3 / 10
03. 伯爵家には何かある?
しおりを挟む格下の男爵家だからといって、理不尽な扱いに甘んじるつもりはない。
ロゼリエは、もう破談でいいやと割り切った。
「父さま、母さま、帰ろう?」
ところが、勢いよく振り返った先に、両親はいなかった。
両親どころか、お茶を淹れてくれた侍女らもいなくなっている。
つまり、家令と二人きりにされていた。
「うちの両親、どこ行ったの!?」
ぎょっとしながら家令に尋ねると、家令はしれっと
「ご両親は、伯爵の元にご挨拶に」
と答えた。
「はあ!?なんで置いていくの!?私も行かないと失礼じゃない!!」
ロゼリエは慌てたが、家令はロゼリエをなだめながら、
「いえいえ。当主同士で話がしたいとのことで、ご両親だけにお声がかかっておりますので、ロゼリエ様は、どうかそのままで。」
などと言うのだ。
ロゼリエは確信した。
(伯爵家は、何か隠している―――――)
いくら格下相手と言えども、さすがに当事者の挨拶なしは度を越えているというか、もはや不自然と言っていい。
これはもう、ご嫡男は姿を現さないんじゃなくて、現せないんだと考えた方が腑に落ちる。
容姿にコンプレックスがあるとか、顔に傷があるとかの可能性は薄いと思う。だってそれ、嫁に迎える以上は絶対に隠し続けられないことだから、隠しても何にもならない。
では、このお見合いの意味は何だろう。
ロゼリエは、まじまじと家令の顔を窺う。
笑顔を張り付けた家令のカオは、やっぱり胡散臭い。
「私を孤立させて、どうしようと?」
いかに格上といえでも、相手が失礼極まりない対応をとってきたのだ。
こちとら、敬ってやる道理はない。
ロゼリエは、ふてぶてしさ全開で家令に向き直った。
「いやあロゼリエ様、思っていた以上に伯爵家に馴染むのがお早い。期待どおりです。」
家令は、カラカラと愉快そうに笑う。
「どんな期待をかけてくださってるんです?」
「当家の嫡男は、まあ何と言いますか、商会の業務をうまいこと回していける保証がからっきしでございまして。ロゼリエ様には、是非遠慮なく、その界隈でブイブイ言わせちゃっていただきたいのです。」
もっと のらりくらり躱される想定をしていたのだが、思ってたより腹落ちする理由が語られたことに、ロゼリエは少し拍子抜けした。
まあ、はっきり言って、ここの嫡男は使えないと思う。
『極度の人見知り』なんて、商会のトップにあるまじき弱点を堂々と掲げてくるようでは、今後立ち回っていける気がしない。
そこで、小さい商会とはいえ、この年(※17歳)でもう何年も仕切ってきているロゼリエに、そのサポートを期待している、と。
なるほど。
ロゼリエを選んだ理由付けは、一応できている。
「ご嫡男がそうなってしまったのは、伯爵家の責任もありますよね?
そこを嫁に丸投げして、自分たちは知らん顔ですか?
それ、嫁がしくじったときは、嫁の責任にする気満々ですよね?」
ロゼリエがズバンと直球を投げ込むと、家令は、慌てたように弁明する。
「とんでもございません。我々も全力でサポートさせていただきます!」
でも、ロゼリエはそんな曖昧な答えは求めていない。
「じゃあ、あなたは具体的に何をしてくださると?」
ロゼリエが冷静に問いかけると、
「私は、接客スキルだけは相当なものだと自負しております。
厄介なお客様の対応を、丸っと引き受けさせていただきます!」
と、家令はどーんと胸を張った。
なるほどなるほど。
クレーマーの対応が得意だと。
それは商会にとっては重要な役割だ。
何となく、何故コイツが本日、ロゼリエの接待係に抜擢されたのかを悟った。
(この家、絶対、私のこと厄介な客と同類にカテゴリしてるでしょ・・・)
仮にも嫁候補の扱いとして、これはどうなんだ。
何か警戒されてるとしか思えないが、ロゼリエの何が、警戒するにあたるだろうか。
(私が人と違うところ・・・?
あのぽやぽや一家にあっては、ぽやぽやしてないけど・・・)
ロゼリエは、はたと気づく。
今、ロゼリエは、両親と引き離されてる。
これは、ロゼリエが両親と一緒にいると都合が悪い、ということではないだろうか。
つまり、どうこうしたいのは、ロゼリエではなく両親。
男爵家は、ロゼリエ以外は皆、おっとりしていて人が良く、簡単に騙されてしまう。
ただ一人、ロゼリエだけは、そうはいかない。
だから、ロゼリエを物理的に離してしまえば、男爵家なんてチョロい。
(うちの家族の人の良さに付け入ろうとしてる―――――!!)
「うちの両親に何するつもり?何かの押し売り!?」
「いえ、そういうのじゃないですよ?普通の挨拶ですから」
若干退きぎみに家令が呟いたが、ロゼリエはそれどころはない。
「さあ吐け!いますぐ吐け!!」
「と言われましてもねぇ・・・」
ぽやぽや一家にあって、ロゼリエは確かに異分子ではある。
だが、決して家族が嫌いなわけではない。
一緒になってぽやぽやはできないが、間違いなく大切な家族なのだ。
ロゼリエが家令の胸倉を掴んで揺さぶっていたところに、
「あらぁロゼちゃんったら~すっかり仲良しになったのね~?」
という、母ののんびりした声が響いた。
「母さまっ!!なに買わされたの!?それとも保証人とかそういうやつ!?
何かサインとかさせられてない!?」
猛然と詰め寄る娘に全く怯むこともなく、
「サイン?ご挨拶だけよ~? 嫌ねぇロゼったら」
と、母はのほほんと答えた。
「だから言ったじゃないですか・・・」
首をさすりながら、家令はジト目でロゼリエを見る。
「挙動不審なのが悪いのよ。ただでさえ『人見知り』なんて理由にならない理由をゴリ推してくるような人種なんだから、警戒されるのは当然でしょ?」
ロゼリエ、開き直り全開である。
もう破談を視野にとらえているので、何も怖くないし、遠慮もしない。
「警戒されちゃいましたか・・・」
眉をハの字にし、家令は肩を軽くすくめた。
そして、
「でも、ロゼリエ様なら、わかりやすくてとても助かります」
と呟いたのだが、ロゼリエはそれには気づかなかった。
58
あなたにおすすめの小説
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
嘘告されたので、理想の恋人を演じてみました
志熊みゅう
恋愛
私、ブリジットは魔王の遺物である“魔眼”をもって生まれ、人の心を読むことができる。その真っ赤な瞳は国家に重用されると同時に、バケモノと恐れられた。平民の両親に貴族の家に売られ、侯爵令嬢として生きてきた。ある日、騎士科のアルセーヌから校舎裏に呼び出された。
「ブリジット嬢、ずっと前からお慕いしておりました。俺とお付き合いしてください。」
(ああ、変な賭けしなきゃよかった。どうして、俺が魔眼持ちに告らなきゃいけないんだ。)
……なるほど、これは“嘘告”というやつか。
私は魔眼を活かして、学園卒業後は国の諜報員として働くことが決まっている。でもその前に少し、普通の女の子らしいことがしたかった。
「はい、分かりました。アルセーヌ様、お付き合いしましょう。」
そんな退屈しのぎに始めた恋人ごっこが、やがて真実の愛に変わる!?
嘘告から始まる純愛ラブストーリー!
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/11/6)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/11/6)
☆小説家になろうの週間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/11/12)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/11/12)
どうせ愛されない子なので、呪われた婚約者のために命を使ってみようと思います
下菊みこと
恋愛
愛されずに育った少女が、唯一優しくしてくれた婚約者のために自分の命をかけて呪いを解こうとするお話。
ご都合主義のハッピーエンドのSS。
小説家になろう様でも投稿しています。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
おしどり夫婦の茶番
Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。
おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。
一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる