『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ

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第23話:言葉よりも、そばにいたいという願い

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 あの日から、庭の空気が少しだけ変わった。

 変わらない花、変わらない紅茶、変わらない風。
 けれどリリアの胸の奥にある想いは、もう「片想い」ではなかった。

(たぶん、きっと……彼も、私と同じ気持ちでいてくれてる)

 そう確信するには、グレイヴァンの言葉は少なくて。
 けれど、その沈黙の裏にある“選び取る意思”が、何より雄弁だった。



 その日、グレイヴァンは少し遅れて庭を訪れた。

 リリアはもう慌てなかった。
 むしろ、その時間さえも“待つ喜び”になっていることに気づいていた。

「こんにちは。今日は、少し風が強いですね」

「……だが、香りがよく運ぶ」

 変わらぬ低い声。
 でもその一言に、どこか穏やかなあたたかさが含まれていた。

 リリアは彼の席に紅茶を運びながら、小さな包みをそっと添えた。

「今日は、庭で摘んだミントを使ったクッキーを焼いてみたんです。試作ですけど……よかったら」

「……食べても良いのか?」

「もちろん。……試食係になってください」

 その冗談に、グレイヴァンはほんの少し、口元を緩めたように見えた。

 笑った。
 確かに、今、笑った。

(……私だけが見てる、この人の表情)

 その事実が、リリアの胸にそっと灯る。



 風に花が揺れている。

 二人は並んで座り、ただ紅茶を飲んでいた。
 それだけの時間が、どれほど特別かを、リリアは誰より知っていた。

「……ここは、静かだ」

「はい。とても」

「俺の世界は……騒がしい」

 リリアはゆっくり、彼の言葉を待った。

「騎士団。政治。貴族たちの思惑。……全部、剣では切れないものばかりだ」

「……大変なんですね」

「だが、ここは……何も“主張しすぎない”」

 グレイヴァンは、目を閉じるようにして言葉を選んだ。

「静かに香って、ただ、寄り添ってくる。
 ……そういう場所が、今の俺には必要だった」

 リリアは、紅茶を両手で包み込むように持ちながら、小さく息を吸った。

「……じゃあ、私はこれからも、あなたにとってそういう存在でいられるように、ここにいます」

 それは、まだ「好き」とは言っていない。
 でも、確かに“隣にいたい”と伝えていた。

 グレイヴァンは返事をしなかった。
 ただカップに口をつけ、静かにひとくち。

 けれどその指先が、ふとリリアの手のそばに触れそうに近づいていて——
 それだけで十分だった。



 その夕方。

 グレイヴァンが帰り際に、ふいに足を止めた。

「……明日、来られないかもしれない」

「……お仕事ですか?」

「ああ。だが——」

 彼は言いかけて、リリアの目を見て言った。

「次に来るときも、“特別な一杯”を頼む」

 それはもう、「また来る」ではなかった。

 「帰ってくる」——そんな意味のある、温もりのこもった言葉。

 リリアは、小さく微笑んで頷いた。

「はい。必ず、ご用意しておきます」

 そのとき、庭にやさしい光が差し込んだ。
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