24 / 27
第24話:待つ時間に、揺れる心
しおりを挟む
翌日、空はどこか鈍い光を放っていた。
風は冷たく、庭のラベンダーも少しだけ背を丸めているように見えた。
リリアは朝から、心が落ち着かなかった。
(来られないって、言ってた。……わかってる。ちゃんと、言ってくれた)
わかっている。けれど、心のどこかで期待してしまう。
もしかしたら、予定が早く終わって、いつものように来てくれるんじゃないかって。
それは恋の副作用のようなものだと、リリアは思った。
この“待つ時間”が、こんなに長く感じるなんて——
恋をしていなければ、知らなかった感情だ。
昼を過ぎても、グレイヴァンの姿はなかった。
客の数も少なく、庭はいつにも増して静かだった。
リリアは自分に言い聞かせるように、テーブルクロスを直し、ラベンダーの花柄のカップを一つ丁寧に磨いた。
彼がいなくても、グレイヴァンのことを考えて行動している自分が、どこかおかしくて、でも愛おしい。
そのときだった。
門が開く音がして、思わず顔を上げる。
(まさか……!)
けれどそこにいたのは——赤いドレスの、あの令嬢だった。
レティシア・ヴェルメル。
派手な香水をまとい、まるで「舞台に立つ女優」のように、芝居がかった笑みを浮かべていた。
「こんにちは。……あら、今日は“あの方”はいらしていないのね」
その声に、リリアの背筋が自然と伸びる。
「いらっしゃいませ。ご用件は……?」
「まぁまぁ、そんなに警戒しないで。
私はただ、“あなたの立場”を心配しているだけよ?」
芝居がかった口調。けれど、瞳は鋭く濁っている。
「噂、止まないわね。『騎士団長様に取り入った庶民の娘』なんて、王都では面白おかしく語られてるわよ?
“この庭は下品な色香で男を誘う場所”だって、笑われているの」
その一言が、リリアの胸に冷たい水を注いだ。
「私は……そんなつもりじゃ……」
「“つもり”なんて関係ないの。
彼の名前が使われるだけで、騎士団にとっても、王国にとっても“厄介な火種”なのよ」
レティシアはリリアの目を見据え、最後に静かに告げた。
「“消える”ことが、彼のためになることもある。
あなた、そこまで考えてる?」
残された香水の香りは、庭の空気を一瞬でよどませた。
彼女が去ったあと、リリアは静かに腰を下ろし、握りしめていた手を見つめた。
(私の存在が……彼を傷つけてる?)
怖くなった。
好きな人の足かせになっているかもしれないという事実が。
けれど——
ふと、彼が言った言葉が胸に蘇る。
『来たいから来ている』
『隣に立ってくれ』
『俺の意思は、誰にも左右されない』
あの目を、声を、手の温度を——信じたい。
(私は……待つ。何を言われても、私はここで、あなたを待ってる)
誰より強く、静かにそう思った。
風は冷たく、庭のラベンダーも少しだけ背を丸めているように見えた。
リリアは朝から、心が落ち着かなかった。
(来られないって、言ってた。……わかってる。ちゃんと、言ってくれた)
わかっている。けれど、心のどこかで期待してしまう。
もしかしたら、予定が早く終わって、いつものように来てくれるんじゃないかって。
それは恋の副作用のようなものだと、リリアは思った。
この“待つ時間”が、こんなに長く感じるなんて——
恋をしていなければ、知らなかった感情だ。
昼を過ぎても、グレイヴァンの姿はなかった。
客の数も少なく、庭はいつにも増して静かだった。
リリアは自分に言い聞かせるように、テーブルクロスを直し、ラベンダーの花柄のカップを一つ丁寧に磨いた。
彼がいなくても、グレイヴァンのことを考えて行動している自分が、どこかおかしくて、でも愛おしい。
そのときだった。
門が開く音がして、思わず顔を上げる。
(まさか……!)
けれどそこにいたのは——赤いドレスの、あの令嬢だった。
レティシア・ヴェルメル。
派手な香水をまとい、まるで「舞台に立つ女優」のように、芝居がかった笑みを浮かべていた。
「こんにちは。……あら、今日は“あの方”はいらしていないのね」
その声に、リリアの背筋が自然と伸びる。
「いらっしゃいませ。ご用件は……?」
「まぁまぁ、そんなに警戒しないで。
私はただ、“あなたの立場”を心配しているだけよ?」
芝居がかった口調。けれど、瞳は鋭く濁っている。
「噂、止まないわね。『騎士団長様に取り入った庶民の娘』なんて、王都では面白おかしく語られてるわよ?
“この庭は下品な色香で男を誘う場所”だって、笑われているの」
その一言が、リリアの胸に冷たい水を注いだ。
「私は……そんなつもりじゃ……」
「“つもり”なんて関係ないの。
彼の名前が使われるだけで、騎士団にとっても、王国にとっても“厄介な火種”なのよ」
レティシアはリリアの目を見据え、最後に静かに告げた。
「“消える”ことが、彼のためになることもある。
あなた、そこまで考えてる?」
残された香水の香りは、庭の空気を一瞬でよどませた。
彼女が去ったあと、リリアは静かに腰を下ろし、握りしめていた手を見つめた。
(私の存在が……彼を傷つけてる?)
怖くなった。
好きな人の足かせになっているかもしれないという事実が。
けれど——
ふと、彼が言った言葉が胸に蘇る。
『来たいから来ている』
『隣に立ってくれ』
『俺の意思は、誰にも左右されない』
あの目を、声を、手の温度を——信じたい。
(私は……待つ。何を言われても、私はここで、あなたを待ってる)
誰より強く、静かにそう思った。
261
あなたにおすすめの小説
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~
咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】
あらすじ
「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」
聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。
彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。
しかし、エリーナはめげなかった。
実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ!
北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。
すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。
「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」
とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。
以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。
最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる