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第22話:噂の影と、守りたいもの
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昼下がり。
いつもと変わらない穏やかな陽射しが、庭を包んでいた。
けれどリリアの心は、どこか曇っていた。
「最近、騎士団長様はここの常連らしいわね」
「“庶民の娘が騎士団長を誘惑している”って噂、王都の広場でも聞いたわよ」
それは小声のつぶやきや、わざと聞こえるように言われた皮肉。
日に日に増えてきた“噂”という名の影が、静かに、でも確実にリリアを追い詰めていた。
(どうして、こんなふうになってしまうの……)
ただ、紅茶を出しているだけ。
ただ、花を育てているだけ。
なのに——どうして「誰かを好きになること」まで、咎められなくてはならないのだろう。
その日、グレイヴァンがいつものように庭に現れたのは、午後も遅くなってからだった。
けれどその姿は、なぜかいつもより疲れて見えた。
「……こんにちは。お疲れではありませんか?」
「……少し、厄介なことがあった」
そう言って、彼は無言で紅茶に口をつけた。
リリアは問い返すことができなかった。
きっと、騎士団長としての立場に絡むこと。——あるいは、自分のこと。
(私が、足を引っ張ってるんだろうか)
そう思うと、心がひどく重くなった。
「……もし、来づらくなってしまったなら……無理は、しないでくださいね」
お茶の香りに紛れて、そっとそう言ったときだった。
「来たいから来ている」
グレイヴァンの声が、はっきりとした口調で返ってきた。
その一言が、リリアの全身を静かに貫いた。
「騎士団としての役目も、王家との距離も、噂も……全部ある。
だが、ここは俺にとって“そういうもの”と無関係でいられる場所だ。
……守らなくてどうする」
静かだけれど、確かな意志がこもっていた。
リリアの目に、知らぬ間に涙がにじんでいた。
「わたし……わたしも、ここを守りたい。
誰に何を言われても、あなたと過ごすこの時間を……
誰かの言葉で否定されたくない」
震える声で言ったその瞬間、グレイヴァンはカップを置き、立ち上がった。
そして、リリアの前に一歩近づき——
「……なら、隣に立ってくれ」
リリアの胸が、大きく跳ねた。
「噂がどうでもいいとは言わない。
だが、“俺の意思”は誰にも左右されない。
……その隣に、お前がいてくれるなら、それでいい」
初めて、彼の口から“並んで立つ”という言葉が出た。
それはまだ、恋人という確約ではない。
でも——それ以上に、強い“選択”だった。
その夜、リリアは庭の奥でラベンダーに水をやりながら、静かに空を見上げた。
月が柔らかく輝いている。
それはまるで、今日交わされた言葉のように、淡くて、でも強かった。
(私も、隣に立てるように……ちゃんと、前を向こう)
風がそっと、花の香りを運ぶ。
明日もまた、彼にお茶を淹れよう。
自信を持って——自分の気持ちを込めて。
いつもと変わらない穏やかな陽射しが、庭を包んでいた。
けれどリリアの心は、どこか曇っていた。
「最近、騎士団長様はここの常連らしいわね」
「“庶民の娘が騎士団長を誘惑している”って噂、王都の広場でも聞いたわよ」
それは小声のつぶやきや、わざと聞こえるように言われた皮肉。
日に日に増えてきた“噂”という名の影が、静かに、でも確実にリリアを追い詰めていた。
(どうして、こんなふうになってしまうの……)
ただ、紅茶を出しているだけ。
ただ、花を育てているだけ。
なのに——どうして「誰かを好きになること」まで、咎められなくてはならないのだろう。
その日、グレイヴァンがいつものように庭に現れたのは、午後も遅くなってからだった。
けれどその姿は、なぜかいつもより疲れて見えた。
「……こんにちは。お疲れではありませんか?」
「……少し、厄介なことがあった」
そう言って、彼は無言で紅茶に口をつけた。
リリアは問い返すことができなかった。
きっと、騎士団長としての立場に絡むこと。——あるいは、自分のこと。
(私が、足を引っ張ってるんだろうか)
そう思うと、心がひどく重くなった。
「……もし、来づらくなってしまったなら……無理は、しないでくださいね」
お茶の香りに紛れて、そっとそう言ったときだった。
「来たいから来ている」
グレイヴァンの声が、はっきりとした口調で返ってきた。
その一言が、リリアの全身を静かに貫いた。
「騎士団としての役目も、王家との距離も、噂も……全部ある。
だが、ここは俺にとって“そういうもの”と無関係でいられる場所だ。
……守らなくてどうする」
静かだけれど、確かな意志がこもっていた。
リリアの目に、知らぬ間に涙がにじんでいた。
「わたし……わたしも、ここを守りたい。
誰に何を言われても、あなたと過ごすこの時間を……
誰かの言葉で否定されたくない」
震える声で言ったその瞬間、グレイヴァンはカップを置き、立ち上がった。
そして、リリアの前に一歩近づき——
「……なら、隣に立ってくれ」
リリアの胸が、大きく跳ねた。
「噂がどうでもいいとは言わない。
だが、“俺の意思”は誰にも左右されない。
……その隣に、お前がいてくれるなら、それでいい」
初めて、彼の口から“並んで立つ”という言葉が出た。
それはまだ、恋人という確約ではない。
でも——それ以上に、強い“選択”だった。
その夜、リリアは庭の奥でラベンダーに水をやりながら、静かに空を見上げた。
月が柔らかく輝いている。
それはまるで、今日交わされた言葉のように、淡くて、でも強かった。
(私も、隣に立てるように……ちゃんと、前を向こう)
風がそっと、花の香りを運ぶ。
明日もまた、彼にお茶を淹れよう。
自信を持って——自分の気持ちを込めて。
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