実在しないのかもしれない

真朱

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04. 嫡男は存在しない説

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結局お見合いは、見合う相手もいないまま終了した。

もう会うこともないと思っていたロゼリエだったが、普通に次の日取りが組まれていて、またロゼリエは伯爵家を訪問する羽目になった。

しかも今後は、両親は同行せず、一人で軽装で来ていいとのこと。

(・・・あやしい。)

ロゼリエを男爵家から引き剥がしておいて、その隙に男爵家か ぽやぽや商会に、何かするつもりなのだろうか。

そうでないなら、会いもしないのに呼びつける意味がわからない。

『伯爵家に馴染んで欲しい』とか言ってたけど、伯爵家の仕事を教えてもらえるわけでもないのに、何に馴染めというんだ。
もう、その建前からして不自然としか感じない。

(絶対、何か裏がある。)

どうせもう、ロゼリエがしおらしいお嬢様じゃないことも、伯爵家を警戒してかかってることもバレている。
何も取り繕う必要はない。

ロゼリエは正面きって、伯爵家の思惑に立ち向かうことにした。


本日のお出迎えも、例のナメくさった家令である。

「今日も私の話相手はクレーマー担当かい。」
「クレーマー担当?あ、ワタクシのことですか?」
「で、お坊ちゃまは、歩み寄ってくれる気になったの?」

挨拶もそこそこに、さっそくジャブをいれてみる。

「いや~極度の人見知りというのは、そうそう簡単にはですねえ」

『人見知り』って、そんなパワーワードじゃないと思うのだが、いつまでも その理由で押し通すつもりなんだろうか。

「その気はないってことね?」
「えーと・・・まあとりあえず、お茶でもシバきましょうか。」
「誤魔化せてないけど?」
「あっはっはっ」

(いや、無理が過ぎるってもんでしょう。)

まあ、そこは初めから期待してなかったので、別にいい。
それよりも、相手の情報を少しでも引き出しておこうと、考えを切り替える。

「じゃあ、とりあえず年齢とかなら聞いてもいい?」
「え、なぜ年齢を?」

『え』って。
たかが年齢にひっかかりを覚えるとは想定外だった。

「別に深い意味はないけど・・・」
ロゼリエが不思議に思いながら答えると、家令は、
「年齢を理由に縁談を断わるおつもりでも?」
と、神妙な面持ちで問いかけてきた。

「え、会話の掴みとして、ど定番でしょ?」
若干あっけにとられながらロゼリエは答えたが、家令は、
「いえ、ロゼリエ様は裏がありそうです。年齢はご想像にお任せいたします。」
と言った。

(いやいやいや。だって年齢だよ?
 お見合い相手の年齢聞いただけで、何で警戒されなきゃならないの?
 そもそも、断られたくないなら、まずは顔を見せろ。)

何か腑におちないものの、そこはまあ気を取り直して、質問を変えてみる。

「じゃあ名前!名前聞き忘れちゃってた!
 いつ自己紹介してもらえるかわからないから、ご嫡男の名前教えて!」
「え、名前にお好みがございますんで?」
「は?」

名前を聞いただけで、何故か家令は、過剰反応を返してくる。
なんだそれ。名前の何処に警戒する要素があるというのか。

「名前が好みじゃないなどと仰られたら、ワタクシ責任の取りようもありませんので、ご容赦ください!」
「はあ??」

―――――これは一体、なんの茶番なのか。

親からちゃんと聞いていないロゼリエも悪いとは思うが、
お見合い相手の名前や年齢なんて、
事前情報として普通に、あたりまえに、相手方に知らされているもののはずだ。

なぜそんな公開情報を、口にしたがらないのか。

(え、おかしくない? 絶対おかしいよね?」

何か色々腑におちないと言うか、もう何なんだこの家は。

「じゃあ、何なら聞いてもいいの?」

ロゼリエが若干キレぎみに問いかけてみると、家令は、
「ワタクシにお答えできることでしたら、何でも結構ですよ?」
と、本日ひとつもマトモに答えてないクセに言いやがる。

(コイツ、全部『私には答えられない』って返すつもりだな?)

ロゼリエは真理に辿り着いた。

そもそも、何で答えたがらないのか。
コイツが答えなくても、他の人に訊かれたらわかることなのに。

でも、ちょっと待て。
今日は、お出迎えからお茶の用意まで、全て家令ひとりがやっていて、そういえば侍女すら見かけていない。

ロゼリエに、家令以外の人間に接触してほしくないようにも感じる。

(え、私が他の人に質問しないようにしてるの・・・?)

質問されて、何が困るのかを考えてみると、
『色々訊かれているうちに、矛盾が生じるのを防ぎたい』あたりが順当だと思われた。

お仕えしている家の、ご嫡男のことなのに?
答えに矛盾が生じるってどういうこと??
矛盾が生じるってことは、そこには嘘が含まれてるってことで、
つまり・・・―――――?

そこでロゼリエは、ひとつの可能性に行き当たった。

(・・・ご嫡男って・・・もしかして存在そのものが嘘なの・・・?)


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