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第16話:誰かのために強くなる日
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それは、風がやさしく草を揺らす静かな朝だった。
リリアは庭の小道にしゃがみ込み、ラベンダーの葉先にこびりついた夜露を、そっと指先で払い落としていた。
(私は、この場所を守りたい)
レティシアの言葉に揺れた日から、リリアは変わりたいと思うようになっていた。
誰かに脅かされたとき、黙って受け流すだけの自分じゃなくて、
大切なものを、ちゃんと自分の手で守れるようになりたい。
そして、願わくば——
(グレイヴァンさんの前で、堂々としていられる自分でありたい)
ただ憧れるだけの恋じゃなくて、自分からも何かを伝えられるように。
庭には、いつものように穏やかな客たちが訪れていた。
村の奥様方、小さな子どもを連れた商人の妻、若い旅の画家。
「このお茶、前よりも香りが強くなった気がするわ」
「レモングラスがよく効いてて、夏でも飲みやすいね」
何気ないその言葉に、リリアは小さく笑った。
(気づいてくれたんだ……)
前よりも、もう少し強く、もう少し印象に残る香りを意識して調合していた。
ただ優しいだけじゃなくて、しっかりとした輪郭を持つ味。
それは自分自身に対する姿勢と、どこか重なっている気がしていた。
昼下がり。
庭に再び、あの鮮やかな赤いドレスが現れた。
「やっぱり……まだ続いてるのね、こんな店」
レティシア・ヴェルメルが、つまらなそうな顔で庭に足を踏み入れる。
けれど、リリアの手は震えなかった。
「いらっしゃいませ。レティシア様。ようこそお越しくださいました」
笑顔を絶やさず、丁寧に頭を下げる。
レティシアは目を細め、つとめて愛想よく笑った。
「まぁ、随分と余裕じゃない? あなたみたいな地味な娘が、いつまで持つかしらって思ってたけど」
「……おかげさまで、たくさんの方に足を運んでいただいています」
言葉に棘はない。けれど、確かな意志が宿っていた。
レティシアの表情が、ほんの一瞬だけ強ばる。
「ふーん。じゃあ、そろそろ彼の“婚約者”として正式に挨拶に来ようかしら。
あなたが、未練を残さず引き下がれるように」
リリアの胸がチクリと痛む。けれど、それでも目を逸らさなかった。
「それは……彼が、決めることだと思います」
「……何ですって?」
「私には何もないかもしれません。でも、彼がこの庭で静かに過ごしてくれることが、私にとってすべてなんです。
誰かの癒しになる場所を作ること、それだけは、誰にも奪わせません」
空気が張り詰めた。
だが次の瞬間、その場にもうひとつの影が落ちる。
「……何を騒いでいる」
その声に、二人が同時に振り向く。
グレイヴァン・リオステル。
門のそばに、いつものように静かに立っていた。けれどその眼差しは、確かにレティシアを鋭く射ていた。
「……何度も言っているはずだ。誰が“婚約者”かは、俺が決める」
「グ、グレイヴァン様……!」
レティシアはしどろもどろになりながら、ひきつった笑みを浮かべていた。
だが彼はそれに構うことなく、静かにリリアの隣へと歩み寄る。
そして、ポツリと一言だけ告げた。
「今日の茶……あるか?」
その一言に、リリアの胸が熱くなる。
彼は何も大げさなことは言わない。けれどその存在だけが、彼女を確かに支えてくれていた。
リリアは、ほんの少しだけ胸を張って答えた。
「……はい。お淹れいたします。今日も癒しの一杯を」
リリアは庭の小道にしゃがみ込み、ラベンダーの葉先にこびりついた夜露を、そっと指先で払い落としていた。
(私は、この場所を守りたい)
レティシアの言葉に揺れた日から、リリアは変わりたいと思うようになっていた。
誰かに脅かされたとき、黙って受け流すだけの自分じゃなくて、
大切なものを、ちゃんと自分の手で守れるようになりたい。
そして、願わくば——
(グレイヴァンさんの前で、堂々としていられる自分でありたい)
ただ憧れるだけの恋じゃなくて、自分からも何かを伝えられるように。
庭には、いつものように穏やかな客たちが訪れていた。
村の奥様方、小さな子どもを連れた商人の妻、若い旅の画家。
「このお茶、前よりも香りが強くなった気がするわ」
「レモングラスがよく効いてて、夏でも飲みやすいね」
何気ないその言葉に、リリアは小さく笑った。
(気づいてくれたんだ……)
前よりも、もう少し強く、もう少し印象に残る香りを意識して調合していた。
ただ優しいだけじゃなくて、しっかりとした輪郭を持つ味。
それは自分自身に対する姿勢と、どこか重なっている気がしていた。
昼下がり。
庭に再び、あの鮮やかな赤いドレスが現れた。
「やっぱり……まだ続いてるのね、こんな店」
レティシア・ヴェルメルが、つまらなそうな顔で庭に足を踏み入れる。
けれど、リリアの手は震えなかった。
「いらっしゃいませ。レティシア様。ようこそお越しくださいました」
笑顔を絶やさず、丁寧に頭を下げる。
レティシアは目を細め、つとめて愛想よく笑った。
「まぁ、随分と余裕じゃない? あなたみたいな地味な娘が、いつまで持つかしらって思ってたけど」
「……おかげさまで、たくさんの方に足を運んでいただいています」
言葉に棘はない。けれど、確かな意志が宿っていた。
レティシアの表情が、ほんの一瞬だけ強ばる。
「ふーん。じゃあ、そろそろ彼の“婚約者”として正式に挨拶に来ようかしら。
あなたが、未練を残さず引き下がれるように」
リリアの胸がチクリと痛む。けれど、それでも目を逸らさなかった。
「それは……彼が、決めることだと思います」
「……何ですって?」
「私には何もないかもしれません。でも、彼がこの庭で静かに過ごしてくれることが、私にとってすべてなんです。
誰かの癒しになる場所を作ること、それだけは、誰にも奪わせません」
空気が張り詰めた。
だが次の瞬間、その場にもうひとつの影が落ちる。
「……何を騒いでいる」
その声に、二人が同時に振り向く。
グレイヴァン・リオステル。
門のそばに、いつものように静かに立っていた。けれどその眼差しは、確かにレティシアを鋭く射ていた。
「……何度も言っているはずだ。誰が“婚約者”かは、俺が決める」
「グ、グレイヴァン様……!」
レティシアはしどろもどろになりながら、ひきつった笑みを浮かべていた。
だが彼はそれに構うことなく、静かにリリアの隣へと歩み寄る。
そして、ポツリと一言だけ告げた。
「今日の茶……あるか?」
その一言に、リリアの胸が熱くなる。
彼は何も大げさなことは言わない。けれどその存在だけが、彼女を確かに支えてくれていた。
リリアは、ほんの少しだけ胸を張って答えた。
「……はい。お淹れいたします。今日も癒しの一杯を」
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