ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

文字の大きさ
9 / 68
第2章 図書館での冒険

第9話 とじられた扉と記憶の迷宮[1]

しおりを挟む
図書館の一角――「しずかな場所」と呼ばれていた旧館の奥。
ふたりの前に現れたのは、古びた木の扉だった。鉄の取っ手は冷たく、鍵穴には封印のように巻かれた赤いリボンが結ばれていた。

「これ……本当に、図書室の中?」

そらたがぽつりとつぶやく。
普段立ち入ることのない旧館の奥、分厚いカーテンが陽射しを遮り、空気はひんやりとしていた。
かすかな埃の匂いが鼻をくすぐる。なつみは一歩、前に出た。

「……ここが、“まほうのとびら”。」

なつみの声は、どこか懐かしさを帯びていた。
それは、過去のどこかで聞いた旋律のような、静かな響きだった。

「鍵……かかってるのかな」

そらたがリボンに触れようと手を伸ばした、そのとき――

「だめっ!」

なつみが思わず叫んだ。
そらたは驚いて手を引く。彼女の表情は、鋭く、でもどこか怯えにも似ていた。

「この扉は、わたしが……じゃなくて、“ゆうしゃ”が開けなきゃいけないの」

そう言って、なつみはスカートのポケットから、小さな紙片を取り出した。
それは、色褪せた“まおうたいじの書”の切れ端。かつてお姉ちゃんと交わした、手作りの冒険ノートの一部だった。

「お姉ちゃんと、ここに来たことがあるの?」

そらたの問いに、なつみは小さく首を振った。

「ううん……でも、きっとここに“答え”がある気がするんだ」

小さな手で、リボンをほどく。
取っ手に触れるその仕草は、まるで儀式のようだった。

ギィィ――という音とともに、重たそうな扉がゆっくりと開いた。
冷たい風が二人の間を通り抜けていく。

その向こうに広がっていたのは――

書棚の迷宮だった。

左右の壁に沿って、びっしりと並んだ古書と、どこまでも続くように見える本棚の列。
天井は高く、薄暗い空間に灯るのは、ぽつりぽつりと吊るされた古い電球の光だけ。
足元のタイルはひんやりとし、踏みしめるたびにかすかに響く音が、静けさを強調した。

「わあ……」

そらたが思わず息をのむ。
まるで、時間が止まってしまったような空間。

なつみは一歩、また一歩と奥へと進む。
肩まで伸ばした栗色の髪をポニーテールに結い、スカートの下にスパッツを重ねたその姿は、背中から見ると小さくて、でもどこか誇らしげだった。

「……いこう、“まほうつかい”」

ふり返ったなつみの声に、そらたも頷いた。
眼鏡の奥の瞳は真剣で、黒髪は少し汗で額に張り付いていた。
短めのハーフパンツにTシャツ、背中のリュックには、お手製の“木の杖”が入っている。

ふたりは、記憶の迷宮へと足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...