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05. お坊ちゃんの正体は
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本当に嫁に迎えるつもりがあるのならば、いずれ絶対にわかることを隠す意味は薄い。
とどのつまり、伯爵家は、ロゼリエを嫁に迎える気がない。
だから、伯爵様への挨拶も、ご嫡男との顔合わせも、要はどうでもいい。
初めから会わない前提であれば、そもそもご嫡男は、いてもいなくても関係ない。
偽物でも替え玉でも、それこそ でっちあげの存在でも、匂わせられれば何でもいいことになる。
袖にされたことを後からぎゃいぎゃい言われないように、あらかじめロゼリエの両親には、何らかの釘を刺そうとしている。もしくは既に刺された。
きっと、そのために、人の良いロゼリエの両親が選ばれたのだ。
何を企んでるのかは まだわからないが、その企みが達成されるまでの間、
唯一ぽやぽやしていないロゼリエを監視もしくは隔離する目的で、
会う気もないのに、こうして伯爵家に呼び出しているという線が強い。
もう、そうとしか思えない。
「証明しなさいよ・・・」
「はい?」
聞こえなかったのか、意味が理解できなかったのかはわからないが、とぼけた声を出す家令に、ロゼリエはとうとうキレた。
「いないんでしょ?ほんとはお坊ちゃん存在しないんでしょ!?」
「はいい?何をおっしゃいますか。いますって!」
「いるんなら出せや!」
存在そのものを疑ってかかっているという こちらの腹の内を開示したのにも関わらず、姿を見せないのであれば、これはもう『お坊ちゃんは存在しない』で確定だろう。
本日もロゼリエが胸倉を狙いにかかっているのを察知した家令は、ひょいひょいと身をかわしながらも、
「いやあ。ロゼリエ様は本当に、我が伯爵家に馴染むのがお早い。」
と、堪えきれなかったらしい笑みを零した。
「馴染んでなぞいないわ!」
ロゼリエはまだ胸倉を狙い続けてはいたが、家令が思いのほか楽しそうに笑うので、少し毒気が抜かれてしまった。
「あんた、胡散臭さ満載だけど、クレーマー対応が上手いのは認めるわ」
この家令は、飄々としていて掴みどころがない。
きっと、のらりくらり敵の戦意を削いでいって、最後はうまいこと丸め込むのだろう。
「ご評価いただけて光栄です」
そう言って、家令はいっそ清々しい笑みを浮かべた。
「でも誤魔化されないけどね!」
その隙に胸倉を掴んだロゼリエに、家令は、一瞬キョトンとした後、爆笑した。
「いやロゼリエ様、今の流れは、胸倉には繋がらないですよ?」
さっきから何が楽しいのかわからないが、ケラケラと笑い続ける家令を、ロゼリエは少し不思議に思いつつ眺めていたのだが、ふと家令が、
「あ、今あそこにチラっとお姿が。」
と言いながら、2階の窓にすいっと指を向けた。
ロゼリエが視線を向けると、遠くてはっきりはしなかったが、2階の奥から2番目の部屋のカーテンの影に、人影らしきものが さっと消えたのが確認できた。
なるほど。
確かに、あそこには誰かいて、こちらの様子を窺っていたらしい。
それがダミーだとしても、最低限、仕込みくらいはしているらしい。
ではまずは、正体を見極めるところから着手しよう。
ロゼリエは『お花摘みに行く』という名目で伯爵家のお屋敷内に入ると、一目散に2階に駆け上がり、奥から2番目の部屋の扉を、ノックもせずに開けた。
「お坊ちゃんはここか―――――!!」
「っっ!??」
突然ばーんと開け放たれた扉と、大声をあげ立ちふさがる謎の女に、室内にいた人物は、びくっと肩を震わせた。
カーテンにしがみつくその人は―――――
「・・・お坊・・・ちゃん・・・?」
「っ、はっ・・・ははは、はいっ・・・!」
そこには、10歳に満たないと思しき少年がいた。
(・・・あー・・・)
何だか妙に納得できてしまった。
極度の人見知りを、堂々と理由にあげることも。
年齢への質問に過剰に反応したことも。
そして、何かを隠しているくさい伯爵家の態度も。
つまり、そういうことなのだ。
若すぎるのだ。
まだ年若く頼りない、人見知りのご嫡男。
今後、心身ともに成長していくだろうが、もし万が一改善されなかったときを考えると、嫁で保険をかけておきたい。
今なら、男爵家に、正に適任と思われる候補がいる。
でも、ちょーっと年が違いすぎる。
お互いに不安にもなるだろうし、年齢差を理由に断られる可能性だってある。
初っ端からちゃんとした顔合わせは難しいと考えたのだろう。
だから、伯爵家に馴染め、とか、変な表現になったのだ。
何度か伯爵家に通ううちに、少しずつ顔馴染みになって、話とかするようになって、お互いに不快に思わないくらいの関係性になってから、きちんと将来を見据えた『お見合い』をしたかった、と、そういうことなんだろう。
「・・・伯爵家のお坊ちゃん、で、いいんだよね・・・?」
「っは、はい!はじめっましてっ!」
「あー・・・はじめまして。私、男爵家のロゼリエと申します」
「よ、よろしくお願いしますっ あの、僕っ・・・」
おそらくお坊ちゃんが名乗ろうとした、そのとき、
「ロゼリエ様、何してるんですか―――――っ」
家令が駆け込んで来て、ロゼリエはお坊ちゃんから引き剝がされた上、部屋から摘まみ出されたのだった。
とどのつまり、伯爵家は、ロゼリエを嫁に迎える気がない。
だから、伯爵様への挨拶も、ご嫡男との顔合わせも、要はどうでもいい。
初めから会わない前提であれば、そもそもご嫡男は、いてもいなくても関係ない。
偽物でも替え玉でも、それこそ でっちあげの存在でも、匂わせられれば何でもいいことになる。
袖にされたことを後からぎゃいぎゃい言われないように、あらかじめロゼリエの両親には、何らかの釘を刺そうとしている。もしくは既に刺された。
きっと、そのために、人の良いロゼリエの両親が選ばれたのだ。
何を企んでるのかは まだわからないが、その企みが達成されるまでの間、
唯一ぽやぽやしていないロゼリエを監視もしくは隔離する目的で、
会う気もないのに、こうして伯爵家に呼び出しているという線が強い。
もう、そうとしか思えない。
「証明しなさいよ・・・」
「はい?」
聞こえなかったのか、意味が理解できなかったのかはわからないが、とぼけた声を出す家令に、ロゼリエはとうとうキレた。
「いないんでしょ?ほんとはお坊ちゃん存在しないんでしょ!?」
「はいい?何をおっしゃいますか。いますって!」
「いるんなら出せや!」
存在そのものを疑ってかかっているという こちらの腹の内を開示したのにも関わらず、姿を見せないのであれば、これはもう『お坊ちゃんは存在しない』で確定だろう。
本日もロゼリエが胸倉を狙いにかかっているのを察知した家令は、ひょいひょいと身をかわしながらも、
「いやあ。ロゼリエ様は本当に、我が伯爵家に馴染むのがお早い。」
と、堪えきれなかったらしい笑みを零した。
「馴染んでなぞいないわ!」
ロゼリエはまだ胸倉を狙い続けてはいたが、家令が思いのほか楽しそうに笑うので、少し毒気が抜かれてしまった。
「あんた、胡散臭さ満載だけど、クレーマー対応が上手いのは認めるわ」
この家令は、飄々としていて掴みどころがない。
きっと、のらりくらり敵の戦意を削いでいって、最後はうまいこと丸め込むのだろう。
「ご評価いただけて光栄です」
そう言って、家令はいっそ清々しい笑みを浮かべた。
「でも誤魔化されないけどね!」
その隙に胸倉を掴んだロゼリエに、家令は、一瞬キョトンとした後、爆笑した。
「いやロゼリエ様、今の流れは、胸倉には繋がらないですよ?」
さっきから何が楽しいのかわからないが、ケラケラと笑い続ける家令を、ロゼリエは少し不思議に思いつつ眺めていたのだが、ふと家令が、
「あ、今あそこにチラっとお姿が。」
と言いながら、2階の窓にすいっと指を向けた。
ロゼリエが視線を向けると、遠くてはっきりはしなかったが、2階の奥から2番目の部屋のカーテンの影に、人影らしきものが さっと消えたのが確認できた。
なるほど。
確かに、あそこには誰かいて、こちらの様子を窺っていたらしい。
それがダミーだとしても、最低限、仕込みくらいはしているらしい。
ではまずは、正体を見極めるところから着手しよう。
ロゼリエは『お花摘みに行く』という名目で伯爵家のお屋敷内に入ると、一目散に2階に駆け上がり、奥から2番目の部屋の扉を、ノックもせずに開けた。
「お坊ちゃんはここか―――――!!」
「っっ!??」
突然ばーんと開け放たれた扉と、大声をあげ立ちふさがる謎の女に、室内にいた人物は、びくっと肩を震わせた。
カーテンにしがみつくその人は―――――
「・・・お坊・・・ちゃん・・・?」
「っ、はっ・・・ははは、はいっ・・・!」
そこには、10歳に満たないと思しき少年がいた。
(・・・あー・・・)
何だか妙に納得できてしまった。
極度の人見知りを、堂々と理由にあげることも。
年齢への質問に過剰に反応したことも。
そして、何かを隠しているくさい伯爵家の態度も。
つまり、そういうことなのだ。
若すぎるのだ。
まだ年若く頼りない、人見知りのご嫡男。
今後、心身ともに成長していくだろうが、もし万が一改善されなかったときを考えると、嫁で保険をかけておきたい。
今なら、男爵家に、正に適任と思われる候補がいる。
でも、ちょーっと年が違いすぎる。
お互いに不安にもなるだろうし、年齢差を理由に断られる可能性だってある。
初っ端からちゃんとした顔合わせは難しいと考えたのだろう。
だから、伯爵家に馴染め、とか、変な表現になったのだ。
何度か伯爵家に通ううちに、少しずつ顔馴染みになって、話とかするようになって、お互いに不快に思わないくらいの関係性になってから、きちんと将来を見据えた『お見合い』をしたかった、と、そういうことなんだろう。
「・・・伯爵家のお坊ちゃん、で、いいんだよね・・・?」
「っは、はい!はじめっましてっ!」
「あー・・・はじめまして。私、男爵家のロゼリエと申します」
「よ、よろしくお願いしますっ あの、僕っ・・・」
おそらくお坊ちゃんが名乗ろうとした、そのとき、
「ロゼリエ様、何してるんですか―――――っ」
家令が駆け込んで来て、ロゼリエはお坊ちゃんから引き剝がされた上、部屋から摘まみ出されたのだった。
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