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第1章 偽りの騎士
第3話 復興します 1
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どんよりとした空気が流れる。助けたはずの村人たちの雰囲気は一様に重い。だがかける言葉が見付からない。だってやっちゃったの、俺だもん。いくら死屍累々、瓦礫だらけの絶望的な村になったとしても、そこにあるだけで気持ちの整理を付けるなり、復興なり、みんなの心の支えになったかもしれない。それを跡形もなく消したのだ。どう言えばいいのかわからない。
「矮小な人間の分際で――!」
「――待て、ウロボロス!」
その発言を全力で止める。そんなことを言われたら関係が致命的に修復不可能になってしまい、せめてもの手助けすら拒絶されるようになってしまっただろう。
幸いにも止めるのはウロボロスだけで良かった。カルマは興味ないのか帰っちゃったし、アザレアは隣で俺に熱い視線を送るだけだし、フェンリスは可愛いし、ムラクモは黙して動かない。
ただ、何とか間に合ったとは口が裂けても言えない。ウロボロスはしっかりと侮蔑の言葉を発してしまっている。重苦しい空気が一層重くなったような気がした。
「あの……」
そんな居たたまれない場を壊してくれたのはあの子だった。俺たちが村へ行く直前に話していた子だ。泣き腫らした顔と真っ赤な目が痛々しくて、思わず目を背けそうになってしまう。
「私、この村の代表代理をしているアデルと言います。助けてくれてありがとうございました」
村長代理だと。思わず辺りにいる大人たちを見渡すが、誰も異を唱えない。村長は騎士たちに殺されてしまったのだろうか。それで娘か孫かが代理をしていると。それにしても未成年じゃないのか、この子。それなのに、あんな辛そうな顔をしながらも村人たちを代表して深々と頭を下げてくれた。
一方で俺は何だろう。頭に血を上らせて、取り返しの付かないことをしただけじゃないか。もっとやりようはあったはずなのに良い気になって。
「すまな――」
「――謝らないでください。先に言っておきますね」
釘を刺された。そうか、俺には謝る資格すら無いってことか。なんて絶望しそうになったが、そうではないらしい。まるで俺の考えを読んでいるかのように、アデルは首を横に振ってから言葉を続けてくれる。
「確かに村が無くなったのは……悲しいです。その……みんなの遺体とすら会えないのも正直に言うと辛いです。でも、あんな風にされてしまった村を見たら絶望して何もできなくなったかもしれません。いっそ無くなった方が良かったと思います。だから誤解しないでください。決して恨んでいる訳ではありません。私たちは心から感謝したいのです」
この子、俺なんかより遥かに大人びているじゃないか。どんな人生を歩めば、どうやって育てられれば、この状況でそんな感謝の言葉を言えるんだよ。未成年ながら村長代理が務まるだけの器を持っていると思えた。
「だから、これは村人全員の総意と思ってください。改めて心より感謝します。ありがとうございました」
村人たちも思うことがあるだろうに。アデルに言われたからか、一斉に頭を下げてくれた。しかも不気味なほど怒りや恨みのような感情を持っているようには見えない。ただただ悲壮感漂う表情を浮かべている。まぁ、そんな気力も残っていないのかもしれないが。
だが、それを俺が指摘しても良い展開には絶対にならない。それならば、こう答えるしかない。
「そうか……皆がそう言うのなら、俺も前向きに考えさせて貰う。せめて村の復興を手伝ってもいいかな?」
復興というか、何もかも残っていないのだから新しく作ることになる。でも気持ち的には復興なのだ。土地が変わって、建物も変わって、顔ぶれも減ってしまったかもしれない。だからといって全く別物になることもない。この子がいて、生き残った人たちがいる。それならば、ほら、どこに村を作ろうがきっと大切な何かは変わらないはずだ。そう俺は信じることにした。
「我が君。恐れながら、人間は汚く、醜く、仲間すら簡単に見限る軟弱者ばかり。我が君のような聖人は滅多にいません。そのような悪鬼共など、もう放っておいても良いではありませんか」
これに誰よりも早く待ったをかけてきたのはウロボロスだった。やはり、俺と出会う前に受けたトラウマは相当に根が深いらしい。当り前か。設定文の影響もあるのだろうが、よく俺には心を開いてくれていると思うよ。普通、あんな目に遭ったら人間全てを目の敵にして殺して回っても不思議じゃないんだから。
でも、だからといってその言い分全てを認めてあげる訳にはいかない。今のウロボロスには直ちに命の危険なんてない。でもこの人たちはそうではない。あの頃のウロボロスよりは軽い状態かもしれないが、それでも放置すれば死んでしまうだろうから。
「ウロボロス、怒るぞ? その苦しさを知っているお前が、いの一番に力になってあげないでどうする? 悲しみを繰り返すつもりか?」
「……申し訳ありませんでした」
この世の終わりみたいな顔をして落胆するウロボロスを見て胸がチクリと痛んだ。少し言い過ぎただろうか。ウロボロスの抱えている事情は誰よりも一番理解してあげなくちゃいけないのにな。これでは突き放したように聞こえるかもしれない。
くそ、良い言葉が思い付かなかった自分が憎い。吐いてしまった言葉は戻せない以上、せめてフォローしておかなければ。
「例えばそうだなぁ……お前だって、万が一俺が死んだらあぁなるだろう?」
「死にます」
「……はい?」
間髪入れず、とはこのことだろうか。余りにも早い返答に、全く意味がわからず、思わず聞き返してしまった。
対して、ウロボロスは極めて真面目な顔付きで繰り返してくれる。
「死にます。我が君のいない世界はもはや偽り。死後の世界があると確信し、どこまでもお供致します」
軽い調子でもなければ、頬を赤らめもしない。どこまでも真剣。それが当たり前だと、覚悟などとうに終えていると、そうひしひしと伝わってきた。
自分たちに置き換えて話を進めようと思ったんだが、どうやら俺をネタにするとこうなってしまうらしい。それだけウロボロスの思いが強いということだろう。嬉しいことなんだが、困ったな。余りにも驚いて例えの続きを思い出せなくなってしまった。
「そもそも、我が君に死などあり得ませんから」
「あ……あぁ、悪い例えだったかもしれない。すまない。あー……その、なんだ。とにかく、お前の気持ちはわかっているつもりだ。でも、それと目の前の問題は別なんだよ。難しいとは思うけどな、一緒に乗り越えていこう」
「我が君……はい」
何とか言い繕ってまとめてしまったが、辛うじて頷いてはくれた。これではフォローにも根本的な解決にもならないけど、今はこれくらいで終えておこう。下手に墓穴を掘りたくないし、何よりウロボロスに元気を出して貰うことはできたんだ。
「矮小な人間の分際で――!」
「――待て、ウロボロス!」
その発言を全力で止める。そんなことを言われたら関係が致命的に修復不可能になってしまい、せめてもの手助けすら拒絶されるようになってしまっただろう。
幸いにも止めるのはウロボロスだけで良かった。カルマは興味ないのか帰っちゃったし、アザレアは隣で俺に熱い視線を送るだけだし、フェンリスは可愛いし、ムラクモは黙して動かない。
ただ、何とか間に合ったとは口が裂けても言えない。ウロボロスはしっかりと侮蔑の言葉を発してしまっている。重苦しい空気が一層重くなったような気がした。
「あの……」
そんな居たたまれない場を壊してくれたのはあの子だった。俺たちが村へ行く直前に話していた子だ。泣き腫らした顔と真っ赤な目が痛々しくて、思わず目を背けそうになってしまう。
「私、この村の代表代理をしているアデルと言います。助けてくれてありがとうございました」
村長代理だと。思わず辺りにいる大人たちを見渡すが、誰も異を唱えない。村長は騎士たちに殺されてしまったのだろうか。それで娘か孫かが代理をしていると。それにしても未成年じゃないのか、この子。それなのに、あんな辛そうな顔をしながらも村人たちを代表して深々と頭を下げてくれた。
一方で俺は何だろう。頭に血を上らせて、取り返しの付かないことをしただけじゃないか。もっとやりようはあったはずなのに良い気になって。
「すまな――」
「――謝らないでください。先に言っておきますね」
釘を刺された。そうか、俺には謝る資格すら無いってことか。なんて絶望しそうになったが、そうではないらしい。まるで俺の考えを読んでいるかのように、アデルは首を横に振ってから言葉を続けてくれる。
「確かに村が無くなったのは……悲しいです。その……みんなの遺体とすら会えないのも正直に言うと辛いです。でも、あんな風にされてしまった村を見たら絶望して何もできなくなったかもしれません。いっそ無くなった方が良かったと思います。だから誤解しないでください。決して恨んでいる訳ではありません。私たちは心から感謝したいのです」
この子、俺なんかより遥かに大人びているじゃないか。どんな人生を歩めば、どうやって育てられれば、この状況でそんな感謝の言葉を言えるんだよ。未成年ながら村長代理が務まるだけの器を持っていると思えた。
「だから、これは村人全員の総意と思ってください。改めて心より感謝します。ありがとうございました」
村人たちも思うことがあるだろうに。アデルに言われたからか、一斉に頭を下げてくれた。しかも不気味なほど怒りや恨みのような感情を持っているようには見えない。ただただ悲壮感漂う表情を浮かべている。まぁ、そんな気力も残っていないのかもしれないが。
だが、それを俺が指摘しても良い展開には絶対にならない。それならば、こう答えるしかない。
「そうか……皆がそう言うのなら、俺も前向きに考えさせて貰う。せめて村の復興を手伝ってもいいかな?」
復興というか、何もかも残っていないのだから新しく作ることになる。でも気持ち的には復興なのだ。土地が変わって、建物も変わって、顔ぶれも減ってしまったかもしれない。だからといって全く別物になることもない。この子がいて、生き残った人たちがいる。それならば、ほら、どこに村を作ろうがきっと大切な何かは変わらないはずだ。そう俺は信じることにした。
「我が君。恐れながら、人間は汚く、醜く、仲間すら簡単に見限る軟弱者ばかり。我が君のような聖人は滅多にいません。そのような悪鬼共など、もう放っておいても良いではありませんか」
これに誰よりも早く待ったをかけてきたのはウロボロスだった。やはり、俺と出会う前に受けたトラウマは相当に根が深いらしい。当り前か。設定文の影響もあるのだろうが、よく俺には心を開いてくれていると思うよ。普通、あんな目に遭ったら人間全てを目の敵にして殺して回っても不思議じゃないんだから。
でも、だからといってその言い分全てを認めてあげる訳にはいかない。今のウロボロスには直ちに命の危険なんてない。でもこの人たちはそうではない。あの頃のウロボロスよりは軽い状態かもしれないが、それでも放置すれば死んでしまうだろうから。
「ウロボロス、怒るぞ? その苦しさを知っているお前が、いの一番に力になってあげないでどうする? 悲しみを繰り返すつもりか?」
「……申し訳ありませんでした」
この世の終わりみたいな顔をして落胆するウロボロスを見て胸がチクリと痛んだ。少し言い過ぎただろうか。ウロボロスの抱えている事情は誰よりも一番理解してあげなくちゃいけないのにな。これでは突き放したように聞こえるかもしれない。
くそ、良い言葉が思い付かなかった自分が憎い。吐いてしまった言葉は戻せない以上、せめてフォローしておかなければ。
「例えばそうだなぁ……お前だって、万が一俺が死んだらあぁなるだろう?」
「死にます」
「……はい?」
間髪入れず、とはこのことだろうか。余りにも早い返答に、全く意味がわからず、思わず聞き返してしまった。
対して、ウロボロスは極めて真面目な顔付きで繰り返してくれる。
「死にます。我が君のいない世界はもはや偽り。死後の世界があると確信し、どこまでもお供致します」
軽い調子でもなければ、頬を赤らめもしない。どこまでも真剣。それが当たり前だと、覚悟などとうに終えていると、そうひしひしと伝わってきた。
自分たちに置き換えて話を進めようと思ったんだが、どうやら俺をネタにするとこうなってしまうらしい。それだけウロボロスの思いが強いということだろう。嬉しいことなんだが、困ったな。余りにも驚いて例えの続きを思い出せなくなってしまった。
「そもそも、我が君に死などあり得ませんから」
「あ……あぁ、悪い例えだったかもしれない。すまない。あー……その、なんだ。とにかく、お前の気持ちはわかっているつもりだ。でも、それと目の前の問題は別なんだよ。難しいとは思うけどな、一緒に乗り越えていこう」
「我が君……はい」
何とか言い繕ってまとめてしまったが、辛うじて頷いてはくれた。これではフォローにも根本的な解決にもならないけど、今はこれくらいで終えておこう。下手に墓穴を掘りたくないし、何よりウロボロスに元気を出して貰うことはできたんだ。
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