7 / 10
07. 伯爵家の内幕
しおりを挟む
ロゼリエは、2階の奥から2番目の部屋に脇目も触れずに猛ダッシュすると、有無を言わせず室内に突入し、後ろ手にドアを閉めた。
「ごめんお坊ちゃん、匿って!」
本を読んでいたらしいお坊ちゃんが、ぎょっとしたように顔をあげた。
「えっ、は? ろ、ロゼリエ様??」
後ろから、バタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえる。
もうそこまで来ている。
全体重をかけて、ドアが開かないように阻止しながら、お坊ちゃんに助けを求める。
「家令のヤツ、なんか暴走しちゃってるのよ」
「か・・・家令??」
お坊ちゃんが、ぽかんとしたカオを向ける。
あ、そういえば、アイツ本当は家令じゃないって言ってた。
・・・じゃあ何なんだ??
「てめえ小僧!ここ開けろ!」
お坊ちゃんの部屋の前に到着した家令は、ボッコボコにドアを叩く。
(うわあ!本人を前に『小僧』言っちゃってるし!!)
しかもドアの叩き方が、もう何かおかしい。
『どがあっ』とか、そんな音がしている。
「だめだめだめお坊ちゃん開けちゃだめ!あいつ今日なんかおかしい!」
だいぶ年下の子供に頼って大変申し訳ないとは思うが、もう半分縋るように、お坊ちゃんに頼み込む。
そんなロゼリエを気の毒そうに見つめながら、
「・・・すみませんロゼリエ様・・・うちは大体いつもこんなかんじです・・・」
と、お坊ちゃんは言った。
「え、こっちが素ってこと?」
思わず呆気にとられるロゼリエに、お坊ちゃんは
「はい・・・もし我が伯爵家に入っていただけるのでしたら、これには慣れていただくしか・・・」
と、恐縮するのだった。
そして、
「ロゼリエ様は、もうあの姿を引き出されたんですね・・・
何事にも物怖じしなさそうに見えて、
なかなか自分を表に出せない人なんですけど・・・」
と、少し感心したように付け加えた。
「マジか―――――・・・」
思わず力が抜けそうになるロゼリエの耳に、
「開けろっつってんのが聞こえねぇのかこのクソガキが!
今すぐ開けねぇなら顧客名簿丸暗記の刑に処すぞゴラぁ―――――!!」
という、なんかもう人が変わったとしか思えない家令の声が響き、
ロゼリエは再び、必死にドアを押さえ直した。
それを見ていたお坊ちゃんが、
「あのう・・・少し落ち着きましょう・・・?
ロゼリエ様びっくりしちゃって、出るに出られないですよ・・・?」
と、家令を宥めようと声をかけてくれるではないか。
ロゼリエは、ちょっとわかった気がした。
お坊ちゃんは人見知りなのではなく、周りの人間がパワフルすぎて萎縮してしまうだけなんじゃなかろうか。
前回は前触れもなく突撃したせいでロゼリエも萎縮させてしまったが、今日なんかもう既に心得ていて、びくびくする様子もなく会話してくれているではないか。
甘ったれ坊主だとばかり思っていたお坊ちゃんの印象がだいぶ変わった。
・・・同時に、家令の印象もだいぶ変わったが。
「このガキんちょが!いつの間にロゼリエ様に取り入りやがった!?
どんな手使いやがった! 若さか!若さなのか―――――!!」
ドアの向こうでは、家令が吠えに吠えまくっている。
「お坊ちゃん・・・若いのに苦労するね・・・」
思わずロゼリエが同情すると、お坊ちゃんは苦笑しながら、
「そうですね・・・うちは親からしてちょっと変わってますので・・・
大変申し訳ありません・・・ 」
と、なんだか遠い目をして呟いた。
何かあると思っていた伯爵家だが、
思っていたより残念な方向に転がっている気がした。
「ところで、コレどうしようかな・・・」
どごんばごん音をたてながら、お坊ちゃんの部屋のドアを攻撃し続ける家令。
おそらくお坊ちゃんは、この家の中では話が通じる部類に入るんだろうな、と、何だか悟ってしまったロゼリエは、今後のことも鑑みて、お坊ちゃんのフォローに乗り出してみる。
「あのさ家令? お坊ちゃん、結構やれる子だと思うよ?
ここはひとつ、家令も協力して、お坊ちゃんを一人前に育て上げよう?」
しかし、それにより更に、家令は激高した。
「幼気アピールで、ロゼリエ様をたらしこみやがって!
表に出ろや小僧!! その腐った性根を叩き直してやる!!」
ロゼリエが唖然とする中、お坊ちゃんは慣れた様子で、
「あ―――――・・・はい。わかりました。」
と了承すると、すんなりと扉を開け、
荒ぶる家令に怯える様子もなく、大人しく後に付いて行くのだった。
「ごめんお坊ちゃん、匿って!」
本を読んでいたらしいお坊ちゃんが、ぎょっとしたように顔をあげた。
「えっ、は? ろ、ロゼリエ様??」
後ろから、バタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえる。
もうそこまで来ている。
全体重をかけて、ドアが開かないように阻止しながら、お坊ちゃんに助けを求める。
「家令のヤツ、なんか暴走しちゃってるのよ」
「か・・・家令??」
お坊ちゃんが、ぽかんとしたカオを向ける。
あ、そういえば、アイツ本当は家令じゃないって言ってた。
・・・じゃあ何なんだ??
「てめえ小僧!ここ開けろ!」
お坊ちゃんの部屋の前に到着した家令は、ボッコボコにドアを叩く。
(うわあ!本人を前に『小僧』言っちゃってるし!!)
しかもドアの叩き方が、もう何かおかしい。
『どがあっ』とか、そんな音がしている。
「だめだめだめお坊ちゃん開けちゃだめ!あいつ今日なんかおかしい!」
だいぶ年下の子供に頼って大変申し訳ないとは思うが、もう半分縋るように、お坊ちゃんに頼み込む。
そんなロゼリエを気の毒そうに見つめながら、
「・・・すみませんロゼリエ様・・・うちは大体いつもこんなかんじです・・・」
と、お坊ちゃんは言った。
「え、こっちが素ってこと?」
思わず呆気にとられるロゼリエに、お坊ちゃんは
「はい・・・もし我が伯爵家に入っていただけるのでしたら、これには慣れていただくしか・・・」
と、恐縮するのだった。
そして、
「ロゼリエ様は、もうあの姿を引き出されたんですね・・・
何事にも物怖じしなさそうに見えて、
なかなか自分を表に出せない人なんですけど・・・」
と、少し感心したように付け加えた。
「マジか―――――・・・」
思わず力が抜けそうになるロゼリエの耳に、
「開けろっつってんのが聞こえねぇのかこのクソガキが!
今すぐ開けねぇなら顧客名簿丸暗記の刑に処すぞゴラぁ―――――!!」
という、なんかもう人が変わったとしか思えない家令の声が響き、
ロゼリエは再び、必死にドアを押さえ直した。
それを見ていたお坊ちゃんが、
「あのう・・・少し落ち着きましょう・・・?
ロゼリエ様びっくりしちゃって、出るに出られないですよ・・・?」
と、家令を宥めようと声をかけてくれるではないか。
ロゼリエは、ちょっとわかった気がした。
お坊ちゃんは人見知りなのではなく、周りの人間がパワフルすぎて萎縮してしまうだけなんじゃなかろうか。
前回は前触れもなく突撃したせいでロゼリエも萎縮させてしまったが、今日なんかもう既に心得ていて、びくびくする様子もなく会話してくれているではないか。
甘ったれ坊主だとばかり思っていたお坊ちゃんの印象がだいぶ変わった。
・・・同時に、家令の印象もだいぶ変わったが。
「このガキんちょが!いつの間にロゼリエ様に取り入りやがった!?
どんな手使いやがった! 若さか!若さなのか―――――!!」
ドアの向こうでは、家令が吠えに吠えまくっている。
「お坊ちゃん・・・若いのに苦労するね・・・」
思わずロゼリエが同情すると、お坊ちゃんは苦笑しながら、
「そうですね・・・うちは親からしてちょっと変わってますので・・・
大変申し訳ありません・・・ 」
と、なんだか遠い目をして呟いた。
何かあると思っていた伯爵家だが、
思っていたより残念な方向に転がっている気がした。
「ところで、コレどうしようかな・・・」
どごんばごん音をたてながら、お坊ちゃんの部屋のドアを攻撃し続ける家令。
おそらくお坊ちゃんは、この家の中では話が通じる部類に入るんだろうな、と、何だか悟ってしまったロゼリエは、今後のことも鑑みて、お坊ちゃんのフォローに乗り出してみる。
「あのさ家令? お坊ちゃん、結構やれる子だと思うよ?
ここはひとつ、家令も協力して、お坊ちゃんを一人前に育て上げよう?」
しかし、それにより更に、家令は激高した。
「幼気アピールで、ロゼリエ様をたらしこみやがって!
表に出ろや小僧!! その腐った性根を叩き直してやる!!」
ロゼリエが唖然とする中、お坊ちゃんは慣れた様子で、
「あ―――――・・・はい。わかりました。」
と了承すると、すんなりと扉を開け、
荒ぶる家令に怯える様子もなく、大人しく後に付いて行くのだった。
68
あなたにおすすめの小説
特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する
下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。
ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
貴族のとりすました顔ばかり見ていたから素直でまっすぐでかわいいところにグッときたという
F.conoe
恋愛
学園のパーティの最中に、婚約者である王子が大きな声で私を呼びました。
ああ、ついに、あなたはおっしゃるのですね。
嫌われ令嬢とダンスを
鳴哉
恋愛
悪い噂のある令嬢(妹)と
夜会の警備担当をしている騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、4話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
姉の話もこの後に続けて後日アップする予定です。
2024.10.22追記
明日から姉の話「腹黒令嬢は愛などいらないと思っていました」を5話に分けて、毎日1回、予約投稿します。
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
妹の話を読んでからお読みいただきたいです。
友達にいいように使われていた私ですが、王太子に愛され幸せを掴みました
麻宮デコ@SS短編
恋愛
トリシャはこだわらない性格のおっとりした貴族令嬢。
友人マリエールは「友達だよね」とトリシャをいいように使い、トリシャが自分以外の友人を作らないよう孤立すらさせるワガママな令嬢だった。
マリエールは自分の恋を実らせるためにトリシャに無茶なお願いをするのだが――…。
【完結】救ってくれたのはあなたでした
ベル
恋愛
伯爵令嬢であるアリアは、父に告げられて女癖が悪いことで有名な侯爵家へと嫁ぐことになった。いわゆる政略結婚だ。
アリアの両親は愛らしい妹ばかりを可愛がり、アリアは除け者のように扱われていた。
ようやくこの家から解放されるのね。
良い噂は聞かない方だけれど、ここから出られるだけ感謝しなければ。
そして結婚式当日、そこで待っていたのは予想もしないお方だった。
【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~
真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。
自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。
回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの?
*後編投稿済み。これにて完結です。
*ハピエンではないので注意。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる