な顔をしたが、その図に馬車の絵を見つけ、アウロラへと伝える。


「あ!ねぇアウロラ、馬車に乗ろうよ!」

「馬車?」

「ほら、アウロラの足も心配だし。
 あ!あそこに乗り場があるよ。」


 そういって、ビリエルはアウロラを誘導する。
 アウロラは普段であれば、歩きたいと言っただろう。けれど、ビリエルは先ほどそんなにかかるの、と言っていたし、アウロラも散策用の靴ではない。服も、歌劇を見るためのドレスコードであったため、歩き回るには確かに不向きであった。


「ええ。」


 馬車乗り場には、馬が一頭とその後ろに人が詰めれば三人、ゆったり座れば二人が座れるほどの座席を引いてある馬車が、四台ほど停車していた。
 馬の頭を撫でていた御者が、客が来たのだとビリエルとアウロラの方を向き、すでに準備されていた踏み台を手で示して座席に座るように促した。


(可愛い…)


 しかし、アウロラは馬と普段から接しているため、つい近づいて見ようと馬車の前方へと足を向ける。
 その時に馬の右脚というか背中とお尻に近い部分を見る。と、刻印が押されてありそれが分かったアウロラは自然と笑みをこぼした。その刻印はフランソン家の刻印で、それが押されているということはフランソン領で育てられた馬だというのが分かる人には一目で分かる目印だ。

 御者は、自身が手綱を持っているとはいえ、いきなり身なりの良い女性が馬の方へ来たので、手を出されでもして怪我を負わせては大変だと手綱を持っている手に力を込め、声を掛ける。馬に興味があって近づいて来る人もいるため、少し警戒しながら。


「どうされました?」

「いえ、懐かしくて。この子にご挨拶をしてもいいかしら?
 ふふ、覚えてる?」


 御者は警戒はしたが、アウロラが馬に向かって身振りを大きくするでもなく、ゆっくりと馬の目を見つめながら囁くように声を掛けたのを見て、馬の扱いには慣れているのかと肯定の言葉を一言述べると、馬とアウロラを見守った。


「アウロラ?」


 すでに馬車の座席へと乗り込もうとステップに足を掛けたビリエルが、怪訝そうに声を掛け、早く乗るように促した。


「アウロラ、馬に近づいたら危ないよ!
 ほら、早く乗りなよ!」

「久し振りね、元気にしてた?よろしくね!」

 御者に手綱を持たれている馬は、チラリとアウロラを見てから首を上下に二度ほど動かすとブルルルと鼻を鳴らした。


「うわぁ!ほら、アウロラ!危ないったら!早く、乗って!!」


 ビリエルはそれにびっくりしたのか、座席に倒れ込む勢いで座ると大きな声でアウロラに向かって叫ぶ。

 馬は大きな音に敏感であるから、それを聞いてアウロラは顔を少し顰める。そしてもう一度、ごめんねうるさくてと馬に声を掛けたあと、急いで座席に座ってビリエルに告げた。


「挨拶しておりました。
 動物は大きな音に弱いから、あまり大きな音や声を出さないで下さる?」

「はぁ?挨拶?必要ないってそんなの!
 それよりさ、もういいよね?
 おいお前!準備出来たから出発して!」


 こちらを見ていた御者は、何か言いたそうにしていたが一つ頷くと前を向き、手綱を引っ張り馬と共に歩き出した。




 馬車に屋根はついていないのでなんの障害もなく辺りを見渡せた。馬車には御者が座る席は無く、御者も馬を引っ張るように歩くので歩みはゆっくりで、植物を見るにはとてもゆったりと見られるちょうど良い速さだとアウロラは感じた。
 道を挟んで針葉樹や広葉樹、様々な種類の木が植えられていたり、色とりどりの花も咲いている。その度に立て看板が植物の近くに書いてあり読みたかったが、距離があって何と書いてあるのかまでは読めなかった。歩いている人は時折、そういった立て看板を見ているので馬車とは違う楽しみ方があるのだとアウロラは思った。


「今度は、動き易い服で来よっか!」


 少し経ってそう言われたので、実はビリエルも歩きたかったのかと思い、しかし次はあるのかとも思いながら返答に迷いながらもそちらを向けば、次に出された言葉にビリエルは全然違うことを思っていたようで、アウロラは言葉に窮した。


「だってそのドレス、綺麗なんだけどさ。
手が繋ぎにくいよね。残念!ほら、届かないや。」

「…」

 ドレスはウエストが絞られたもので、そこから下へと足首まで広がったもの。歌劇を見るということで着てきたのであるから、座ると結構な幅を取るため、隣同士で座っても人一人、いや二人分くらい開けるようにしないと衣装を踏みつけてしまうのである。

 アウロラは手を繋ぎたいわけでも無かったし、これで良かったのだと思う事にして、再び流れる植物に視線を向けるとビリエルが話しかけてくる会話も適当に周りの景色をゆっくりと観賞したのだった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

僕の婚約者は今日も麗しい

蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。 婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。 そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。 変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。 たぶん。きっと。幸せにしたい、です。 ※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。 心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。 ありがとうございました。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました

ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」  王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。  誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。 「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」  笑い声が響く。  取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。  胸が痛んだ。  けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。

処理中です...