実在しないのかもしれない

真朱

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02. 相手不在のお見合い

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ロゼリエは、渾身の『お手頃コーディネイト』を作り上げ、伯爵家のご招待に乗り込もうとしていた。

わざわざ、たいして名もない男爵家の商会に声をかけてくるのだ。
下位貴族や裕福な平民向けの商売とはどんなもんかを知りたいに違いない。

間違っても、ろくに関わったこともない上位貴族を想定した商品なんてかじってはいけない。ここは、身の程を弁えるのが絶対に正解なのだ。

伯爵家に向かう馬車の中で、ロゼリエが自己満足に浸っていると、父が爆弾を投下してきた。

「ロゼ、値段を考えるとよくできてると思うし、似合ってもいるんだけど、お見合いとしては、そのドレスはどうなんだろう?」

「―――――は?」

ロゼリエは固まった。

「お・・・見合い?」
驚きのあまり動きがぎこちなくなるロゼリエを横目に、
「そうよ~?ママ、この間言ったじゃないの~」
と、今日も母は、のんびりと答える。

「私が?嘘でしょ?どういうこと?誰と?」

早口で次々と疑問を投げかけるロゼリエに、母は、のんびりとしたテンポで、重要じゃない方から答える。

「そうよ~。嘘じゃないのよ、ほんとのお話なのよ~。
 ロゼご指名だって、ちゃんと言ったじゃないの~。あのね・・・」

そこで馬車が止まった。
伯爵家に到着したらしい。

「思ってたより近いわねえ。あら、お出迎えしてくださってるわ~」
「いや、一番聞きたかったところ聞けてないし!!」

両親は動きものんびりなので、ここで時間をくっていたら、伯爵家の方々を相当お待たせすることになってしまう。

ロゼリエは、両親からあれこれ聞き出すことを諦めた。
もとはと言えば、母が何か言ってたのを流してしまった自分が悪いのだ。
こうなったら、その場の勢いで乗り切るしかない。

かくして、お見合いらしいものの幕は切って落とされた。


のだが。


執事?家令?侍従?何にあたるかよくわからない男性に案内された中庭に、お見合い相手の姿はなかった。

ちょっとひっかかるものを感じながらも、日当たりの良い中庭の中心にセッティングされているテーブルに向かい、促されるがまま椅子に座る。

すぐさま用意される、お茶やお菓子。

「あのー・・・伯爵家の皆様がいらっしゃるまで、待ちますよ?」

ロゼリエが、お茶を用意してくれている侍女に話しかけると、ロゼリエの椅子を引いてくれた家令(仮)が、申し訳なさそうに口を開いた。

「大変申し訳ございません。その・・・少々お時間をいただくことになりそうでして・・・」
「何かトラブルですか?」
「ええ。まあ。」

?)

なんだろう。この胡散臭いカンジ。

「トラブルでしたら、私どもがいるだけでもご負担になりましょうし、改めての機会にとさせていただきたいと思いますが、いかがでしょう?」

ロゼリエは、父に相談することもなく、自己判断で解散を促した。

「いえいえいえ滅相もございません!
 お時間の許す限り、おもてなしさせていただきますので、
 是非お楽しみいただきたく!」

ところが、家令(仮)は、必死に引き留めた。

「でも、ご当人どころか伯爵様にもお会いできないかもしれないのですよね?
 トラブルは仕方がありません。日を改めるべきです。」

ロゼリエは、先ほどよりも強い表現を用いて、解散を促した。
いや、要求した。

そもそもロゼリエは今日、お見合いのつもりで来ていない。
心の準備もできていないし、正直、仕切り直してもらった方が有難い。

向こうも立て込んでいるというのなら、是非とも、本日のところはナシということで。
何ならもう、ご縁がなかった、ということで。

ロゼリエが逃げ切りをかけようとしていることを察知したのか、
家令(仮)が、渋々と言ったカンジで口を開いた。

「日を改めましても、その・・・。保証ができかねまして・・・」

思ってもみなかった家令(仮)の言葉に、ロゼリエはぽかんとした。

「えーと・・・どういうことでしょう?」

口元をひくつかせながら、ロゼリエは何とか口を開く。
家令(仮)は、気まずそうに視線を逸らせながらも、観念したように語り始めた。

「当家の嫡男は・・・その何と言いますか・・・大変な人見知りでございまして・・・」
「はあ。」
「自分を見せることに、大変時間がかかると言いますか・・・」
「はあ。」
「ですからロゼリエ様には、まず、伯爵家に馴染んでいただきたいのです。」

いや、意味がわからない。

顔を見せることすらも難しいなら、何故『お見合い』なんて形式にしたのだ。
そもそも、相手に会わない『お見合い』って何だ。それはもう体すら成していない。

それ以前に、人見知りだろうが何だろうが、これは有り得ない。
いくら何でも、挨拶にすら姿を現さないなんて、失礼にもほどがある。
ロゼリエの家が格下の男爵家だからと言って、許されることではない。

(ナメるのも大概にして欲しいものね・・・)

何を考えているのかは、わからない。
ただ、男爵家がナメられていることだけは、よ~くわかる。

だいたいコイツ(※家令(仮)のこと。もうコイツで十分。)も、『申し訳なさそうに振舞ってんだから許すに決まってるよね?』みたいな空気がほとばしっていて、ヒジョーにムカつく。

「・・・ところで、あなたは?家令の方ですか?」

(仮)がウザくなってきたので、一応聞いておく。

すると家令(仮)は、何かの噂でうっすら聞いたことがある『ナニワの商人あきんど』みたいな胡散臭さてんこ盛りで、ロゼリエの方に向き直った。

「これは大変失礼いたしました。ワタクシ商会を担当しておりまして、正式には家令ではございませんが、ええもうそう呼んでいただいて結構でございます。ワタクシのことは家令と!!」

(名乗れや―――――!!)

ロゼリエの忍耐は、風前の灯であった。

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