実在しないのかもしれない

真朱

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06. 家令の豹変

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お坊ちゃん、緊張しまくって どもりにどもってはいたけれども、ちゃんと名乗ろうとしていた。年齢的にも改善の余地は十分あるではないか。

それなのに大人のいらんおせっかいで、だいぶ年上の、家柄の低い、気の強い嫁を取らされるなんて、あまりにも可哀そうなんでないの?

要するに、お坊ちゃんが独り立ちする年齢までに、人見知りを克服できていれば問題ない。
望まぬ嫁とりも必要なくなるのだ。

「よし。私が鍛えよう。」

ロゼリエは勝手に、お坊ちゃんの育成に乗り出すことを決めた。

その方が、伯爵家にとっても有益なはずだ。
だって、ご当主と挨拶すらさせてもらえてないのだから、本当は伯爵家だって、ロゼリエを嫁になんて迎えたくないはずなのだ。

家と子供の将来を考え、苦渋の決断をしただけであって、回避できるのなら回避したいはず。

『それなら お坊ちゃんを矯正する方向に精を出せよ』と言いたいところだが、
たぶん、何かしらやってみて、明るい見通しが立てられなかったんだろう。

でもロゼリエは、やるだけやってみるつもりでいる。
視点が変わっただけであっさり解決策が見つかる、なんてことも意外とある。
伯爵家の常識ではどうにもならなかったことも、男爵家の、ロゼリエの常識なら、何とかなるかもしれない。


「ロゼリエ様、どうぞこちらへ」

家令に案内され、いつもの中庭に通される。
そこには今日も、お坊ちゃんの姿はない。

「お坊ちゃんは?」
「はい?」

家令は、キョトンと不思議そうにロゼリエを見る。

「強行突入とはいえ、こないだ顔は合わせたわけでしょ?
 だからもう隠れてないでいいんじゃないかと思うんだけど。」

何を言われているのかわからないという風だった家令が、徐々に顔を曇らせていく。

「・・・ロゼリエ様、もしかして小僧のことを言ってます・・・?」

「・・・・・・こ・・・ぞう・・・?」
ロゼリエはぎょっとした。

だって、仕えている家のご子息である。
敬ってしかるべき相手に対して、家令が『小僧』呼ばわりしたのである。

「いや、あんた大丈夫・・・?そんなこと言ったらヤバくない・・・?」

恐る恐る言葉を紡ぐロゼリエに、家令は、
「平気で胸倉掴んでくるロゼリエ様に、言われたくありません。」
と、きっぱり言いきった。

「あ、うん、まあ、そこについては面目ない・・・」

いや、でも、ロゼリエが胸倉掴んだのは家令だけなので、家令の出自が子爵家あたり(の嫡男以外)の可能性はあるとはいえ、傷は深くはないと思うが、家令は自分が仕えている家のことではないか。
そっくり自分に跳ね返ってくるに決まっている。

「ロゼリエ様は・・・年齢は気にならないのですか?」

ぼそりと家令が呟いたのを、ロゼリエは辛うじて聞き取った。

「あー・・・まあ私はどうでも良くて、
 それよりも、あまりに姉さん女房じゃ、お坊ちゃんが可哀そうだと思うわけで」

正直な感想をロゼリエは述べたのだが、
家令は何故か不機嫌そうに、ずいと顔を寄せてきた。

「ロゼリエ様的には、小僧は許容範囲ということですか?」
「いや、『小僧』はやめよう?聞いてる方が不安になってくるから」

ロゼリエにしてみたら、とりあえずは何よりも、家令のこの無礼な発言の方が気になってしまう。

「ちゃんと答えてください。小僧は守備範囲なんですね?」
「あんた自分はちゃんと答えないくせに、なに怒ってんの?」
「いいですから!」

今日は何だか、いつもの飄々とした雰囲気が消えていて、ロゼリエは少し怯んだ。

「えーと、お坊ちゃんの年齢は、5~6年たてば気にならなくなるんじゃない?」

今のあの10歳未満は、さすがにちょっと犯罪臭漂ってしまうが、
それなりに大きくなれば、年齢差は別にどうでもいい気がする。
ので、一応そう返答してみたのだが、

「ちっ・・・小僧め・・・」
家令は舌打ちをかましてきたのだった。

「だから、あんたね・・・」

自分がお仕えする家の、ご子息のことなのに。
こちらは難色を示したわけじゃないんだから喜ぶべきだろうに、何考えてんだコイツ。

「で、お坊ちゃん・・・」
「小僧には会わせません。」

食い気味に、家令に拒否される。

「別に変なこと考えてるわけじゃなくて、私はただ、お坊ちゃんの人見知り克服のお手伝いを・・・」
「要りません。ヤツが勝手に一人で克服すればいいんです。」

平気で見捨てるような発言をかます家令。
あれ、コイツ、こんなだったっけ・・・?

「ちょっとあんた、どうしたの?」

さすがにちょっと心配になってきてしまい、恐る恐る表情を窺う。
いつもは陽気な掴みどころのないカンジなのに、今日は憮然とした表情を隠そうともしていない。

「どうしたもこうしたもありませんよ。ロゼリエ様が胸倉掴むのがお好きなようなので、ワタクシ、いつでも受けてたてるように、首の強化に乗り出したんですよ?」
「え、なにやってんの??」

急にアホなことを言いだすので、ついツッコんでしまった。
ちがう。今はそうじゃない。

「そんな健気な私を差し置いて、あんな小僧ばっかり構うなんて、どういうことです?」
「だってそれが本来の・・・」
「ロゼリエ様は、小僧の相手なんてしなくていいので、私に構ってください。」

そう、真顔で家令は言い放った。


(・・・なんだこれ???)


今日のヤツはおかしい。
このままだと、どんどん変な方向に転がっていく気がする。

仕切り直す必要性を感じたロゼリエは、一目散に伯爵家の2階に向かって走り出した。


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