【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない

まりぃべる

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8 貰い物

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「お父様、お母様!」


 イクセルとデシレアの姿を見たアウロラの母カリーネは立ち上がってそう嬉しそうに声を上げる。
 対してシーグルドとアウロラは音を立てないように立ち上がった。


「相変わらずだな、カリーネ。母親になったんだからちっとは大人しくしんか!」
「あらあら、カリーネは嫁いで行った若い頃そのままねぇ!」

「当たり前でしょう?人ってそう簡単には変わらないのよ?お父様もお母様も相変わらずね!」

「義父様、義母様、ご無沙汰しております。」


 カリーネが答えたあと、シーグルドは再び腰を丁寧に折って挨拶をする。アウロラもソファから少しずれて淑女の挨拶をした。


「シーグルドよ、毎度ながらカリーネが済まんな。
 アウロラ、随分とまた成長したな。」
「本当ねぇ、一段と綺麗になったわね。
 みんないらっしゃい!楽しみにしてたのよ?」

「父上、母上。アウロラは明日、かの男と観劇を鑑賞するそうです。」


 ビョルンがそう口添えする。



「…そうか。」
「あら大変!じゃあアウロラ、良かったらちょっと来てくれる?」


 ビョルンの説明に、デシレアは手を一つ、胸の前で叩いて今来たばかりの部屋から出ようとする。


「え?あ…はい。」

「あらお母様。どうされたの?」

「カリーネもアウロラと一緒にいらっしゃい!
 ゆっくりしていてちょうだいね!」


 そんな奔放なデシレアに、アウロラとカリーネは慌ててついて行った。





「お母様?」

「うふふ…デート、って事なのでしょう?ドレスはあるのかしら?」


 廊下を歩きながらデシレアは、カリーネの言葉にはにこにことして頷くだけの返事に留め、嬉しそうにアウロラへと問いかける。


「はい。一応、明るい青のドレスを着る予定です。」

「あらいいわね!じゃあ、それに合う装飾品を持って行くといいわ!
そうねぇ、ブローチか、カメオか…」

「まぁ!お母様、アウロラに貸して下さるの?」

「うふふ!貸すんじゃなくて差し上げるわ。それくらい、いいでしょう?」

「それくらいって、いいの?お母様。」
「えっと…でも…」


 デシレアにそう言われ、高価な物だろうとカリーネも戸惑い、合わせてなかなか返事を返せないアウロラ。


「気にいったのなら持っていって?
 私も、つけていく機会もなかなか無くなってきたもの。本当は、イクセルにもらった物なら全部しまっておきたいけど、それじゃあ勿体ないし。
 カリーネも一つ持っていきなさいな。」


 そう言って、デシレアの衣装部屋へ案内されるアウロラとカリーネ。
 元々、デシレアは王都に住んでいた庶民である。だからイクセルから贈ってもらった物はものすごく高価な物であると知っている。けれど、それを全てしまい込んでおくより、娘や孫に使ってもらった方がいいと思ったのだ。


「お母様、大切なものなんでしょう?」

「ええ、イクセルからもらった物だものとっても大切よ?だから私の大切だと思う貴方達に託すの!」


 そう言って微笑むデシレアに、アウロラとカリーネは想いを汲み取り笑みを返した。


「そうねぇ…これなんてどう?」


 そう言ってアウロラへと差し出したそれは、青い下地に真っ白い人物像が彫られ金の縁取りがされたカメオだった。


「これはね、イクセルのご先祖様を模したものらしいわ。」

「え?」
「ええ!?」
(ご先祖様って、王族!?)

「うふふ、でも誰だったか忘れちゃった!イクセルのお祖母さまか、ひいお祖母さまだったかしら…?
 まぁとにかく、後から聞いたのだけど王家では先祖を模して彫られたカメオを愛する恋人や妻に贈るのですって。それが大切にしてる証なのだそうよ。」

「お父様がお母様に?」

「ふふ、そうよ。また結婚する前だったかしら。その時は意味もなんなのかよくわからなかったんだけれど、嬉しかったからもらっちゃったのね。
 カリーネには…これはどう?」


 そう言って、もう一つ、今度は花が彫られた金の縁取りにところどころ真珠がついているカメオだった。


「この花は…バラだったかしら?私に似てる、とか言ってくれたのよねぇ。」


 そう言って花が綻ぶように笑うデシレアに、アウロラとカリーネは何度もお礼を伝えた。





☆★

「アウロラ、大丈夫なのか?」


 応接室に戻って来たアウロラ達だったが、イクセルはすぐに問いかけた。


「?」


 何の事かと、首を傾げながら席に座るアウロラに、イクセルは再び言葉を繋ぐ。


「八年前の弓当て会。そこに参加していた男が、相手なんだろう?」

「あ…はい。」

「しかも、アウロラの弓を持つ姿ではなく、帽子を被った少女の格好をしたスティーグと勘違いしていると?」


 シーグルドに視線を送ると頷かれたため、経緯を説明していたのだとアウロラは理解し、イクセルへと視線を戻して言葉を返す。


「あ…そのようです。でも、少ししかお聞きしていませんので…」

「そうか。
 まぁ、あの時の弓を持っていた姿は確かにはっきり分からなんだ。私でさえ驚いたよ。だからアレをフランソン家のスティーグだと普通は思う。そして帽子を被ったワンピース姿はアウロラだとな。
 だが、ただをそのまま決めつけるような輩なんぞ止めておけ。しかも、帽子を被った姿を見ただけで、懸想していたんだろう?」

「多分…お兄様は誰ともお話されていませんから。」

「とりあえず、明日観劇を見るそうですのでそれが終わったら考えなさいと、アウロラに伝えました。」


 アウロラの言葉に、補足するようにシーグルドが話した。


「うむ。まぁ他にもいい奴はおる。
 …ん?それは?デシレア、あげるのかい?」


 イクセルは、アウロラとカリーネの胸についているカメオを見て、デシレアに目を向け優しく声を掛けた。


「ええ、あなた。本当は、イクセルから貰った物は全部大切に取っておきたいけれど、それはそれで勿体ないかなって。…駄目だった?」

「いや?デシレアが決めたならそれでいい。
 二人とも、大切にしろよ。」

「ええ、お父様。」
「はい、もちろんです。」


 そう答えると、イクセルは満足そうに頷いた。




☆★

 結局、カリーネと、一緒に来ていた侍女ブリットだけがそのままレイグラーフ家に泊まっていく事となり、そこでは夕食も取らずシーグルドとアウロラはホテルへ帰る事となった。


「じゃあね。アウロラ、明日はほどほどにね!
 あなた、明日迎えに来てよ?」


 アウロラが出掛ける間、シーグルドとカリーネも昼前から出掛けると話していたのだ。どんな歌劇場か見てみたいと、デシレアとカリーネが言っていたので当日券が手に入るのならイクセルも共に歌劇場に行くのかもしれない。


「はい。」
「あぁ、もちろんだよ。ゆっくり休むんだよ、カリーネ。」




「お父様、ごめんなさい。」

「ん?なにがだい?」


 馬車の中、アウロラがシーグルドに唐突に謝ったため、何のことかと質問する。


「お父様も、お母様と一緒に泊まらなくて良かったのですか?」

「あぁ、なんだその事か。いいんだよ。カリーネだって久々の実家だからね、私に気兼ねなくゆっくりしたいかなと思ってね。」


 そう言って口角を上げて片目を瞑った。


「アウロラこそ、なんだか忙しなくて済まないね。」

「いえ。普段出来ない事をする、社会勉強と思って取り組みます。」

「社会勉強ね…まぁ、そうかもしれないね。なかなか体験できる事じゃないな。
 あのホテルも、普段であれば泊まったりしないからね。」


 家族で王都に滞在する事なんてほとんど無く、しなければならないならカリーネがいれば大抵はレイグラーフ家に世話になるからだ。
そうでなければ、王都とフランソン家はそれなりに近いため、カリーネが居ないなら休憩も多く取らないので辺りが暗くても屋敷へ帰るからだ。


「はい。ホテルに併設されている観劇を見るのも、初めてです。」

「ん?観劇は見た事あったんじゃなかったかい?」

「レイグラーフ家での勉強での事ですか?あれはまた違う場所でした。」

「あぁ、国立歌劇場だったかな?」

「はい。」

「ホテル併設は私も行った事無いなぁ。少し規模が小さいからね。それでも国立に負けないほど客足はあるらしい。きっと趣旨の異なるものを売りにしているんだろう。まぁ、どちらにせよ素晴らしいとは思うから、楽しんでおいで。私たちも行くかもしれないな。それも社会勉強、かな?」

「はい、社会勉強、して参ります。」



 話していると、すぐにホテルへと到着した。


「どうする?部屋で食べるかい?それとも、レストランで食べてみるかい?」

「レストラン?どんなものがあるのでしょうか?」

「私も分からないなぁ。じゃあ見てみよう。」


 そう言って、ロビーを抜けて行くと奥にレストランがあったが、あいにく満席だと入り口に立て札が出ていた。


「混んでるのか、残念だ。
 仕方ないね、部屋で食べるか。」

「そうですね。」


「失礼。食事処をお探しですか?」


 レストランの入り口で、かっちりとした服を着た見知らぬ背の高い男性に声を掛けられた。年齢はアウロラより少し上くらいか。
 髪は肩までと少し長めだが金髪で、真っ直ぐに伸びており一見すると歌劇団の人かと思ってしまうほど目鼻立ちがはっきりとしていた。


「そうなのです。でも、満席だそうですから部屋で取ろうかと。
 …おや、あなた様は…」


 と、シーグルドが最後は考え込みながら返すと、すぐさま男性は上を指して告げる。


「それでしたら、上の階にも食事処がありますよ。こちらは、ホテルに泊まらない方も使われるようですぐ満席になるようです。
 こちらで待たれるなら、そこのボードに名前を書いておけば、空けば呼んでもらえますよ。」


 と、優しい口調で教えてくれた。


「おお、これはご親切にありがとうございます。助かりました。
 アウロラ、どうする?上に行ってみるかい?」

「…アウロラ……」


 シーグルドがそれに謝辞を述べ、アウロラへと尋ねると、男性はその名前を拾って呟いた。


「?」


 それにアウロラは首を傾げると、男性は慌てて謝った。


「あぁ、失礼致しました。不躾に申し訳ありません。聞いた事のある名であったものですから。
 お詫びに、これを。」


 そう言って男性は、流れるように手に持っていた籠から手のひらに収まるほどの赤々とした林檎を見せると、籠ごとシーグルドに手渡した。見た目の割にとてもずっしりとしている。


「うちの特産品です。決して怪しいものではありません。林檎です。
ほら、そこの売店でも売られているんです。」


 と、ロビーの入口の方を手のひらで示す。確かに、そちらには土産物というか特産品が僅かではあるが売られている。


「え?」
「いや、そんな…あなた様にご教授いただいた上にお品ものまでいただけませんから。」

「いえ、年頃の女性に不快な思いをさせてしまいましたから、どうぞ。この林檎を自慢したいだけ、とでもお考え下さい。
 試作として持ってきたものではありますが、味は確かだと思います。
 では私めはこれで。」


 そう言って、恭しく頭を下げるとすぐに歩き出してロビーの前にあるラウンジへと向かって行ってしまった。


「お父様…」

「うん…変なものでもないよ。むしろ高級品だね。
 せっかくだからありがたくもらっておこう。」


 そう言って、林檎の入った籠を手に二人は上の階へと向かった。
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