魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第11話 ウロボロスの愛 2

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 とんでもないことをしてしまった。カルマは何も悪くない。むしろ俺を介抱してくれて、そして記憶が確かならば、ウロボロスのことも何とかしてくれた恩人であるはずなのに。

「そう心配せずとも、ウロボロスは消えてなくなったりはしておらぬ」
「そ……そうか」

 こんな酷い仕打ちをしてしまったというのに、カルマは痣が残ってしまった肩を全く気にする素振りも見せず、優しい口調で教えてくれた。
 良かった。カルマには悪いけど、何よりもまず最初にそう思ってしまった。我ながらかなり切羽詰まっていたのだろう。良い返事を聞くや否や体の力が一気に抜けてしまったらしく、ベッドへ大の字に倒れ込んでしまう。

「だ、大丈夫かのう?」
「あぁ……カッコ悪いところを見せちゃったな。ありがとう。それと、その……肩。ごめんな?」
「うむ、それは気にする程のものではないのじゃ」

 本当はすぐにでもウロボロスの容態を聞きたい。というより、場所を聞いて飛んで行きたい。強く、とても強くそう思っているものの、流石にそれではカルマに対してあんまりだ。自分の願望ばかり優先させるのではなく、カルマへの感謝と謝罪をしっかりと伝えてからでなければ。

「いや、本当に済まなかったと思っている。ごめんな」
「ふむ……ならば、それについては水に流そう。それよりも気になっていることがあるじゃろう?」

 俺はこれでも今の自分にできる最大限の感謝と謝罪をしたつもりだが、正直なところ、全然気持ちが篭っていない気がしてならない。だからこそ思ってしまう。敵わないな、カルマには、と。そんな俺の最低なところまで察しておきながら、全てを受け入れてくれて、その上で俺の望みを叶えてくれると言っているんだ。これまた最低なことだが、今は、この気遣いをただただありがたいと思ってしまっている。ウロボロスのことが気がかりで、気がかりで、頭がおかしくなってしまいそうだから。

「ならその……ウロボロスの容態を教えてくれないか?」
「疲労が原因じゃろうて。既に自室で休んで貰っておるのじゃ」

 疲労。そうか、疲れて倒れてしまったのか。それもそれで駄目なんだが、人が溶け出す怪現象の犠牲になっていないとわかっただけでも一安心だ。まだ原因の究明ができていないあれに巻き込まれたら、どうやって助ければいいのか全くわからなかったから。もしもの場合を考えれば考える程に、頭がおかしくなりそうだった。本当に良かった。
 そんな俺の顔を覗き込んでいたらしい。らしい、というのは、気が付くとカルマの顔がすぐ真上にあったからだ。いつの間にそこにいたんだろう。そんな風に思った時には、カルマはこんな質問をしてきた。

「なぜウロボロスが倒れたのか、わかるかのう?」

 妙な質問だな。さっき自分で疲労が原因と言っていたではないか。まさか嘘だったりするのだろうか。いや、普段の日常会話ならいざ知らず、この手の内容で嘘を吐くような奴は1人もいないはずだ。わからない。カルマが何を意図しているのか、さっぱりわからない。

「疲れちゃったんだろう? 疲労って言ったじゃないか」
「うむ、それはそうなのじゃが、その原因と言えば良いかのう?」

 なるほど、疲れた原因に心当たりはあるか、と聞きたかった訳か。それならそうと言ってくれればいいのに。理由は簡単、単純に仕事を任せ過ぎたんだろう。大体にして俺が集中して作業している間中、ずっと隣にいて貰ったのが間違っていた。いくらウロボロスの尋常ではない強い希望によることだったとしても、そんな暇があるのなら、もっと他にやらねばならないことをさせてあげれば良かったし、休ませても良かった。今回の一件はお互いにいい薬になっただろう。もう倒れないためにも、という理由を付けて今後はそうしていけばいい。

「理由は簡単。仕事を任せ過ぎたせいだ。あいつ自身の仕事もあるのに、俺のサポートばかりをさせてしまっていたから、休める時間が本当に少なかったんだと思う」
「魔王様……苦言を呈させて貰うが、それは半分近く……いや、それ以上に違うのじゃ」

 違うだと。他に何があるっていうんだ。俺の経験則から言っても、倒れてしまうおおよその原因は仕事。それも常軌を逸している仕事量。これしかないと思ったのに。
 他にあるとすれば、いや、そんなレベルではないか。倒れると聞いて真っ先に思い付くのは人間関係だ。でもウロボロスには絶対に当てはまらないと思ったから、自然と除外して考えてしまっていた。
 だってさ、あり得るだろうか。あんなに皆と楽しそうに接して、暴走気味に俺へ突っ込んで来て、あれで辛いことがあるのだろうか。いや、待てよ。そう思っているのは俺だけで、ウロボロスは負担に感じていたのだろうか。俺たちとの関係を。俺の側にいてくれることを。

「あの……まさかとは思うけど、ウロボロスって、その、俺と一緒にいるのを嫌がっていたのか?」
「それだけは絶対にないのう。あやつは魔王様のことをこの世で最も愛しておる。これは紛れもない事実じゃ」

 そ、そうか、と少し気圧されながらも、なぜかスッと納得してしまう。どんな狙いがあったのか未だにわからないものの、あれだけウロボロスにズバズバと物を言っていたカルマが、恐いくらい真剣な面持ちで言ってくれたのだ。ウロボロスに延々と好きだと聞かされるよりもずっと信じられる。そんな気がする。
 だが、そうだとするとまた問題にぶち当たってしまう。カルマは半分以上違うと言っていた。人間関係に悩んでいなかったのは素直に嬉しいが、他に何があるのだろう。
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