『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ

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第21話:ふたりの距離に、光が射す日

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 丘で過ごした日から、リリアの中で何かが確かに変わった。

 庭に立つ自分。
 お茶を淹れる自分。
 そして——恋をしている自分。

(ちゃんと、伝えられた)

 小さな勇気が実を結んだような感覚に、胸の奥がずっとぽかぽかしていた。

 けれどその日から、ほんの少しだけ、周囲の視線が変わったような気もしていた。



「ねえ、リリアさん。最近ちょっと綺麗になったんじゃない?」

 常連のご婦人が、笑いながらそう言った。

「え? そんなこと……ないですよ」

「ふふ。女の顔はね、“好きな人がいるとき”と、“それが伝わったとき”に変わるのよ」

 冗談めかして笑うその言葉に、リリアの頬がほんのり染まる。

 ——伝わった。
 そう思っているのは、自分だけじゃないのかもしれない。



 昼過ぎ、グレイヴァンが庭に現れた。

 それはもう自然な光景になっていたけれど、今日は少しだけ違った。

 門の前で、見慣れぬ商家の若者たちが彼の姿を見て、ひそひそと囁いていたのだ。

「やっぱりあの人じゃない? 騎士団長のグレイヴァン様って」
「え、本当に通ってるの? こんな田舎の……」

 その言葉が風に乗って聞こえてきた瞬間、リリアの手がピタリと止まった。

(……まただ)

 以前、レティシアに言われた“覚悟”という言葉が、脳裏に蘇る。

 好きになること。
 心を通わせること。
 それがどれほど難しく、勇気のいることなのかを、思い知らされるようだった。

 ——でも。

「……その茶、今日も“特別”なのか?」

 目の前に座ったグレイヴァンが、カップに指をかけながら尋ねた。

「……え?」

「前よりも、味に“迷い”がない」

 それは、彼なりの褒め言葉だったのだろう。
 でもリリアの胸には、別の意味でも刺さった。

(私、まだ迷ってたんだ。……それでも、ちゃんと、味は届いてる)

 嬉しくて、胸が苦しくなる。

「……はい。今日は、ローズとハチミツを少しだけ。
 あたたかくて、でもすっと背中を押してくれる味にしたかったんです」

 彼は一口だけ飲み、ゆっくりと頷いた。

「……効いてる」

 たった一言。けれどそれが、リリアの心を確かに支えてくれた。



 グレイヴァンが帰ったあと、カリムが店の裏で声をひそめた。

「ねえリリアさん、本当に何もないの? 騎士団長さんと」

「……何もないよ。お客様として来てくださってるだけ」

「うそだ。あんな目で紅茶飲む人、見たことないもん」

 リリアは笑いながら、けれどどこかで焦っている自分に気づいた。

 (このまま、関係が少しずつ育っていけばいい)
 (でも、それを誰かに見られるたび、壊れてしまうんじゃないかって怖い)

 そんな不安が、小さな波となって心の奥に広がっていく。



 その夜、空には星がまたたいていた。

 リリアは一人、ラベンダーの咲く小道に立っていた。

(私は——この気持ちを、誰かに否定されても、守り抜きたい)

 それはきっと恋。
 でもそれ以上に、「彼との静かな時間」そのものが、宝物だった。

 だから、もう怖れない。

 庭の花が明日も変わらず咲くように。
 あたたかなお茶が、また誰かの心をほどくように。

 私は、ここにいる。
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