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5. いざ、鉱山へ
しおりを挟むアレッシアは明朝、家を一人で出て、歩いて鉱山へと向かった。
コンシリアが入り口までついて行くと言ってくれたのだが、鉱山への道中は緩やかではあるが上り坂であるし、分かりやすく街道もそれなりに整備されている為に一人で行くと断った。
アレッシアは、父から『ベアータも詳しくは聞いていないそうなんだ。商人とも世間話の一つとして聞いたそうだからね。でも、鉱山の入り口に行って聞けば、何か分かるだろう。』としか言われなかったのでかなり不安ではあったが、行かなければ何も分からないととりあえず向かっているのである。
ベアータもさすがにその商人から聞いただけで、鉱山へと稼ぎに行く事を考えてもいなかったから『そういえばイブレア鉱山、また人材募集始めたそうですね。ここもまた、人が増えるかもしれませんねぇ。』という世間話に、『あらそうなの?どうなのかしらね。』としか返事をしなかったらしい。商人も、会話をする事で新しく仕入れた情報を流しているのだ。ベアータもその事はなんとなく分かっているので、ブリツィオに商人から聞いた話は伝えただけなのである。
だが、それを聞いたブリツィオは元々の漁師の魂がうずき、『だったら、私が金を稼ぎに行こう!』と思いついたのだ。船の上で活躍する漁師は、思い立ったら経験と直感に頼り即行動するのだ。婿養子であるから貴族のしきたりよりも家族思いのブリツィオ。だが、どうあっても領主であるが故に自分が思うように行動出来ない事を歯痒く思っている。
高台に建つペルティーニ伯爵家から、整備されている街道をひたすら進んで行き、そろそろ鉱山道への入り口が見えてくる頃かという時にアレッシアは何やら動物の痛々しい鳴き声が聞こえてきた。
ヒヒーン、ヒーン
(馬…?)
アレッシアはこんな山奥に馬が何故居るのだろうと思ったが、とても悲痛な鳴き声であったから可哀想に感じ、街道から逸れるが少しなら迷わないだろうとその声のする方へ耳を澄ませ、歩みを進める事とした。
木々の間を抜け、思ったよりも街道にほど近い少しだけ進んだ先に、背の高い真っ黒な毛並みの馬がもがいているのが見えた。
(どうしたのかしら…あ!脚!!)
馬がやたらと足元を気にしているのでそちらに視線を向けたアレッシアは、誰か人間が仕掛けたであろう鉄製の罠に脚が挟まれているのを見つけた。
「大丈夫!?今外してあげるわ。だからごめんね、ちょっとだけ大人しくしててね。」
馬は、後ろへ回り込まれるのを嫌う習性がある。それでも、蹴られるかもしれない危険は感じつつもアレッシアは馬へと声を掛けつつ近づいた。
アレッシアは近くにあった大きな太い枝を、その罠へとねじ込み、馬の脚をどうにか抜いた。
「やった!外れたわよ!」
ヒヒーン!
馬が嘶き、ブルンブルンと鼻を鳴らしながらアレッシアをジッと見つめる。
けれどもアレッシアはそれよりも脚の傷が気になり周りをきょろきょろと見渡した。
と、目当ての葉を見つけ、そちらまで走っていきそれを引っこ抜くと、自分の持ってきた僅かな荷物から少し長めの布を出し、それを馬の脚へと当てて巻いた。その葉は、傷によく効くのである。だから馬にもきっと同じく効能を発揮するだろうとそのように手当てをしたのだ。
意外にも、嫌がられずに大人しくしてくれたのでホッとしながらアレッシアは声を掛ける。
「大人しくしてくれてありがとう。
これでいいかしら?すぐ外れちゃうかもしれないけれど、やらないよりはましだからね、きっと。」
そう馬へと話しかけると、アレッシアはゆっくりと顔へと手を近づけ、撫でようとした。
「あ!でも野生なのかしら?撫でたら怒る?」
アレッシアが馬の目を見つめつつそう問うと、その馬はまるで言葉が分かるかのように首をアレッシアへとむけ、差し出す。
「フフ。本当にいい子だわ。早く良くなるといいわね。
じゃあね。」
馬の首元を二、三度ゆっくり撫でてからそう言うと、アレッシアは手を振って街道へと戻った。
☆★
それからすぐに街道を進むと、木々が開けた場所に出た。アレッシアは鉱山への入り口へ辿り着いたのだ。
木造でしっかりと造られた枠組みのような門が構えてあり、それをくぐると正面に洞窟のような山の中への入り口がぽっかりと空いていた。そこが、鉱山への入り口なのだろう。
しかし、人気はなく静まり返っている。
(ここ、でいいのよね…?)
昨日ブリツィオに軽く言われた場所に来たアレッシアは、周りには誰も居なくて鳥の鳴き声しか聞こえないその鉱山への入り口で立ち止まる。
どうしようかとも考えたがアレッシアは思い切って、門をくぐり洞窟へと進む事にした。ここでずっと立ち止まっていても物事は進まないと思ったのだ。
「すみませーん、少しよろしいでしょうかー。お邪魔いたしますー。すみませーん。」
そのように大きな声を上げながら門をくぐり、洞窟の中へとそう叫ぶとアレッシアに答えるように、洞窟の奥から声が聞こえた。
「誰だー?ちょっと待っとれー!」
その声にアレッシアは、足を止めて待つ。ややもすると、アレッシアと同じほどの背丈で、お腹の部分がふっくらとした男性が近づいてくる。
「誰だー?おんめー、新人け?」
見るからに怪しいと、アレッシアを上から下までジロリと視線を這わせてから、またアレッシアへと声を掛ける。
「聞いとるけ?」
「あ!は、はい!…えーと……」
けれどもアレッシアは、その男性の言葉に返事をどう返せばいいのか迷った。
(新人、なのよね?私。ここで働くのが希望なのだもの。でもまだ雇われてもないのだけど…まぁでも名乗った方がいいわよね。)
「あの、私…」
「あー、新人だべ!人手が足りんから助かるば。じゃあついて来な!」
そう言って、その男性は振り返り元来た道を直ぐに戻って行ってしまう。
アレッシアは見失うと困ると思い、慌ててついて行ったのだった。
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