実在しないのかもしれない

真朱

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03. 伯爵家には何かある?

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格下の男爵家だからといって、理不尽な扱いに甘んじるつもりはない。
ロゼリエは、もう破談でいいやと割り切った。

「父さま、母さま、帰ろう?」

ところが、勢いよく振り返った先に、両親はいなかった。
両親どころか、お茶を淹れてくれた侍女らもいなくなっている。
つまり、家令コイツと二人きりにされていた。

「うちの両親、どこ行ったの!?」
ぎょっとしながら家令に尋ねると、家令はしれっと
「ご両親は、伯爵の元にご挨拶に」
と答えた。

「はあ!?なんで置いていくの!?私も行かないと失礼じゃない!!」
ロゼリエは慌てたが、家令はロゼリエをなだめながら、

「いえいえ。当主同士で話がしたいとのことで、ご両親だけにお声がかかっておりますので、ロゼリエ様は、どうかそのままで。」
などと言うのだ。

ロゼリエは確信した。


(伯爵家は、何か隠している―――――)


いくら格下相手と言えども、さすがに当事者の挨拶なしは度を越えているというか、もはや不自然と言っていい。

これはもう、ご嫡男は姿を現ないんじゃなくて、現ないんだと考えた方が腑に落ちる。

容姿にコンプレックスがあるとか、顔に傷があるとかの可能性は薄いと思う。だってそれ、嫁に迎える以上は絶対に隠し続けられないことだから、隠しても何にもならない。

では、このお見合いの意味は何だろう。

ロゼリエは、まじまじと家令の顔を窺う。
笑顔を張り付けた家令のカオは、やっぱり胡散臭い。

「私を孤立させて、どうしようと?」

いかに格上といえでも、相手が失礼極まりない対応をとってきたのだ。
こちとら、敬ってやる道理はない。
ロゼリエは、ふてぶてしさ全開で家令に向き直った。

「いやあロゼリエ様、思っていた以上に伯爵家に馴染むのがお早い。期待どおりです。」

家令は、カラカラと愉快そうに笑う。

「どんな期待をかけてくださってるんです?」
「当家の嫡男は、まあ何と言いますか、商会の業務をうまいこと回していける保証がからっきしでございまして。ロゼリエ様には、是非遠慮なく、その界隈でブイブイ言わせちゃっていただきたいのです。」

もっと のらりくらり躱される想定をしていたのだが、思ってたより腹落ちする理由が語られたことに、ロゼリエは少し拍子抜けした。


まあ、はっきり言って、ここの嫡男は使えないと思う。
『極度の人見知り』なんて、商会のトップにあるまじき弱点を堂々と掲げてくるようでは、今後立ち回っていける気がしない。

そこで、小さい商会とはいえ、この年(※17歳)でもう何年も仕切ってきているロゼリエに、そのサポートを期待している、と。

なるほど。
ロゼリエを選んだ理由付けは、一応できている。

「ご嫡男がそうなってしまったのは、伯爵家の責任もありますよね?
 そこを嫁に丸投げして、自分たちは知らん顔ですか?
 それ、嫁がしくじったときは、嫁の責任にする気満々ですよね?」

ロゼリエがズバンと直球を投げ込むと、家令は、慌てたように弁明する。
「とんでもございません。我々も全力でサポートさせていただきます!」

でも、ロゼリエはそんな曖昧な答えは求めていない。
「じゃあ、あなたは具体的に何をしてくださると?」

ロゼリエが冷静に問いかけると、
「私は、接客スキルだけは相当なものだと自負しております。
 厄介なお客様の対応を、丸っと引き受けさせていただきます!」
と、家令はどーんと胸を張った。

なるほどなるほど。
クレーマーの対応が得意だと。
それは商会にとっては重要な役割だ。

何となく、何故コイツが本日、ロゼリエの接待係に抜擢されたのかを悟った。

(この家、絶対、私のこと厄介な客クレーマーと同類にカテゴリしてるでしょ・・・)

仮にも嫁候補の扱いとして、これはどうなんだ。
何か警戒されてるとしか思えないが、ロゼリエの何が、警戒するにあたるだろうか。

(私が人と違うところ・・・?
 あのぽやぽや一家にあっては、ぽやぽやしてないけど・・・)

ロゼリエは、はたと気づく。

今、ロゼリエは、両親と引き離されてる。
これは、ロゼリエが両親と一緒にいると都合が悪い、ということではないだろうか。
つまり、どうこうしたいのは、ロゼリエではなく両親。

男爵家は、ロゼリエ以外は皆、おっとりしていて人が良く、簡単に騙されてしまう。
ただ一人、ロゼリエだけは、そうはいかない。
だから、ロゼリエを物理的に離してしまえば、男爵家なんてチョロい。


(うちの家族の人の良さに付け入ろうとしてる―――――!!)


「うちの両親に何するつもり?何かの押し売り!?」
「いえ、そういうのじゃないですよ?普通の挨拶ですから」

若干退きぎみに家令が呟いたが、ロゼリエはそれどころはない。

「さあ吐け!いますぐ吐け!!」
「と言われましてもねぇ・・・」

ぽやぽや一家にあって、ロゼリエは確かに異分子ではある。
だが、決して家族が嫌いなわけではない。
一緒になってぽやぽやはできないが、間違いなく大切な家族なのだ。

ロゼリエが家令の胸倉を掴んで揺さぶっていたところに、
「あらぁロゼちゃんったら~すっかり仲良しになったのね~?」
という、母ののんびりした声が響いた。

「母さまっ!!なに買わされたの!?それとも保証人とかそういうやつ!?
 何かサインとかさせられてない!?」

猛然と詰め寄る娘に全く怯むこともなく、
「サイン?ご挨拶だけよ~? 嫌ねぇロゼったら」
と、母はのほほんと答えた。

「だから言ったじゃないですか・・・」
首をさすりながら、家令はジト目でロゼリエを見る。

「挙動不審なのが悪いのよ。ただでさえ『人見知り』なんて理由にならない理由をゴリ推してくるような人種なんだから、警戒されるのは当然でしょ?」

ロゼリエ、開き直り全開である。
もう破談を視野にとらえているので、何も怖くないし、遠慮もしない。

「警戒されちゃいましたか・・・」
眉をハの字にし、家令は肩を軽くすくめた。

そして、

「でも、ロゼリエ様なら、わかりやすくてとても助かります」

と呟いたのだが、ロゼリエはそれには気づかなかった。


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