魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
59 / 176
第1章 偽りの騎士

第11話 ウロボロスの愛 1

しおりを挟む
 呆然と黒曜石の天井を見つめていた気がする。どれくらいそうしていただろう。頭が重くて、喉がカラカラに乾いて、腰が痛む。ようやく起き上がれた。そんな気がするくらいに倦怠感が凄まじい。まだ頭がボーっとしているが、あの時の事をうっすらと思い出し始める。

「誰でもいい、ウロボロスを! 何とかしてくれっ!」

 もっとも、詳細をはっきりと思い出すことはできそうにない。それでも漠然と覚えていることをそのまま思い出せば、急にウロボロスが倒れた。まさか、あの現象の被害に遭ったのではないか。そんな恐怖を抱いて、盛大に取り乱して、それから、それから。あれ、何がどうなったんだっけ。確か、そう、託したんだ。気が付くとオラクル・ラビリンスに戻っていて、カルマと会った気がした。

「お目覚めかのう?」

 横から声がして、見るとカルマの顔があった。とても近い。密着の一歩手前と言っても過言ではないくらい近くて、吐息がかかってしまうくらいの距離しかない。どうして隣にいるんだろう。あの後、何があったんだっけ。そんなことを考えながら何となく視線を落としてみれば、

「な……何をしているんだっ!?」

 思わず飛び退いてしまう。なぜかカルマは裸だった。かけ布団すらまとっていない、生まれたままの姿だった。何があった。俺とカルマの間に何があった。わからない。思い出せない。でも、これだけは誓って言える。間違いは犯していない。俺にそんな度胸は無い。無い、無いはずだ。その証拠に、ほら、と自分の体を見てみれば、あれ、どうしてだろう。俺も裸なんだけど。嘘、嘘だ。まさか、いや、あり得ない。
 もう何もかもわからないことだらけで混乱していると、カルマは小悪魔のようにニヤリと笑った。

「昨夜は激しかったのう」
「な……何がだっ!? い、いや、待て! 待ってくれ! 言うな、頼むからみなまで言うんじゃないぞ!」

 思い出せ、俺。自分自信の身の潔白を証明するために、ほら、思い出すんだ、あれから何があったのかを。だが、必死に頭を回転させているつもりなんだが、肝心なところが全く出て来ない。どうせあれだろ。ウロボロスを託して、たぶん、いや、絶対に何とかなったからこそ、一気に力が抜けて倒れてしまったのだろう。そうだ、思い出した。俺は少なくとも丸1日は寝ていなかった。気が抜けてしまえば死んだように眠ってしまうのは当り前じゃないか。

「そうだ、俺は寝ちゃったんだ。そうだろ? なぁ、そうなんだろ!?」

 カルマは、これまた悪そうにニヤリと笑みを浮かべる。そしてそのままの表情で黙り込んでしまった。
 何なの、この間は。あれか。初めてを共に過ごしてしまった相手が、気まずくて適当に流そうとしているのを見て、幸せを噛みしめながら微笑ましく眺めている。そんな感じか。そうなのか。

「うむ、激しかったぞ、イビキが。よほど疲れておったのじゃな」
「な……なんだ、脅かすなよ……」

 やっと発表された答えを聞いて、思い切り大きな溜息を吐いてしまう。良かった、本当に良かったと、とても安心してしまう。安心。そういえば、どうして安心するんだろう。変な話、俺は皆の主のはずだ。好意を持たれているのだから、その、そういう欲望をぶつけても誰にも咎められないはず。いや、いやいや、何を馬鹿なことを。皆をそういう目で見ちゃいけないだろう。主なんだから。
 なんて自分自身を説得に近い言い分で落ち着かせる。すると、あの時の光景がフラッシュバックする。ウロボロスが倒れた時の光景が。そうだ、俺の貞操ななんかどうでもいい。

「じゃなくて! そんなことはどうでもいいんだよ! それよりもウロボロスは大丈夫なのか!? どこにいる!?」

 何を呆けていたんだ、俺は。今一番大切なのはウロボロスの安否じゃないか。あいつはどこだ。ちゃんと生きているのか。生きていたとして、何か変な病気や状態異常で苦しんでいないだろうか。そもそもどうして倒れたんだ。わからない。クリスタル・バニッシュExはきちんと常時展開されているはずだったのに、なぜその恩恵を受けられなかったのか理解できない。

「落ち着くのじゃ、魔王様」
「わ、悪い……っ!」

 胸に手を押し当てられて、優しく止められて気が付く。カルマの両肩を強く握り締めていたらしい。慌てて手を離すと、ヴァンパイアのため元々やや青白い肌がより一層青くなってしまっている。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...