10 / 68
第2章 図書館での冒険
第10話 とじられた扉と記憶の迷宮[2]
しおりを挟む
あの日、なつみの世界は、音を立てて崩れた。
夏の終わり、夕立が街を濡らしたあとの夕暮れ時。
雷鳴の音も止んで、蝉の声がかすかに戻り始めた頃―――その知らせは、あまりに突然だった。
「事故、だったって……」
両親の口から漏れたその一言だけが、世界をまるごと変えてしまった。
お姉ちゃんが、いない。
その言葉を、頭ではわかっても、心が拒んだ。
何度も夢を見た。
きっとどこかで迷っているだけ、また玄関の扉が開いて、「ただいま」って言ってくれるって――そう信じていた。
でも、その日から、お姉ちゃんの姿はどこにもなかった。
思い出の中では、あんなに笑っていたのに。
なつみの“冒険”を応援してくれた、たったひとりの“仲間”だったのに。
「……お姉ちゃん……」
まるで呪文のように、何度も胸の奥で繰り返した。
記憶の部屋にあったのは、あの夏と、あの日の“終わり”だった。
目の前がにじんで、霞んで、でもなつみは泣かなかった。
泣いちゃいけない、そう思った。
“ゆうしゃ”は、泣かないって決めてたから。
けれど、そらたが小さく呟いた。
「……なっちゃん、泣いていいよ」
その声は、とても静かだったけれど、しっかりと、なつみの胸に届いた。
なつみは顔を伏せたまま、かすかに首を横に振る。
「……だめ。泣いたら、お姉ちゃんに、会えなくなっちゃう」
「え……?」
「わたし……ずっと思ってたの。お姉ちゃんの残したもの、見つけられたら、そこに会えるって。……気持ちとか、声とか、想いとか――ぜんぶ、ちゃんと見つけられたら……」
そらたは言葉を失った。
なつみの冒険は、遊びでも気まぐれでもなかった。
心に残る“誰か”に、もう一度手を伸ばすための、旅だったのだ。
「……あのときね、お姉ちゃんが言ったの。“なつみは、ゆうしゃだから。わたしがいなくても、大丈夫だよ”って……」
“ゆうしゃ”――それは、なつみにとって、強がりの別名だった。
ひらがなで綴るその言葉には、どこかあたたかくて、でも少し切ない響きがある。
誰かを守るために、泣くことも笑うことも、ひとりで受け止めてきた――そんな覚悟が込められていた。
そらたは拳を握った。
「……じゃあ、僕が、“魔法使い”として、なっちゃんのとなりにいる」
「え?」
「僕の“まほう”は……なっちゃんの悲しい気持ちを、ちょっとだけ軽くするためにあるんだと思う。なっちゃんが笑えるように、そばでずっと、呪文を唱えるから」
そう言って、そらたはリュックサックから、お手製の“魔法使いのノート”を取り出した。
折り紙とテープで作った装丁の中には、なつみとの冒険の記録が、びっしりと綴られている。
「なっちゃんとの“まおうたいじ”、毎年ノートにまとめてたんだ。……次のページには、この夏の冒険を書こうと思ってる」
「……ばか」
なつみはぽつりとそう言って、涙をにじませながら笑った。
「……そらたって、やっぱり、魔法つかいみたいだね」
その言葉は、かつて交わした“ひみつの約束”のように、ふたりの間にぽたりと落ちた。
夏の終わり、夕立が街を濡らしたあとの夕暮れ時。
雷鳴の音も止んで、蝉の声がかすかに戻り始めた頃―――その知らせは、あまりに突然だった。
「事故、だったって……」
両親の口から漏れたその一言だけが、世界をまるごと変えてしまった。
お姉ちゃんが、いない。
その言葉を、頭ではわかっても、心が拒んだ。
何度も夢を見た。
きっとどこかで迷っているだけ、また玄関の扉が開いて、「ただいま」って言ってくれるって――そう信じていた。
でも、その日から、お姉ちゃんの姿はどこにもなかった。
思い出の中では、あんなに笑っていたのに。
なつみの“冒険”を応援してくれた、たったひとりの“仲間”だったのに。
「……お姉ちゃん……」
まるで呪文のように、何度も胸の奥で繰り返した。
記憶の部屋にあったのは、あの夏と、あの日の“終わり”だった。
目の前がにじんで、霞んで、でもなつみは泣かなかった。
泣いちゃいけない、そう思った。
“ゆうしゃ”は、泣かないって決めてたから。
けれど、そらたが小さく呟いた。
「……なっちゃん、泣いていいよ」
その声は、とても静かだったけれど、しっかりと、なつみの胸に届いた。
なつみは顔を伏せたまま、かすかに首を横に振る。
「……だめ。泣いたら、お姉ちゃんに、会えなくなっちゃう」
「え……?」
「わたし……ずっと思ってたの。お姉ちゃんの残したもの、見つけられたら、そこに会えるって。……気持ちとか、声とか、想いとか――ぜんぶ、ちゃんと見つけられたら……」
そらたは言葉を失った。
なつみの冒険は、遊びでも気まぐれでもなかった。
心に残る“誰か”に、もう一度手を伸ばすための、旅だったのだ。
「……あのときね、お姉ちゃんが言ったの。“なつみは、ゆうしゃだから。わたしがいなくても、大丈夫だよ”って……」
“ゆうしゃ”――それは、なつみにとって、強がりの別名だった。
ひらがなで綴るその言葉には、どこかあたたかくて、でも少し切ない響きがある。
誰かを守るために、泣くことも笑うことも、ひとりで受け止めてきた――そんな覚悟が込められていた。
そらたは拳を握った。
「……じゃあ、僕が、“魔法使い”として、なっちゃんのとなりにいる」
「え?」
「僕の“まほう”は……なっちゃんの悲しい気持ちを、ちょっとだけ軽くするためにあるんだと思う。なっちゃんが笑えるように、そばでずっと、呪文を唱えるから」
そう言って、そらたはリュックサックから、お手製の“魔法使いのノート”を取り出した。
折り紙とテープで作った装丁の中には、なつみとの冒険の記録が、びっしりと綴られている。
「なっちゃんとの“まおうたいじ”、毎年ノートにまとめてたんだ。……次のページには、この夏の冒険を書こうと思ってる」
「……ばか」
なつみはぽつりとそう言って、涙をにじませながら笑った。
「……そらたって、やっぱり、魔法つかいみたいだね」
その言葉は、かつて交わした“ひみつの約束”のように、ふたりの間にぽたりと落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
新しい家族は保護犬きーちゃん
ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。
過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。
初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。
◇
🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾
🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾
🔶🐶挿絵画像入りです。
🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇♀️
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる