162 / 176
第2章 暁の竜神
第9話 ナディアの取る道 2
しおりを挟む
それはさておき、肩を落としているレヴィに悪いと思ったナディアは、目尻に浮かんだ涙を拭って居住まいを正す。そして代表としての顔つきになると、正解を発表した。
「答えは、いつまで待てばいいのか教える、です。それらしい理由も付ければなお良いですね。子どもでさえただ駄目と言われるのではなく具体的に延期すれば、案外、納得してくれるものではありませんか?」
そうだろうかと、レヴィは小首を傾げた。自分の小さい頃を思い出せば、どうしても欲しいとなったら、その時に手に入るまで絶対に納得しなかった気がしていた。もしかしたらこの話はナディア自身の経験談なのかもしれない。まぁ、それはさておいて、だ。これはまさに、さっきナディアが唯一下した命令そのものではないか。3日後に開戦する。その意図は、決して準備だけではなかった。
「まさか、3日後って言ったのは!」
「そうです。開戦まで3日空けました。逆に言えば、その3日間は戦闘が起こりません。今の私にできる精一杯の引き止めですね」
そう、あの戦いを求める空気は何があっても変わらない。ならば明確なゴールを示せばいい。老若男女問わず、具体的な日時を知ればそれまで我慢して待てるものだと、そう確信した上での宣言だったのだ。中には子どものように待てないとごねる者もいたかもしれない。でも開戦までにしっかりと準備を、と言われては無理にでも納得するしかない。仮にも大人で組織の一員だからこそ絶対に有効な遅延策だった。
「と、咄嗟にそんな気転が利くなんて……流石はナディアだなぁ」
あの時、レヴィはただただ面白くなかった。泣きべそをかきながら、頭の中でローレンをボコボコにして、何とかフォーマルに振る舞えていた。
しかしナディアは違う。彼女もまた内心苛立っていたものの、次へと繋がる一手をきちんと打っていた。ただやられて悔しがっていただけのレヴィとは全然違う。
「さて、こうして稼いだ3日間です。有効に活用させて頂きましょう。レヴィ、今だけは色々と目を瞑ってくださいね?」
「……こういう時じゃなくても、随分と大目に見ているつもりだけど?」
そう、ナディアは代表ではあるが、王のように厳重に守られる立場だ。間違っても街へ降りるなど許されない。基本的に様々な政務で缶詰め状態。たまに式典や宴会に参加させられる日々を送っている。先日の竜神祭だってそうだ。あの神輿の上に座り、延々と街を練り歩かせられる。そのはずだった。本当のところはこっそりと身代わりを立てて街を散策していたのだが、それは2人と極一部の者以外には絶対に秘密だ。
「はて、何のことかわかりませんが?」
もっとも、その外出は自身の娯楽や息抜きのためというよりも、竜人たちや街の様子を見るためである。レヴィですらそう思うしかない程に、ナディアは本当に散策するだけなのだ。道路の補修状況、古くなっている設備はあるか、自然の様子などの確認は勿論、何より竜人たちの声によく聞き耳を立てている。そんな事をせずとも多数の報告が上がってきている。しかしその多くは聞こえが良いように改悪されたものばかりだ。真に彼らが望むことは何か。どうすれば紅竜同盟はもっと早く復興でき、そしてより良い発展を遂げられるか。ナディアはそればかりを考えて抜け出すのである。
ただ、その外出自体は悪いことだと耳にタコができる程に言われ続けているため、ナディアはこうして惚けて見せているのである。
「ふふ、それはそうと親衛隊の隊長様の御墨付きです。少々、冒険といきましょうか」
「ちょ、ちょっと待ってよ。冒険って……何をするつもりなの?」
普段から何かと危なっかしいところがあるナディアだ。外出にしたって、大雨で氾濫しそうな川や噴火寸前の火口へ行ってしまうこともある。そんな危ない場所にすら「ちょっと抜け出しました」と澄まし顔で言ってしまうナディアが、冒険と表現した。しかも、今回はそんな些細な状況とは訳が違う。何とか獲得した3日の使い道でもあるのだ。何を言い出すのかと、レヴィは生唾を飲んで待つ。
「決まっているではありませんか。遠出の準備をお願いします」
「と、遠出って……だから、どこに?」
その時だった。ジャリ、と砂を踏み締めるような音がする。レヴィが振り返ると、そこには見知った顔が2つあった。紅蓮牙竜隊隊長のメグと紅蓮魔導隊隊長のナーガである。
「答えは、いつまで待てばいいのか教える、です。それらしい理由も付ければなお良いですね。子どもでさえただ駄目と言われるのではなく具体的に延期すれば、案外、納得してくれるものではありませんか?」
そうだろうかと、レヴィは小首を傾げた。自分の小さい頃を思い出せば、どうしても欲しいとなったら、その時に手に入るまで絶対に納得しなかった気がしていた。もしかしたらこの話はナディア自身の経験談なのかもしれない。まぁ、それはさておいて、だ。これはまさに、さっきナディアが唯一下した命令そのものではないか。3日後に開戦する。その意図は、決して準備だけではなかった。
「まさか、3日後って言ったのは!」
「そうです。開戦まで3日空けました。逆に言えば、その3日間は戦闘が起こりません。今の私にできる精一杯の引き止めですね」
そう、あの戦いを求める空気は何があっても変わらない。ならば明確なゴールを示せばいい。老若男女問わず、具体的な日時を知ればそれまで我慢して待てるものだと、そう確信した上での宣言だったのだ。中には子どものように待てないとごねる者もいたかもしれない。でも開戦までにしっかりと準備を、と言われては無理にでも納得するしかない。仮にも大人で組織の一員だからこそ絶対に有効な遅延策だった。
「と、咄嗟にそんな気転が利くなんて……流石はナディアだなぁ」
あの時、レヴィはただただ面白くなかった。泣きべそをかきながら、頭の中でローレンをボコボコにして、何とかフォーマルに振る舞えていた。
しかしナディアは違う。彼女もまた内心苛立っていたものの、次へと繋がる一手をきちんと打っていた。ただやられて悔しがっていただけのレヴィとは全然違う。
「さて、こうして稼いだ3日間です。有効に活用させて頂きましょう。レヴィ、今だけは色々と目を瞑ってくださいね?」
「……こういう時じゃなくても、随分と大目に見ているつもりだけど?」
そう、ナディアは代表ではあるが、王のように厳重に守られる立場だ。間違っても街へ降りるなど許されない。基本的に様々な政務で缶詰め状態。たまに式典や宴会に参加させられる日々を送っている。先日の竜神祭だってそうだ。あの神輿の上に座り、延々と街を練り歩かせられる。そのはずだった。本当のところはこっそりと身代わりを立てて街を散策していたのだが、それは2人と極一部の者以外には絶対に秘密だ。
「はて、何のことかわかりませんが?」
もっとも、その外出は自身の娯楽や息抜きのためというよりも、竜人たちや街の様子を見るためである。レヴィですらそう思うしかない程に、ナディアは本当に散策するだけなのだ。道路の補修状況、古くなっている設備はあるか、自然の様子などの確認は勿論、何より竜人たちの声によく聞き耳を立てている。そんな事をせずとも多数の報告が上がってきている。しかしその多くは聞こえが良いように改悪されたものばかりだ。真に彼らが望むことは何か。どうすれば紅竜同盟はもっと早く復興でき、そしてより良い発展を遂げられるか。ナディアはそればかりを考えて抜け出すのである。
ただ、その外出自体は悪いことだと耳にタコができる程に言われ続けているため、ナディアはこうして惚けて見せているのである。
「ふふ、それはそうと親衛隊の隊長様の御墨付きです。少々、冒険といきましょうか」
「ちょ、ちょっと待ってよ。冒険って……何をするつもりなの?」
普段から何かと危なっかしいところがあるナディアだ。外出にしたって、大雨で氾濫しそうな川や噴火寸前の火口へ行ってしまうこともある。そんな危ない場所にすら「ちょっと抜け出しました」と澄まし顔で言ってしまうナディアが、冒険と表現した。しかも、今回はそんな些細な状況とは訳が違う。何とか獲得した3日の使い道でもあるのだ。何を言い出すのかと、レヴィは生唾を飲んで待つ。
「決まっているではありませんか。遠出の準備をお願いします」
「と、遠出って……だから、どこに?」
その時だった。ジャリ、と砂を踏み締めるような音がする。レヴィが振り返ると、そこには見知った顔が2つあった。紅蓮牙竜隊隊長のメグと紅蓮魔導隊隊長のナーガである。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる