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第2章 図書館での冒険
第10話 とじられた扉と記憶の迷宮[2]
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あの日、なつみの世界は、音を立てて崩れた。
夏の終わり、夕立が街を濡らしたあとの夕暮れ時。
雷鳴の音も止んで、蝉の声がかすかに戻り始めた頃―――その知らせは、あまりに突然だった。
「事故、だったって……」
両親の口から漏れたその一言だけが、世界をまるごと変えてしまった。
お姉ちゃんが、いない。
その言葉を、頭ではわかっても、心が拒んだ。
何度も夢を見た。
きっとどこかで迷っているだけ、また玄関の扉が開いて、「ただいま」って言ってくれるって――そう信じていた。
でも、その日から、お姉ちゃんの姿はどこにもなかった。
思い出の中では、あんなに笑っていたのに。
なつみの“冒険”を応援してくれた、たったひとりの“仲間”だったのに。
「……お姉ちゃん……」
まるで呪文のように、何度も胸の奥で繰り返した。
記憶の部屋にあったのは、あの夏と、あの日の“終わり”だった。
目の前がにじんで、霞んで、でもなつみは泣かなかった。
泣いちゃいけない、そう思った。
“ゆうしゃ”は、泣かないって決めてたから。
けれど、そらたが小さく呟いた。
「……なっちゃん、泣いていいよ」
その声は、とても静かだったけれど、しっかりと、なつみの胸に届いた。
なつみは顔を伏せたまま、かすかに首を横に振る。
「……だめ。泣いたら、お姉ちゃんに、会えなくなっちゃう」
「え……?」
「わたし……ずっと思ってたの。お姉ちゃんの残したもの、見つけられたら、そこに会えるって。……気持ちとか、声とか、想いとか――ぜんぶ、ちゃんと見つけられたら……」
そらたは言葉を失った。
なつみの冒険は、遊びでも気まぐれでもなかった。
心に残る“誰か”に、もう一度手を伸ばすための、旅だったのだ。
「……あのときね、お姉ちゃんが言ったの。“なつみは、ゆうしゃだから。わたしがいなくても、大丈夫だよ”って……」
“ゆうしゃ”――それは、なつみにとって、強がりの別名だった。
ひらがなで綴るその言葉には、どこかあたたかくて、でも少し切ない響きがある。
誰かを守るために、泣くことも笑うことも、ひとりで受け止めてきた――そんな覚悟が込められていた。
そらたは拳を握った。
「……じゃあ、僕が、“魔法使い”として、なっちゃんのとなりにいる」
「え?」
「僕の“まほう”は……なっちゃんの悲しい気持ちを、ちょっとだけ軽くするためにあるんだと思う。なっちゃんが笑えるように、そばでずっと、呪文を唱えるから」
そう言って、そらたはリュックサックから、お手製の“魔法使いのノート”を取り出した。
折り紙とテープで作った装丁の中には、なつみとの冒険の記録が、びっしりと綴られている。
「なっちゃんとの“まおうたいじ”、毎年ノートにまとめてたんだ。……次のページには、この夏の冒険を書こうと思ってる」
「……ばか」
なつみはぽつりとそう言って、涙をにじませながら笑った。
「……そらたって、やっぱり、魔法つかいみたいだね」
その言葉は、かつて交わした“ひみつの約束”のように、ふたりの間にぽたりと落ちた。
夏の終わり、夕立が街を濡らしたあとの夕暮れ時。
雷鳴の音も止んで、蝉の声がかすかに戻り始めた頃―――その知らせは、あまりに突然だった。
「事故、だったって……」
両親の口から漏れたその一言だけが、世界をまるごと変えてしまった。
お姉ちゃんが、いない。
その言葉を、頭ではわかっても、心が拒んだ。
何度も夢を見た。
きっとどこかで迷っているだけ、また玄関の扉が開いて、「ただいま」って言ってくれるって――そう信じていた。
でも、その日から、お姉ちゃんの姿はどこにもなかった。
思い出の中では、あんなに笑っていたのに。
なつみの“冒険”を応援してくれた、たったひとりの“仲間”だったのに。
「……お姉ちゃん……」
まるで呪文のように、何度も胸の奥で繰り返した。
記憶の部屋にあったのは、あの夏と、あの日の“終わり”だった。
目の前がにじんで、霞んで、でもなつみは泣かなかった。
泣いちゃいけない、そう思った。
“ゆうしゃ”は、泣かないって決めてたから。
けれど、そらたが小さく呟いた。
「……なっちゃん、泣いていいよ」
その声は、とても静かだったけれど、しっかりと、なつみの胸に届いた。
なつみは顔を伏せたまま、かすかに首を横に振る。
「……だめ。泣いたら、お姉ちゃんに、会えなくなっちゃう」
「え……?」
「わたし……ずっと思ってたの。お姉ちゃんの残したもの、見つけられたら、そこに会えるって。……気持ちとか、声とか、想いとか――ぜんぶ、ちゃんと見つけられたら……」
そらたは言葉を失った。
なつみの冒険は、遊びでも気まぐれでもなかった。
心に残る“誰か”に、もう一度手を伸ばすための、旅だったのだ。
「……あのときね、お姉ちゃんが言ったの。“なつみは、ゆうしゃだから。わたしがいなくても、大丈夫だよ”って……」
“ゆうしゃ”――それは、なつみにとって、強がりの別名だった。
ひらがなで綴るその言葉には、どこかあたたかくて、でも少し切ない響きがある。
誰かを守るために、泣くことも笑うことも、ひとりで受け止めてきた――そんな覚悟が込められていた。
そらたは拳を握った。
「……じゃあ、僕が、“魔法使い”として、なっちゃんのとなりにいる」
「え?」
「僕の“まほう”は……なっちゃんの悲しい気持ちを、ちょっとだけ軽くするためにあるんだと思う。なっちゃんが笑えるように、そばでずっと、呪文を唱えるから」
そう言って、そらたはリュックサックから、お手製の“魔法使いのノート”を取り出した。
折り紙とテープで作った装丁の中には、なつみとの冒険の記録が、びっしりと綴られている。
「なっちゃんとの“まおうたいじ”、毎年ノートにまとめてたんだ。……次のページには、この夏の冒険を書こうと思ってる」
「……ばか」
なつみはぽつりとそう言って、涙をにじませながら笑った。
「……そらたって、やっぱり、魔法つかいみたいだね」
その言葉は、かつて交わした“ひみつの約束”のように、ふたりの間にぽたりと落ちた。
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