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第24話:待つ時間に、揺れる心
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翌日、空はどこか鈍い光を放っていた。
風は冷たく、庭のラベンダーも少しだけ背を丸めているように見えた。
リリアは朝から、心が落ち着かなかった。
(来られないって、言ってた。……わかってる。ちゃんと、言ってくれた)
わかっている。けれど、心のどこかで期待してしまう。
もしかしたら、予定が早く終わって、いつものように来てくれるんじゃないかって。
それは恋の副作用のようなものだと、リリアは思った。
この“待つ時間”が、こんなに長く感じるなんて——
恋をしていなければ、知らなかった感情だ。
昼を過ぎても、グレイヴァンの姿はなかった。
客の数も少なく、庭はいつにも増して静かだった。
リリアは自分に言い聞かせるように、テーブルクロスを直し、ラベンダーの花柄のカップを一つ丁寧に磨いた。
彼がいなくても、グレイヴァンのことを考えて行動している自分が、どこかおかしくて、でも愛おしい。
そのときだった。
門が開く音がして、思わず顔を上げる。
(まさか……!)
けれどそこにいたのは——赤いドレスの、あの令嬢だった。
レティシア・ヴェルメル。
派手な香水をまとい、まるで「舞台に立つ女優」のように、芝居がかった笑みを浮かべていた。
「こんにちは。……あら、今日は“あの方”はいらしていないのね」
その声に、リリアの背筋が自然と伸びる。
「いらっしゃいませ。ご用件は……?」
「まぁまぁ、そんなに警戒しないで。
私はただ、“あなたの立場”を心配しているだけよ?」
芝居がかった口調。けれど、瞳は鋭く濁っている。
「噂、止まないわね。『騎士団長様に取り入った庶民の娘』なんて、王都では面白おかしく語られてるわよ?
“この庭は下品な色香で男を誘う場所”だって、笑われているの」
その一言が、リリアの胸に冷たい水を注いだ。
「私は……そんなつもりじゃ……」
「“つもり”なんて関係ないの。
彼の名前が使われるだけで、騎士団にとっても、王国にとっても“厄介な火種”なのよ」
レティシアはリリアの目を見据え、最後に静かに告げた。
「“消える”ことが、彼のためになることもある。
あなた、そこまで考えてる?」
残された香水の香りは、庭の空気を一瞬でよどませた。
彼女が去ったあと、リリアは静かに腰を下ろし、握りしめていた手を見つめた。
(私の存在が……彼を傷つけてる?)
怖くなった。
好きな人の足かせになっているかもしれないという事実が。
けれど——
ふと、彼が言った言葉が胸に蘇る。
『来たいから来ている』
『隣に立ってくれ』
『俺の意思は、誰にも左右されない』
あの目を、声を、手の温度を——信じたい。
(私は……待つ。何を言われても、私はここで、あなたを待ってる)
誰より強く、静かにそう思った。
風は冷たく、庭のラベンダーも少しだけ背を丸めているように見えた。
リリアは朝から、心が落ち着かなかった。
(来られないって、言ってた。……わかってる。ちゃんと、言ってくれた)
わかっている。けれど、心のどこかで期待してしまう。
もしかしたら、予定が早く終わって、いつものように来てくれるんじゃないかって。
それは恋の副作用のようなものだと、リリアは思った。
この“待つ時間”が、こんなに長く感じるなんて——
恋をしていなければ、知らなかった感情だ。
昼を過ぎても、グレイヴァンの姿はなかった。
客の数も少なく、庭はいつにも増して静かだった。
リリアは自分に言い聞かせるように、テーブルクロスを直し、ラベンダーの花柄のカップを一つ丁寧に磨いた。
彼がいなくても、グレイヴァンのことを考えて行動している自分が、どこかおかしくて、でも愛おしい。
そのときだった。
門が開く音がして、思わず顔を上げる。
(まさか……!)
けれどそこにいたのは——赤いドレスの、あの令嬢だった。
レティシア・ヴェルメル。
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「こんにちは。……あら、今日は“あの方”はいらしていないのね」
その声に、リリアの背筋が自然と伸びる。
「いらっしゃいませ。ご用件は……?」
「まぁまぁ、そんなに警戒しないで。
私はただ、“あなたの立場”を心配しているだけよ?」
芝居がかった口調。けれど、瞳は鋭く濁っている。
「噂、止まないわね。『騎士団長様に取り入った庶民の娘』なんて、王都では面白おかしく語られてるわよ?
“この庭は下品な色香で男を誘う場所”だって、笑われているの」
その一言が、リリアの胸に冷たい水を注いだ。
「私は……そんなつもりじゃ……」
「“つもり”なんて関係ないの。
彼の名前が使われるだけで、騎士団にとっても、王国にとっても“厄介な火種”なのよ」
レティシアはリリアの目を見据え、最後に静かに告げた。
「“消える”ことが、彼のためになることもある。
あなた、そこまで考えてる?」
残された香水の香りは、庭の空気を一瞬でよどませた。
彼女が去ったあと、リリアは静かに腰を下ろし、握りしめていた手を見つめた。
(私の存在が……彼を傷つけてる?)
怖くなった。
好きな人の足かせになっているかもしれないという事実が。
けれど——
ふと、彼が言った言葉が胸に蘇る。
『来たいから来ている』
『隣に立ってくれ』
『俺の意思は、誰にも左右されない』
あの目を、声を、手の温度を——信じたい。
(私は……待つ。何を言われても、私はここで、あなたを待ってる)
誰より強く、静かにそう思った。
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