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15.セレスタン⑥
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俺は失意の中、屋敷に戻った。その頃には日は沈んでいて、辺りは薄闇に包まれていた。
俺が無断で長時間外出していたのを心配してか、玄関まで出迎えてくれた母さんに「どこに行っていたの?」と聞かれる。
「あ……」
「あ? もしかしてアンリエッタさんのこと?」
優しい声で続きを促され、俺はこの歳にもなってぽろりと涙を流した。
役に立ってくれないと失望していたが、やはりこういう時家族がいてくれるだけで気持ちがいくらか楽になる。
俺は広間に向かうと、母さんと父さんにシャーラの別荘で見たものを包み隠さず話した。途中語気が荒くなった場面があり、父さんに「気持ちは分かるが落ち着け」と宥められた。
そして俺が語り終えると、両親は悲しそうに顔を歪めた。
「アンリエッタさん……なんて人なの。シャーラ様の別荘で新しい恋人を作っていたなんて……」
「とても清楚そうな女性だと思っていたが……第一お前たちはまだ夫婦の関係じゃないか」
そう。シャーラに連れ攫われたとは言え、法律上ではアンリエッタと俺は夫婦。このソール家の人間なのだ。それを聡明な彼女なら分からないはずがないというのに。
「ああ、でもよく言うものね。背徳感は恋愛において最高の調味料になるものだって」
「……馬鹿みたいだ。俺はあんな女に振り回されていたんだな」
「だから言ったじゃない、セレスタン。花の神の神官なんて頭が弱くて、倫理観に欠けているから結婚しないほうがいいって」
「そうだな……母さんの忠告通りだった」
自室に戻ると、俺はアンリエッタが残していったドレスや本を廊下に持ち出し始めた。
彼女がこの屋敷に戻ることはもうないだろう。仮に戻りたいと本人が訴えたとしても、両親が絆されて迎え入れようとしても俺が許さない。
本当なら今すぐにでも、あの銀髪の男が見ている前でアンリエッタを犯してやりたいくらいだが、達成感しか得られるものがない復讐をするほど俺は愚かじゃない。それに心配する家族を忘れて、他の男と関係を持つ女に触りたくなかった。
翌日、俺はすぐに離婚の手続きを行った。本来、離婚の申し出は双方合意の下で行われるが、正直に『他のところで男を作って逃げられた』と話すと職員は同情しながら了承してくれた。俺が嵐の神の神官であることも関係しているだろうが、こういった融通の利く職員がいて助かった。
これで俺とアンリエッタは他人だ。清々したと思うと同時に、心の中にぽっかりと穴が空いたような虚しさも感じる。
この感情を暫くは付き合うことになりそうだ。そう思っただけで憂鬱になる。
何度も溜め息をつきつつ屋敷に帰ると、メイドからすぐに広間に行くようにと言われた。断る理由もなかったので向かうと「おかえりなさい」と笑顔の母さんと、上機嫌な父さん。……そして、二人の間にいるカロリーヌ。
「母さん? どうして彼女が……」
「あら、カロリーヌさんとお知り合いだったの? 奇遇ねぇ」
「い、いや……」
「この人はあなたの新しいお嫁さんよ」
母さんの言葉に会わせて、カロリーヌがはにかみながら口を開く。
「ずっと……セレスタン様を慕い続けていました。アンリエッタ様とご結婚されたあとも。ですからあなたがアンリエッタ様に裏切られたと知った時、正直チャンスだと思いました」
「カロリーヌ、俺は……」
「こんなこと、突然言われて戸惑うのは分かります。ですけれど、お願いします。この私の気持ちを受け入れてください……!」
駆け寄ったカロリーヌにそのまま抱き着かれる。
温かくて柔らかい体。ひんやりと冷たく、肉を失ったアンリエッタとどうしても比較してしまう。
カロリーヌのおかげで、俺は現在のアンリエッタを知ることができた。
そんな彼女が俺の新しい妻……。
「君は俺を裏切らないでくれるか……?」
そう尋ねた俺の声は情けなく震えてしまっていたが、カロリーヌは笑うことなく「……はい」と静かな声で受け入れてくれた。
俺が無断で長時間外出していたのを心配してか、玄関まで出迎えてくれた母さんに「どこに行っていたの?」と聞かれる。
「あ……」
「あ? もしかしてアンリエッタさんのこと?」
優しい声で続きを促され、俺はこの歳にもなってぽろりと涙を流した。
役に立ってくれないと失望していたが、やはりこういう時家族がいてくれるだけで気持ちがいくらか楽になる。
俺は広間に向かうと、母さんと父さんにシャーラの別荘で見たものを包み隠さず話した。途中語気が荒くなった場面があり、父さんに「気持ちは分かるが落ち着け」と宥められた。
そして俺が語り終えると、両親は悲しそうに顔を歪めた。
「アンリエッタさん……なんて人なの。シャーラ様の別荘で新しい恋人を作っていたなんて……」
「とても清楚そうな女性だと思っていたが……第一お前たちはまだ夫婦の関係じゃないか」
そう。シャーラに連れ攫われたとは言え、法律上ではアンリエッタと俺は夫婦。このソール家の人間なのだ。それを聡明な彼女なら分からないはずがないというのに。
「ああ、でもよく言うものね。背徳感は恋愛において最高の調味料になるものだって」
「……馬鹿みたいだ。俺はあんな女に振り回されていたんだな」
「だから言ったじゃない、セレスタン。花の神の神官なんて頭が弱くて、倫理観に欠けているから結婚しないほうがいいって」
「そうだな……母さんの忠告通りだった」
自室に戻ると、俺はアンリエッタが残していったドレスや本を廊下に持ち出し始めた。
彼女がこの屋敷に戻ることはもうないだろう。仮に戻りたいと本人が訴えたとしても、両親が絆されて迎え入れようとしても俺が許さない。
本当なら今すぐにでも、あの銀髪の男が見ている前でアンリエッタを犯してやりたいくらいだが、達成感しか得られるものがない復讐をするほど俺は愚かじゃない。それに心配する家族を忘れて、他の男と関係を持つ女に触りたくなかった。
翌日、俺はすぐに離婚の手続きを行った。本来、離婚の申し出は双方合意の下で行われるが、正直に『他のところで男を作って逃げられた』と話すと職員は同情しながら了承してくれた。俺が嵐の神の神官であることも関係しているだろうが、こういった融通の利く職員がいて助かった。
これで俺とアンリエッタは他人だ。清々したと思うと同時に、心の中にぽっかりと穴が空いたような虚しさも感じる。
この感情を暫くは付き合うことになりそうだ。そう思っただけで憂鬱になる。
何度も溜め息をつきつつ屋敷に帰ると、メイドからすぐに広間に行くようにと言われた。断る理由もなかったので向かうと「おかえりなさい」と笑顔の母さんと、上機嫌な父さん。……そして、二人の間にいるカロリーヌ。
「母さん? どうして彼女が……」
「あら、カロリーヌさんとお知り合いだったの? 奇遇ねぇ」
「い、いや……」
「この人はあなたの新しいお嫁さんよ」
母さんの言葉に会わせて、カロリーヌがはにかみながら口を開く。
「ずっと……セレスタン様を慕い続けていました。アンリエッタ様とご結婚されたあとも。ですからあなたがアンリエッタ様に裏切られたと知った時、正直チャンスだと思いました」
「カロリーヌ、俺は……」
「こんなこと、突然言われて戸惑うのは分かります。ですけれど、お願いします。この私の気持ちを受け入れてください……!」
駆け寄ったカロリーヌにそのまま抱き着かれる。
温かくて柔らかい体。ひんやりと冷たく、肉を失ったアンリエッタとどうしても比較してしまう。
カロリーヌのおかげで、俺は現在のアンリエッタを知ることができた。
そんな彼女が俺の新しい妻……。
「君は俺を裏切らないでくれるか……?」
そう尋ねた俺の声は情けなく震えてしまっていたが、カロリーヌは笑うことなく「……はい」と静かな声で受け入れてくれた。
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