【完結】いつも微笑んでいる侯爵様とニコリともしない伯爵令嬢のお話

まりぃべる

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7. 逃げなければ、と思ったら

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 今夜の舞踏会も、嫌々参加していたアルフォンシーナは壁の花になり、ダンスに誘われたら断ればいいと思っていた。


 けれど、今夜は違ったのだ。




「おい、そこのお前!」

 ダンスホールでアルフォンシーナは、壁沿いに立っていた。近くで、男性の声が聞こえたが、アルフォンシーナは自分に声を掛けられたとは思わず、返事をしなかった。
〝お前〟という言い方は、この場には相応しくない野蛮な言い方だとは気にはなったが、聞き間違いだろうと思い、顔も動かさなかった。


「おい、お前だ!俺が声を掛けているんだぞ!?聞こえてるのか!?」

「!?」


 いきなり肩に手を置かれ、アルフォンシーナはびくりと体を震わせた。そして、肩に手を置いた人物を見た睨みつけた
 肌は全体的に浅黒く、髪も真っ黒で、少しこの辺りの顔つきと違う雰囲気である。


「なんだ?その目は。お前、俺に声を掛けられたんだぞ?光栄だろ!」


 肩に置いた手をより一層力強くされたアルフォンシーナは、離してもらおうと一歩横にずれ、声を発した。


「…どちら様ですか。」

「はぁ!?俺を知らない!?フン!まぁ…そうか、仕方ねぇなぁ!ダンスにも誘われねぇお前は、俺の事も知らねぇか!」

「いいえ。そうではなく。いきなり挨拶もせずに人の肩に手を掛ける無作法者は、どちら様ですかとお聞きしましたの。」

「な…な…なんだと!?俺のどこが無作法者だ!俺に跪かないお前の方が無作法者だろうに!!」


 顔が、誰から見ても分かるくらい真っ赤に染まったその不遜な態度の男性は、服装が真っ白に金の縁取りをされた上下の服を着ていた。
 ダンスホールには、ダンスを踊る為に曲が演奏されているのだが、その声を掻き消す程の大きな声で叫んだ為に、一斉に周りの者達は叫んだ声のする男の方を見た。


「まぁ……!こんな場で大きな声で叫ぶとは。マナーを学ばれてはいらっしゃらないのかしら。私がいては、ご迷惑が掛かるといけませんから、失礼致しますわ。」


 アルフォンシーナは、そう言って男性から視線を外し、素早く膝を曲げて体を低くして会釈をすると、庭園へと続くテラスへと向かった。




(はぁ…あの男性は誰だったのかしら。)


 社交シーズンが始まると毎週、王宮で舞踏会がある。しかしアルフォンシーナは舞踏会が好きではない為、出席しなくても問題ないものは欠席をしていた。


 今日は、隣の、そのまた隣の国である今まであまり交流のなかった砂の国と言われる、フィラハ国のテレンツィオ第一王子と、パルミーロ第二王子がしばらくこの国に滞在するとの話で、アルフォンシーナも出席せざるを得なかったのだ。


(確か、初めに紹介されていた王子達も、白地に金の縁取りをした服装じゃなかったかしら。)


 アルフォンシーナは、暇さえあれば本を読んでいた為に目が悪いのだ。だから、遠くがあまり見えない。アルフォンシーナがいた場所から、王族が紹介していた方向は距離があり、顔がはっきり見えなかった。
だが、服装は見えていた為にそう思い出した。


(フィラハ国は、このコネリアーノ国とさらなる交流を深める為に滞在するのだったわよね。テレンツィオ王子は、優秀だと聞くわ。年齢は二十歳だったかしら。パルミーロ王子は…あまりどんな方か知らないわ。年齢は十九歳だったとおもうけれど…国際問題になったらどうしましょう!?でも…悪いのは向こうだもの。)

 アルフォンシーナは、言ってしまってからそう後悔していた。が、言ってしまった事は仕方ないと気持ちを落ち着ける為に庭園へと足を踏み入れた。


 庭園は、芝生が均一な長さで丁寧に揃えられている。その間にあるレンガの道を進むと、噴水があり、その奥へもまだ続いていた。

 噴水の近くにはベンチがあり、先客がいたので、さらに奥へ向かう。ダンスホールから抜け出してきたのだろう。男女が一体化しているんじゃないかと疑問に思うほど、お互いの距離は近く座っていた。なので、そちらを見ないようにして奥に進む。


 と、後ろから大きな声が聞こえた。


「おい!話は終わっていないぞ!どこへ逃げた!!」

 そう言って、声の主はテラスから出て来て、キョロキョロと辺りを見渡している。


(え!?さっきの…!?)


 アルフォンシーナは振り返り、声が先ほど叫んでいた人物の声であったので怖くなって奥のベンチに逃げ込もうとした。すると、横の生け垣から人影が出て来て、アルフォンシーナへと声を掛ける。
 アルフォンシーナは驚いて、それに叫び声を上げそうになるが、その人影が見た事のある顔だと分かるとホッとして、息を吐いた。


「アルフォンシーナ、こちらへおいで。」

「ヴァルフレード様?驚きましたわ。道ではないところからお出でになるのですもの。」

「今はそれよりも、あなたを守る事が先決です。さぁ、こちらへ。」


 出て来たのはヴァルフレードで、テラスの方に視線を向きつつそう言った。そして、手をアルフォンシーナへと差し出し、そこへ手を乗せるとヴァルフレードは少し力を込め、生け垣の影になっているベンチに連れて行った。


「済まない…俺の睨みが効かなくて。」

「え?」

「いや、あの馬鹿王子にね。
俺はアルフォンシーナに下心のある奴らが近寄らないように圧を掛けていたんだ。だけれど、たまに、それを知らない奴らが声を掛けに行くだろう?もそうで…騒ぎを起こした。あ、良かった。拘束されているよ。」


 生け垣の影から会場の方を覗くと、国防軍の警備隊員に囲まれてギャンギャンと叫んでいる声が聞こえる。


「誰に口をきいている!?お前ら、処分されたいのか!!」

「何命令してる!?おい!」


 その声が聞こえる度にビクリと体を震わすアルフォンシーナ。
 ヴァルフレードがアルフォンシーナの顔を覗き込んで聞く。

「…大丈夫か?失礼。」

 そう言うと、アルフォンシーナの背中に手を回し、優しくトントンと二度ほど叩いた。
半ば抱きしめられた格好になり、アルフォンシーナは途端に恥ずかしくなる。だが、爽やかな香りが鼻を擽った為、なんだか懐かしさに目を瞑る。

「アルフォンシーナ。安心して。君を守るよ。大丈夫だ。」


(なぜかしら…そう言われると本当に安心していいのかもと思えてしまうわ。それに、この香り…どこで嗅いだかしら。なんだかとても爽やかで…)


 アルフォンシーナは、暗闇だという事もあり、また安心させるように優しい言葉を囁いてくれている事もあり、気持ちが安らぐのを感じながら、しばらくそのままでいたのだった。
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