【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない

まりぃべる

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11 交流  カフェにて

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「はー、結構いろいろ見たら喉が渇いたよね。」


 馬車は一周し、降りるとすぐそのようにビリエルが言った。馬車に乗っていた時間は三十分くらいではあったが、アウロラも確かに何か飲みたいと思ったため、頷く。
 それに気を良くしたのか、ビリエルはまた手をいきなり掴んで近くにあるカフェの方へと誘った。

 どうやら、そのカフェは林檎や葡萄など、このエーレブルー国で獲れる特産物の果実を使った飲み物を提供しているようだ。貴族だけでなく、商家など裕福な庶民なのか、身なりも小ぎれいないろいろな人が出入りしている。店内でも飲めるし、持ち帰りもできるようで手に飲み物を持って出てくる人もそれなりにいて繁盛しているようだ。


「じゃあ、あのカフェに入ろうか。」

(どうして移動するのに手を勝手に掴むの?いい加減、一言言おうかしら?でももうどこから伝えたらいいのか分からないわ。)


 アウロラはこれを飲んだら今日は帰ると言おうと思いながら、引っ張られるがままついて行くと、カフェの入り口で白い膝丈のワンピースを着た女性が一人、腰に手を当てて何やら大きな声で叫んでいるのが見えた。


「ちょっと!どうしてくれんのよ!!」

「ごめんなさい!」

「ごめんじゃ済まないわよ!お気に入りの服なのよ!あんたたちが一生稼いでも足りない値段のワンピースよ!どうしてくれんのよ!
あんたたちうちで、タダ働きでもしてもらいましょうか!!」

「申し訳ありません…」

「謝って済む問題じゃないわ!!どうすんのよ!?」


 喚いている女性に隠れて見えなかったが、よく見ると傍には七歳くらいの子が、膝から薄く血を流し目に涙を溜めて謝罪の言葉を口にして立っていたが、着ている服も茶色く土がついて汚れている。そのすぐ下の地面にはグラスだろうか、割れた破片が飛び散っていた。きっとカフェで買った飲み物が入っていたのだろう、周りも少し濡れていた。その子供の隣には、母親だろうか、彼女もまた腰を折って謝っているのが見えた。


 と、アウロラは勢いよく手を離された事で、危うく倒れそうになったがどうにか踏ん張ったところで、視線を前に向けるとビリエルは一人、その女性の方へ早足で向かっていて話し掛けたのだ。


「そこの素敵なお嬢さん!
どうされたんです?」

「誰よ!?」

「申し遅れました。僕は、ビリエル=ショールバリ。侯爵家の長男です。」

「こ…侯爵家、の長男…!?」


 その女性は、いきなりビリエルが近づいてきて話し掛けてきたので悪態をついたが、侯爵家と聞き、足を大股に開き手を腰に添えて怒りをぶちまけていたその体勢から、すぐに両足を揃えると一つ咳払いをして先ほどよりもワントーン高い声で言葉を返した。


「エエン!
 あの…私はディーサ。ディーサ=トルンロースと申しますの。私も侯爵家の娘ですのよ?」

「おお、そうなんですね?ディーサ嬢。今は一体どうされたのです?可愛いお顔が、台無しですよ?」

「まぁ!
 だって…見てくださいまし。私のこのワンピース、汚れてしまったんですのよ?」


 そう言ってディーサは、ワンピースの裾辺りを指差した。見れば、白いワンピースの下の方に、ほんの少し飲み物が飛び散ったのか小さな水滴ほどの染みが出来ている。


「それは酷い!もしかして、こいつらが?」

「そうなんですのよ?いきなりぶつかってきたのですわ!」

「いえ、ぶつかっては…」
「当たってはないけど…」

「おい!庶民の分際で侯爵家のご令嬢になんて酷い事を…どうしてくれるんだ!?」


 ビリエルもディーサの言葉に便乗し、謝っている女性と子供に尚も言い募った。


「も、申し訳ありません…」

「謝って済む問題じゃないだろう!弁償したまえ!」

「そうよそうよ!!」

  
(…状況は分かったわ。でもだからって、何度もそんなに攻めなくても…)


 きっと、子供が転んで、ディーサという女性にカフェで買った飲み物をワンピースに掛けてしまったのだとアウロラは推察した。
 けれど、謝っているのに理不尽に言い募られている姿を見てなんだか可哀想になったアウロラは、スタスタと涙を浮かべている女の子の前まで行ってしゃがみ込み、声を掛けた。


「大丈夫?」

「…?!」


 女の子はビリエルという見知らぬ男まで責めてくるので余計泣いているように見えたが、いきなりアウロラが近くに来たからか、びっくりしたのか目を見開いた。


「膝、怪我してるわ。あっちに座りましょう?」


 そう言うと、店先にあったベンチの空いている場所へ促す。


「ちょっと!何してんの!?今私が話してんのよ!」


 ディーサが、アウロラの動作にすかさずケチをつけた所で、ちょうどそこへ、店から背の低い男がグラスを両手に一つずつ持って出て来た。彼は、ディーサの姿を見るや、血相を変える。その男は服装から見て、お付きの者だろうとアウロラは思った。


「デ、ディーサ様!どうされたのです!?もしや、…?」

「またって何よ!?
 お前が飲み物買ってくるのが遅くなったからこんな事になったのよ!」

「こんな事、ですか…?」


 そう言って、キョロキョロとアウロラ達を見渡す従者。


「そうだよ!お前、ディーサ嬢の従者か?彼女の身の回りのお世話を怠ったから、こんな事になったんだろう!」


 便乗し、ビリエルまでそう怒りをぶつけるが、アウロラは余所の家の使用人に対しても強く出るビリエルが信じられなかった。


「いえ、私めはディーサ様のお申し付け通り果実ジュースを買ってきたまでです。人気な店ですから、長くお待たせする事はあらかじめお伝えしておりました。
 それよりも、またディーサ様はなにか面倒ごとを…?」

「だからまた、って何!?」


 それを聞き、アウロラはきっとこれではいつまで経っても話が進まないと口を挟んだ。


「あの、今汚してしまわれたのでしたら、早く処置すれば汚れが落ちると思います。飲み物も手にされたようですし、早くお帰りになった方がよろしいのでは?」

「はぁ!?もうこのワンピースは捨てるしか無いでしょ!決まってるじゃない!」

「お気遣いありがとうございます!
ディーサ様、お飲み物も買いましたし、お屋敷へ向かいましょう。お時間は掛かりますが確かに今すぐ迎いましたら汚れが落とせるかもしれません。」

「ええ?だって、でも…」

「もし。
汚れたお召し物を気にされているのでしたら、僕の屋敷にでも来ませんか?タウンハウスで、うちの者に洗わせましょう。その間、うちでゆっくり休めばいいですよ。」


 そこでビリエルは自身の髪を掻き上げながらそう言うと、従者は困惑の色を顔に浮かべ言い淀む。


「いえ、そのような…」

「まぁ!宜しくて?
じゃあお前、それを一つ、彼にお渡しなさい。」


 従者は遠慮しようとするがディーサは嬉々としてそう言って、従者が買ってきた果実ジュースの一つをビリエルに渡すよう指示をした。


「ええ!?ディーサ様…」

「いいじゃない!お誘いしてくれてるのよ?ほら、早くして!」

「いいのかい?ちょうど喉が渇いてたんだ。
ありがとう、いただくよ。」


 ディーサに言われたからと、ビリエルはひったくるように従者からグラスを一つ奪って、ゴクゴクと一気に飲んだ。


「ぷはー!美味しいね!これでアルコールが入ってたらもっと良かったんだけど。」

「まぁ!ウフフ。では連れて行って下さる?」

「もちろん!
 …あぁ、アウロラ。そういう事で!じゃあね!」


 そう言ってビリエルは、ディーサの手を恭しく取るとまるでスキップしているかのようにリズミカルに歩いて行ってしまった。
 アウロラは呆気にとられたが、今はこの子供の怪我の手当てをと思い出し、母親らしき人へと声を掛けたのだった。
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