『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ

文字の大きさ
17 / 27

第17話:特別な一杯にこめた想い

しおりを挟む
 リリアが用意をしていると、レティシアは当然のように、グレイヴァンの隣の席へ腰掛けようとした。

「今日はご一緒させてください。私なら、ここよりもずっと上等な紅茶をご存知ですよ?」

 彼女は当然のように、グレイヴァンの隣の席へ腰掛けようとした。

 しかし——

 「座るな」

 低く、しかし冷静な声が、空気を凍らせた。

 レティシアの動きが止まる。

 「……どういう意味かしら?」

 「ここは、俺が気に入っている場所だ。お前が勧めるどんな高価な紅茶より、ここの茶が一番合っている」

 グレイヴァンの灰色の瞳は、冷たい静けさをたたえていた。

 「それに——他人を貶めて自分を持ち上げるような人間と、俺は一緒に飲む気はない」

 言葉が静かに、しかし確かに響いた。

 レティシアの顔がみるみる紅潮し、唇を噛んだ。

 「……わたくしは、ただ——」

 「もういい。帰れ」

 その一言に、彼女は肩を震わせながら、扇子で口元を隠した。

 「……今日のところは失礼しますわ」

 わずかに涙を浮かべながら、レティシアはその場を去っていった。

 ——そして、庭には静けさが戻る。

 リリアは少し離れた場所からそのやり取りを見ていた。

 心臓が、早鐘のように打っていた。

 (……私のために、ではない。きっと、ただの信念。けれど……)

 それでも、何かが胸に染み込んでいくようだった。

 

 リリアは、奥の棚から白磁のティーポットを取り出した。大切に取っておいた特別なものだった。

 そして今日のために選んだ、特別なブレンド。優しさの中に、力強さと希望がある香り。

 (言葉にできない気持ちを、もし届けられるなら……)

 静かに、彼の前にティートレイを置く。

 「お待たせしました。今日の——いえ、“わたしの特別な一杯”です」

 グレイヴァンは静かにうなずき、湯気の立ちのぼるカップに口をつける。

 ひとくち。
 そして、目を伏せたまま、ぽつりとつぶやく。

 「……お前の、香りがするな」

 「……えっ?」

 リリアは驚いて顔を上げた。

 彼は相変わらず表情を変えず、カップを持つ手だけが、いつもより少しだけ丁寧だった。

 「毎回、違う香りだ。でも……いつも“お前らしさ”がある」

 言葉にならない想いが、胸に広がっていく。

 「……わたし、グレイヴァンさんに少しでも安らいでもらえたらと思って……」

 「それは、伝わってる」

 ふと、風が吹いた。

 テーブルに置かれたカップがかすかに揺れ、リリアの髪がなびく。

 そして、彼の手がそっと伸びて、リリアの手の甲に指先が触れた。

 その仕草は誰にも気づかれないほど、控えめで。
 けれど、確かにそこに“想い”があった。

 (……この一杯で、わたしの気持ちは、ちゃんと届いた)

 リリアは微笑んだ。

 グレイヴァンが無言で、けれど確かに彼女を見つめるその目に。

 はじめて、同じ景色を見つめられているような気がした——。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...