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4. 家族との晩餐

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 町から帰ったアレッシアは、部屋でコンシリアと片付けをしていた。詳細が分からない為に明日、鉱山へ直接聞きに行き、場合によってはすぐに働けるように荷物も持って行く為だ。しかし、たくさん持ってはいけないので、その選別をしていたのだ。


「ボリバルより、服がいいと言われてますから、こちらをお持ち下さい。」


 部屋に、同じような服を持ってきた侍女長のキアーラにそう言われ、アレッシアは見せてもらう。


「まぁ!…そう、そうですね……」


 コンシリアがそれをもらい、服をベッドに広げて置く。と、それはゆったりとした上の生成りの長袖の服と、くるぶしまで隠れる長ズボンであった。このモンタルドーラ国は、女性は普段ズボンを穿かない。なのでコンシリアは驚きを見せたのだが、鉱山は力仕事だとぼんやりとではあるが聞いているので、不承不承ではあるが一つ頷いて納得をする。

 アレッシアもまた、その服を見て一瞬間違えて持ってきたのかと思ったが、確かにズボンの方がいいのだろうと思い直して頷いた。


「キアーラ、ありがとう。助かるわ。」

「本当に行かれるのですね…アレッシア様。」


 キアーラもまた、淋しそうな目をしてアレッシアへと声を掛ける。


「ええ。だからキアーラ、皆をよろしくね。」

「…承知しております。アレッシア様もどうかお気をつけて。」


 キアーラはそう言うと、涙を堪えるように唇をきゅっと結ぶと、名残惜しそうに部屋を出て行った。





☆★

 夕食の時間。


 アレッシアは食堂に来た時、まだ誰も居なかった。その内にカスト、ベアータが来て、最後にブリツィオが来ると、夕食が並び始める。料理長のブラスの指示の元、ボリバルやキアーラとコンシリアが机へと並べていく。
ブラスは、アレッシアの近くに並べる時に、ウインクをしながら置いていく。それは、アレッシアの好きな魚の調理法ばかりであった為にアレッシアも微笑みを返したのだった。

 普段よりも品数がいくらか多く、机に並びきらないほどに食事が並んでいくのでカストはたまらず声を上げた。


「今日はパーティーか何かですか?随分と多いですね。」


 その声にベアータも嬉しそうに声を上げる。


「本当ね!いつもこのくらいあるといいものだわ。」


 ブリツィオは、それに視線を向けて返事をする。


「あぁ、だがそれは贅沢であるから残念ながら無理だよ、ベアータ。
明日から、アレッシアは鉱山へ働きに行くんだ。どうやらそれの餞別の為に町の者がくれたらしい。」

「は!?」
「え?」


 ブリツィオのその言葉に、目を丸くしたカストとベアータだったが、カストが続いて言葉にする。


「父上、どういう事でしょうか。姉上が働きに?無理でしょう、そんなの!何かの間違いでは?」

「いや。アレッシアと話し、そう決めたんだよ。
本当は、私が行こうかとおもったのだが、止められてね。」


 ブリツィオはそのように淡々と言う。感情を込めてしまえば、自分の代わりに娘を務めに出すという不甲斐なさでまた涙が込み上げてくるからだ。


「父上まで!?…えぇ、分かっております。家の事情ですよね?
でしたら、ぼくが行きます。十二歳ではありますが、姉上よりは使いものになると思います!」

「あら、ダメよ。カストは今年、学校に通う年齢だもの。確かに、か弱い女が行く場所ではないわ。そうよね?ブリツィオ。
でしたら、ブリツィオあなたが行けばいのよ。あなたなら、漁師だったのだもの、力仕事なんて楽勝でしょ?
でも…会えなくなるのは寂しいわ。」


 ベアータはおっとりとした性格の為、そのように深くは考えずに思った事を言った。


「ベアータ…まぁそうなんだけどね。ボリバルがダメだと言うんだ。だから、アレッシアに行ってもらうんだよ。まぁ、年齢や性別の制限なんて町に張り出されている募集要項には書かれていないから、女性でも出来る仕事はあると思うんだ。」


 ブリツィオはそのようにわかりやすく伝える。しかしそれは自分にも言い聞かせるようであった。


「まぁ!適当な事を言って!ちゃんと確認したの?アレッシアはそろそろ結婚の出来る年齢でしょ?鉱山へなんて行ったら、いつ帰ってくるのよ?」

「ベアータ、その辺りは商人から聞いていないんだろう?だから明日鉱山へ直接行って聞けば、話が早いと思うんだ。」

「え!だって、べつにそれ以上言われなかったのだもの。仕方ないでしょう?」

「いいんだよ、それで。ベアータはそのような、話を教えてくれるだけで充分さ。」

「そう?ならいいのだけれど。」

「いや、良くない!姉上が行くのはどうあっても無理だ!」


 ベアータは感謝された事で落ち着きを取り戻しつつあったが、カストはとうとう、席を立って大きな声を上げた。


 カストは、幼い頃は絵を描くのが大好きなおとなしい子供であった。そしてアレッシアが話し掛ける時には常に微笑み、うんうんと口を挟まずに話を聞いているような子供であった。
 それが、今では芯の強い、アレッシアには少し子に育ってしまっている。
 

「…座りなさい、カスト。」


 たまらず、ブリツィオはカストへとそう諭すように声を掛ける。食事が始まるのに大きな声を上げ立ち上がった事にはあえて叱りはしなかった。その気持ちは痛いほどよく分かっていたのだ。
 可愛い娘を鉱山へ、なんてやりたくない。だが、今はそれくらいしか、大金を一度に手にする方法が見つからないからだ。


「カスト、確かに私では役不足で、無理なのかもしれません。けれど、私が働きに行くのが一番都合が良いのです。
…分かるわよね?」

「ぐっ…」


 アレッシアは落ち着いた口調でそう言った。最近はいつもアレッシアに当たりが強く、お前なんて役不足だと今回も言われてしまい少しだけ悲しく思ったアレッシアだったが、冷静に状況を見た上でそのようにするしかないのだと、アレッシアも諭すように呟く。

 カストも心の中では分かっているからか、アレッシアにそう言われると押し黙り、アレッシアを睨みつけながら席に座った。


「それにカストは、お母様が言うように学校があるもの。ペルティーニ伯爵家を継ぐ者として、頑張ってこなければならないでしょう?」

「そ、それであれば!ぼくが通わなければ、姉上は鉱山へなんて働きに出なくて済むのではないですか!?そうすれば大金は必要無くなる!女が行くなんて、足手纏いでしかないんですから!」

「あら、カスト。女が、なんて決めるのは失礼よ?大切なのは、気持ちだわ。
…でも、確かに体力の面は、男性と女性じゃあ全然違うものね。アレッシアが心配だわ。」

「そうでしょう!?ですから!」

「私が、行くと、決めたのです。よろしくお願いしますね。」


 これ以上言い合うのも、せっかくの食事が冷めてしまうと思ったアレッシアは敢えてそうゆっくりと言って、ニッコリと笑顔を向け話を終えようとする。
と、カストは口をつぐんで下を向き、何かを考えているような表情をした。
ベアータもまた、アレッシアの意思を尊重して、それ以上はなにも言わなかった。


「さぁ、せっかくの晩餐だ。楽しく食べようではないか!」

 
 パン、と手を一つ叩いてそれまでの雰囲気を変えようとブリツィオはそう三人へと言うと、自身は並んだ食事に手を付けはじめる。

 アレッシアもそれにならい手を伸ばそうとしたところで、カストがまた口を開いた。


「ぼくがペルティーニ伯爵家を今よりも裕福にしてみせます。ですからそれまで、鉱山では無理しないで頑張って下さいよ、姉上!」

「ええ、ありがとうカスト。」


(頼もしい事を言ってくれるわね。でも…それって学校を卒業した後の事を言っているのよね。何年かかるのかしら?それまでには、私も鉱山からの勤めを終えて帰ってきたいわ。)


 と、アレッシアは心の中でそう思ったのだった。
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