【完結】花に祈る少女

まりぃべる

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11. 街の学び

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 スティーナは、あれからもマルメ祭りに一週間通いつめた。
とはいっても、一日中人が多い街にいては疲れ果ててしまう為、半日は街へ行き、半日は家でゆっくりとしていた。


 街へ行くのも、毎回ヴァルナルと二人でだった。一度、イロナを誘ったスティーナだったが、私は屋敷でゆっくりと過ごしたい、と断られたのだった。


 ヴァルナルとの街巡りは相変わらず緊張したがそれでも互いに少しずつ打ち解けていった。言葉遣いも、少しずつ崩しながらもお互いに真面目である為に丁寧に話していた。
 


「どうだったかしら?
マルメの街は賑やかだったでしょう?」


 祭りが終わって次の日に、イロナと帰る馬車の中でスティーナはそう聞かれた。
 ヴァルナルとは、行きと同じく帰りも馬車は別々だったので、スティーナは少し淋しく思った。


「はい、とても。ものすごく人が溢れていました。」

「そうね。
あれはウプサラ国以外の他国からの人もいるけれどね、いろんな領地から来ている人もいるのよ。」

「そうなのですね。」

「宮殿の周りの街は、どんな感じか知ってる?」

「いえ…行った事ありません。宮殿に行く際通った限りでは、賑やかではありましたが、マルメの方がすごかったです。」

「そうね、正解だわ。
まぁ、祭りであるからという理由もあるけれど。
マルメは、南の国境に近い街だから、人が良く集まって賑やかだとも言えるのよ。」

「宮殿に近い街の方が賑わっているわけではないのですね。」

「そうね。
普段はマルメも静かよ。でも、街は活気があるの。それは、国内外の商品を取り扱う店が多いからとも言われているのよ。
他国の人も普段からいる。だから、宮殿の近くの街よりもマルメに住みたいと言う人もいるわ。」

「そうなんですね。」

「スティーナも、活気がある人達の顔付きは見たかしら?
祭りだから浮かれているというのも多かっただろうけれど。」

「顔つき…?」

「祭りだったからっていうのもあるだろうけれど、笑っている人達のが多かったんじゃない?」

「そう言われれば、そうかもしれません。」

「宮殿の近くの街ではね、裏路地に貧しい人が住んでいるのよ。家じゃなく、道端によ。だからそういう人達は笑ってなんていられない。その日暮らしていけるかも不安なのだから。
マルメにはそういう人達はいないのよ。」

「え!道端…?
どうしてですか…?」

「マルメの方が暮らし易いのね。宮殿の近くの街の方が、貧富差が激しいのよ。裕福な人は、ものすごく広い豪勢な家に住み、食べ物だって苦労しないでしょう?スティーナもその部類ではあるのよ。
その辺りはもう少し大きくなってから直接空気を感じる為に出掛けて、学んでいきましょう。
花祈りにも、関わってくるものね。
貧しい人達にも寄り添える心をもっていなければ、国を善くしてなんていけれないのよ。裕福な人達だけが優先される国はやがて滅びてしまうの。」


 祈り…願い、にも関わってくる。スティーナは、難しい話ではあるけれど、そういうものなのかと思った。

 確かに、祭りにいた人達は皆、それなりの服を着て、楽しんでいた。生活が苦しそうな人を街で見かけなかったのだ。

 祭りだから、という事もあるが、それでも街の至る所で祭りは行われており、道端で行き倒れている人も見なかった。時折、お酒の飲み過ぎで道端で寝込んでいる人は見かけたが、陽気で、皆、笑いながら楽しそうであった。
 それが、宮殿近くの街では違うのかと、街によって雰囲気が違うという事をスティーナは今回出掛けた事で初めて知ったのだった。
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